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第十二話 出奔(2)

 暗い街灯とごみ箱、裏道から見える向こう側に長く伸びる大きな街特有の整備された道、ざっと視線を滑らせてまた急かした。本当にあいつらが捜しに来そうで気が急くのは仕方ない。


 おもむろに剣をすらりと引き抜く。その瞬間、光が走った。突然に、暗闇に稲妻の如き、雷鳴はないが。目の眩む輝きのあと、また夜が支配した。朝は近いが、まだもう少し。


「よ~し! これならもうオッケーでしょ」


 小さく呟く可愛らしい声。ぶかぶかのブーツサンダル、ずり下がるズボンを腰紐でぎゅっと絞り直し、足が見えるまで裾を巻いていく。床につきそうなほどのチュニックの裾がまた邪魔だった。


 身支度を済ませ地に置いていた剣を背負おうと両手で掴む。大きな大きな剣。握る手は可愛らしい少女のものだった。下を向いた拍子にばさりと顔にかかるフードと白金(プラチナ)の髪が煩わしいのか、片手で雑にかきあげる。やっと要望に応えてもらいほっとした、その時。


 がたん、からから。


 乾いた何かが落下した音がした。思わず音の方角を見てみれば、からからと地面を転がる……。


「ご、ごみ箱の、フタ……?」


 なんてことでしょう。そのフタを弾き飛ばす突風が吹いたわけでもなく、かといって悪戯っこなんらかの小動物の姿もなく。


 代わりにそこにいたのは、紛れもなく隠れ切れていない人間の頭。橙のうすぼんやりした街灯に照らされたごみ箱の間に、その頭はちょこんと浮かび上がっていた。


 美しかった女、いや今や年端もいかぬ少女は、ダラダラと幼くなっても美しく整ったその顔面にどこから湧き出したのか大量の汗を流し、ひゅっと喉を鳴らすと、くるりと反転した。そしてそのまま脱兎の如く走り出し、その場を後にした。


 あの暗さに角度、顔は見られていないはず。そしてここは大きな街。意図せずして会うには約束なるものが必要だ。ならば、口封じに手荒なことをするよりも、ここは逃げ一択だろうて。そうだよな? そうだって。そうだって言って!!


────


 大きすぎる剣が少女の背中で右に左に揺れながら、少女は見えなくなった。足音が遠くなり、その姿が見えなくなったのをそっとごみ箱の陰から確認したアシュリーが、座り込んだまま長く長く息を吐いた。


 その顔は先ほどの美少女と同様に青冷めていた。思わず口にやった両手を下げる気にもならない。


 あれは一体どういうことなのか。何かがきらりと光り目が眩んだあと、あの人が子供になったように見えた。見間違いだろうか。いやそんな、だとしたらどうやって? まさか、物語の中でしかでてこない魔法だとでも?


 アシュリーはハッとした。こんな非現実な現象を目撃してしまうなんて。もしかしなくても誰かのとんでもない秘密を知ってしまったのかも? そうであれば誰かに話す気などないので、どうかこのまま何もありませんようにと少女が走り見えなくなった方角へ両手を合わせて必死に祈った。今日は本当に色んなことに遭遇する。


「でも、こんなに暗がりなのに、きらきらとても綺麗な人だった……。あんな人この街では見たことのない。旅の人だよね……ん?」


 考えてふと気付いた。おかみさんの声がアシュリーの頭の中で話し出す。


『しかしあの剣士の腕にはびっくりしたね。賞金稼ぎだって言ってたけど、ありゃ間違いなく最高ランクの剣士さ。あたしの仲間(パーティ)にだってあれほどの腕はなかなか……。あんな常人離れした容姿で生臭い生業(なりわい)、訳ありかね……』


 肩を貸してもらい馬車まで向かう間、確かにおかみさんはそう呟いていた。その賞金稼ぎが来てくれなかったら、自分はどうなっていた? 考えなくても明白だ。おかみさんは常人離れした容姿と言っていた。あれだけの器量、街で噂にならないはずがないのに、商売人のおかみさんも知らない人間。それは外部の人。それも最近来たであろう……。


 つまり、先ほど旋風のように去っていったあの女性、いや少女が、もしかしなくとも自分の命の恩人なんじゃ?


 繋がった瞬間、晴天の霹靂のように自分も雷に打たれた気がしたアシュリーだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここまで読みました! 描写が細かく迫力があって読んでるこっちまでドキドキするような素敵な文章が印象的でした! 賞金稼ぎだと名乗りあげるシーン然り、続きを読みたくなる切り方が上手くてあっとい…
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