新手の商売
「うーん、何か新商品のアイデアは無いものか」
S博士が悩んでいると、助手のOが話しかけてきました。
「あの」
「なんだ、またゴキブリでも出たのか?」
「はい、その通りです」
「またか。いい加減、困ったものだな。ゴキブリホイホイは効果が無いのか?」
「いえ、どうやら、それを上回る量のゴキブリがやってきているらしくて」
「なるほど、それは弱ったな。彼奴らときたら、何処にでも潜り込み、気が付けば側にいる」
「そうですね。電子機器に卵でも植え付けられたら、ショートして故障してしまいますし」
「どうしたものか」
S博士は暫く考え込んだ挙げ句、ポンと手を叩いた。
「そうだ、ゴキブリを逆に利用しよう」
「どういう事ですか、博士?」
「数に困っているのなら、ゴキブリを使って新商品を作れば良いんだよ。これだけ優秀なのに、大勢の人間に嫌われ、大量にいる生物は他にないだろ。しかも、奴等は勝手に増えてくれるし、実験体にも困らない。これを利用しない手はない」
「なるほど。少し気持ち悪いですが、具体的にはどういった発明を考えていらっしゃるのですか?」
「うむ。今思いついたのだが、小型のカメラを植え付け、産業スパイをさせるというのはどうだろうか」
「それで盗み出した製薬会社や食品会社のデータを、ライバル会社に売りつけるんですね」
「いや、その方法だと同時に敵も作りやすい。我々は、ゴキブリを使ったスパイ技術を、各会社に少量ずつレンタルする方法にする」
「なるほど、彼らを争わせ、その間に我々が大金をせしめるという事ですね。しかし、ゴキブリがこっちの思い通りの情報を入手してくれますかね」
「それは大丈夫だろう。彼らは行動遺伝子の伝達率が非常に高いから、繰り返し訓練すればある程度コントロールできる。それでは早速、取りかかろう」
そして、その技術は完成した。
「これで我々は大金持ちになれるぞ。いや、もしかしたら世界の情報を支配できるかもしれない」
「そうですね、博士」
「早速、実験してみよう」
S博士は大量のゴキブリ達を、某製薬会社の近くで解き放った。
だが、一匹も返ってくる事はなかったのだ。
これにはS博士と助手のOも困ってしまった。
「どういう事なんだろ」
「確かに、発明は成功した筈なんですが……」
二人が困り果てていると、コンコンと研究所をノックする音がした。
S博士はその人物を中に招き入れた。
「どちら様でしょうか?」
「私はとある会社の顧問弁護士です。あなた方はある特許を侵害されました。つきまして和解金を支払っていただきたいのですが」
「ちょ、ちょっと待ってください。私達は、そんな事はしていませんよ」
「ゴキブリに生体カメラを植え付けたのは、貴方達ではないのですか?」
「いえ、それは、そうですが……」
「やはり。ずっとマークしていて正解でした」
「私達を監視していたのですか!」
「ええ。そんな事より、その技術は我が社によって特許申請されていますし、実際に販売もしているんです。貴方達は、その技術を侵害したのですよ。我々は、これを深刻な事態だと判断し、50億ドルの示談金を提示していただきたいと考えています」
「な、なんですって!」
「ちなみにゴキブリの動きを管理する方法、ゴキブリを効率よく飼い慣らす方法、ゴキブリを効率よく飼育する方法、も特許侵害されています。それらの分は後ほど要求しますので――」