*15-2
その日の晩、案の定初雪になり、そしてそんな冷え込む中をコートも着ずに走ったせいで僕は年末年始風邪をひいて寝込んでいた。
風邪をひいてよかったのは、それを口実に実家に帰らなくてよかったことと、初詣に行かずに済んだことだ。
あの放課後、浅間はあの女子生徒と初詣に行く約束をしていたから、万が一でもどこかで遭遇しかねないと思ったからだ。
女の子と仲睦まじく楽し気に歩く浅間の姿は何とも容易に想像でき、とても似合っている気がする。
(ああ、やっぱり彼の隣にはそういう子がいる方がいいんだ……間違っても、僕じゃない……)
浅間と女の子が連れ立って歩く姿を、夢に見てしまうほどリアルに想像してしまう日が続いたからか、何故かよく寝付けず、年が明けて仕事始めになっても具合はすっきりしないままだ。
そうこうしている内に授業初日の今日を迎えてしまった。
「では今日はギターの課題曲の発表をして……っげほ、げほ」
新年最初の授業は浅間のクラスで、彼は遅刻もせず始業時から席に着いていた。でもこちらは一瞥もせず、ずっと頬杖をついて窓の外を眺めている……ふりをしている。それぐらいがわかるくらいには、伊達に数か月を密に過ごしてきていない。
(そういうことがわかるくらい、僕は彼を無意識にずっと見つめていたんだろうな……)
今更に気付かされる自分の感情とその素振りを振り返り、顔が火照ってしまいそうだ。
しかしそれを抜きにしても、心なしか目眩がしてまっすぐ立っていられない。身体が重たくて熱くてついピアノなんかに寄りかかってしまう。
「こずえちゃん、風邪?」
「顔色悪いけど大丈夫?」
「大丈夫。ちょっとむせただけ……」
生徒に気遣われるようなことを言われて情けない、せめていまの時間くらいはちゃんと気合を入れて持ちこたえなくては。
そう思い直して顔を生徒たちの方に向けたその時、視界がぐらりと揺れて僕は膝から床に崩れ落ちてしまった。
「こずえちゃん?!」
「誰か、保健室の先生とか呼んできて!」
教室一帯が騒然として悲鳴じみた声が飛び交う。僕の意識は何とかあったので、大丈夫だと言いたかったのだけれど、体が重たくて立ち上がることもままならない。
床に倒れこんだまま指一本も動けない僕を、その時ふわりと持ち上げる感触がした。
誰が抱えているんだろう……そう朦朧とする意識の中薄眼を開けると、見覚えのある涼しげな目元とかち合う。
「俺が連れてく。その方が早い」
耳馴染みある声が僕の鼓膜を震わせた瞬間、包まれるような腕のぬくもりに安心したように意識を手放してしまった。




