第8話 魔法行使
煙が立つ場所へ飛んできたクレリアムは、眼下で広がる光景に鼻を鳴らす。
「災厄ではないのか……どこへ行ったというんだ‼」
呼び出した災厄による被害かと思っていた煙は、連合国軍がエルゼルダン軍の兵をあぶり焼きにしている場面であった。
人間の焼ける臭いが昇り、上空にいるクレリアムは顔を顰める。
自国の軍がどうなっていようと構わない。どうせ災厄の力で自分以外の全てを抹消するつもりだからだ。
戦争の理由や勝ち負けなどもうどうでもいい。王子であることなど知ったことでは無い。
クレリアムは眼下の光景に右手から灼熱の火の玉を出す。それは太陽よりも熱く、この魔法を使用したクレリアム以外のものは近づいただけで蒸発してしまうだろう。
そんな火の玉をクレリアムは躊躇いなく地上へと落とす。
火の玉は重力に従って落ちていき、地面へ落ちる寸前に弾け飛ぶ。
圧倒的な灼熱が一瞬にして周囲を蒸発させた。
実はクレリアム一人だけで、全てを抹消できる力を持っている。しかし、クレリアムに匹敵する力を持つものが世界にはまだいる。だからクレリアムは禁忌の魔術を使って災厄を呼び出したのだ。
自身を遥かに凌ぐ力を持つ者がいれば、自身に匹敵する者など敵では無い。
更地になった地上を睥睨するクレリアム。
災厄がどこへ行ったのか見当がつかない。自分の意向に沿うように動いているかと思ったが、どうやら違ったらしい。
このままどこへ行ったのかが分からなければ、大層まずいことになる可能性が出てきた。




