第1話 キュン死した金持ちお嬢様
もし心から愛する人に両手を握られ「ありがとう」と言われたらどうなるだろうか。
答えは単純。命を落とす。
浮遊感を感じて目を開ける。確か自分は病院のベッドで眠っていたはずだ。
眠っていて、確か愛しのあの人に両手を握られて――。
「駄目ですわ! 思い出しただけで顔から火が出そうですわ!」
煌めくブロンドの縦ロールをバネのように動かしている、黄昏色の瞳を持つ美しいこの少女は望杉香峯子。高校一年生の十五歳。世界の支配者望杉家の一人娘である。
服装はなぜか香峯子の通う高校の制服だ。さっきまで病室にいたはずなのに。
香峯子は、ここはどこだと周囲を確認する。浮遊感を感じているから飛んでいるのか落ちているのか。以前宇宙空間に放り出されたときとはまた違う感覚。
しかし見える景色は数多の星々が散りめき輝く夜空の空。
「ここには来たことありませんわね」
以前キュン死をしてしまい、神なる者のいる場所へ行ったことがあるが、その時は全てが闇の世界だった。
「でもわたくしは病院で……ああん! 思い出しただけで心臓がバクバクドキンドキンですわ! ということは、わたくしは死んでしまったのですわね!」
前とは違うが、記憶を辿ると香峯子は死んだとしか思えない。
それなら神とやらに会えるはずだが、まあそうそう死ぬことなんて無いし以前の経験は当てにならない。
やがて一つの輝く星が香峯子に近づいてくる。近づくにつれ、光は大きく、香峯子を飲み込もうとする。いやんいやんと悶えている香峯子はそれに気づかず、大人しく光へと飲み込まれた。