ツインレイの花嫁 番外編その3「神狼フェンリルについて」
双子ちゃんが産まれて少し経った頃。
二人が眠った後に、私とガウリイルくんはベッドの上で擽り合っていた。
「ふふ、わんわん」
「なんだか本当にわんちゃんみたいで可愛い……」
「クリスからフェンリルみたいに鳴かないで下さい、って怒られちゃったけどね」
また知らない名前が出てきた。
けど、微かに記憶がある。確かフェンリルって神話最強の狼なんじゃなかったっけ。
もしかすると、この世界にも存在するのかと想い聞いてみた。
「ねぇ、フェンリルって狼さんだよね?ここにも実在するの?」
「ううん、フェンリルは消滅したと言われているよ。それに、ここでは神狼フェンリルの話はタブーになっているんだ」
「どうして?神狼なのに?」
「確かに神の眷属ではあったんだけど、邪神に付き添っていたとされているから存在をなかったことにされているんだよ」
邪神というと、あの可愛いルカくんを虐めて殺した悪い神様のことだ。
その神様に付き添っただけで、存在を消されてしまうなんて無慈悲にも程がある。
無慈悲ではあるけど、邪神が完全悪として知れ渡っているのなら当然の対応ではあるから難しいところだ。
「こっそり生き残っているとかは……?」
「社会的に全滅したとされているけど、名前を隠して神狼族の村は存在していると聞いているよ」
「やっぱりあるんだね!どこなのかとかは……?」
「それが……邪神が復活して暴れた大渓谷があるんだけど……そこに村があったようでね。ひとりを除いて、村は壊滅したんだ」
あまりにも酷すぎる。
邪神に付き添っていたのに、その邪神から殺されてしまうなんて踏んだり蹴ったりだ。
けれど、ひとりを除いて、と言っていたから生き残りがいるんだろう。
「その生き残りの人って、今はどこにいるの?」
「エルフ族の末裔であるシェファ様が保護して下さったんだ。今はフィリアの領主であるリーガルのところで大事にされているそうだよ」
「リーガルって誰……?」
「元々は、ブライト王国の騎士団にいてね。第四番隊の隊長をしていた騎士だよ。本来はフィリア王族の第一王子なんだ」
「確か騎士団長もフレイヤの王子様だって聞いたなぁ……」
「よく覚えていたね。えらいよ、ユリア。そう、騎士団長はフレイヤの第二王子なんだ。意外と王族が沢山いたんだよ」
話を要約すると、その人は少女でありリーガルさんのお嫁さん候補として傍に置いているらしい。
名前はグレーテルといい、リーガルさんは知らないようだがフェンリルの生まれ変わりなのではないか、と噂されているようだ。
どんな子なのか妄想が膨らむ。ガウリイルくんの話によると、リーガルさんは可愛いもの好きらしい。
なら、とても可愛らしい子なのだろう。一度会ってみたいところだ。
「ねぇねぇ、ガウリイルくん」
「グレーテルに会いたいんだよね?あと一年くらいかな……その頃になったら、王城に来るから待ってあげてね」
「……なんか、全部わかっちゃってる感じ?」
「ユリアのことだからね」
なんというか、本当にガウリイルくんは私の事をよくわかっていると思う。
良き旦那であり、良きパパだ。
「さぁ、そろそろ眠ろうね。眠れないなら、子守唄を歌おうか?」
「うん、おねがいします……ふぁ……」
「もう寝ちゃいそうだけど……いいよ、目を閉じて、ゆっくり聞いてね……」
まぶたを閉じて、頭上から優しいテノールでの歌が聞こえ始めた。
ガウリイルくんの言うお通りで、私はすぐに寝てしまったけどこんな雑談する日もあっていいと思いました。
(終)