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8、カフェ・タンドレス☆

■■■■■


 ルーチェがエテルネルへ避難した同じ年に、史上最大の嵐が両国を襲った。ルーチェとサンティエが暮らす町や魔法の森は幸いにも直撃しなかった。しかし、国中に被害が及び、復興優先の為に両国は停戦し、そのままの状態が続くことになる。これは史上初の異例事態であり、これを機に世界中で、平和の存続を願う意識が根付いてきていた。


 物語は、ルーチェが魔法の森保護管理員に採用されてから5年が経過した頃……


■■■■■


 魔法学校に通う12歳の少女アルエットは放課後真っ先にカフェ・タンドレスにやって来た。


「サンティエ!

 ブルーシルバーローズティー新作を飲みに来たわよ!」


 ドアのベルをカランコロンと鳴らして、アルエットは速やかにカウンター席に座る。

 胸元にかかった赤毛の三つ編み2本をパッと背中に戻す。


「やぁ、アルエット。

 急がなくてもちゃんと君の分はとってあるよ」

 サンティエはカウンター越しに言った。

 丸眼鏡の形は変わらないが、すっかり小さくなっていた。

 エプロンの胸元には、看板商品のシルバーローズティーのマークが刺繍されている。


挿絵(By みてみん)


 カフェ・タンドレスは、サンティエが大学卒業後に開業した店である。彼は学業の傍ら、アルバイトで経営資金を稼ぎ、調理師免許も取得していた。貿易会社に勤める両親の力を借りつつ、自身で珍しい茶葉や豆や食材を探し、メニューに加えていった。

 気が付けばカフェは、町一番の人気店になっていた。現在は、会社を退職した母親とアルバイトスタッフと一緒に店を回している。


「どうぞ、アルエット。今年のお茶は合格でしょうか?」


 アルエットは青み混じる灰色のお湯が入ったカップをすする。爽やかな苦みと甘い香りが顔中を通り抜けるようだ。


「最高よ! これもいつもの農家さんのところなの?」


「ああ。収穫する時の移動魔法を工夫して、花びらが傷みにくいようにしたらしい。彼らの努力に敬意を示して、いつもよりも高い値段で仕入れたよ。

 だから、例年よりもちょっと高いよ」


「え、そうなの? どうしよう、お金足りるかしら?」

 アルエットは慌てて財布を確認しようとする。

 その様子を見てサンティエは微笑みながら、長身を前に折り畳む。


「心配しないで。君は常連客で、僕の可愛い姪っ子だ。

 今日の分はいつもと同じ値段にしておくよ」


 小声でサンティエは言うと、アルエットは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「そうだ! ルーチェは来てる?」

 アルエットはサンティエに尋ねた。

 

「いるけど。食後の仮眠タイム中だよ。今日はこれから夜勤だってさ」


 サンティエが指さした先は、カウンターの端の席だった。

 座ったまま伏しているベージュ色のジャケットとパンツの女性がいた。

 いびきのような寝息が聞こえている。


「そっかぁ。じゃあ起きたらルーチェに伝えといてよ。

 明日の午後に学校のメンバーで魔法の森に入るの。

 魔法植物を採集して毛虫用睡眠薬を作るのよ」


「分かった。でも危ないことはしない。管理員の言われたことは絶対に守る、だよ」と、サンティエが言った。


「分かっているわよ。ご馳走様!」

 アルエットはその場でコインを出し、会計を済ませた。


「じゃあね、サンティエ! お祖母ちゃん! また来るわね!」


 テーブル客に料理を出していたサンティエの母が「またおいで〜」と言った。


挿絵(By みてみん)


■■■■■


 アルエットのカップを片付けた後、サンティエは寝ているルーチェの方へ行った。ポンポンと彼女の肩を叩く。


「フハッ! 今何時? 遅刻?!」

 ルーチェはガバッと上体を起こした。


「あと15分以内に出れば、遅刻しないかな?」


「ああ、ありがとう。良いタイミングで起こしてくれたね」

 ルーチェは隣に置いていた帽子を被る。

 こげ茶色の髪は肩の位置まで切っており、後ろに一纏めしている。球技クラブに入部していた頃に比べたら落ち着いたが、今も程よく日焼けした肌をしている。


「これから夜勤だと、仕事は終わるのは昼前かな?」


「そうね。だから、明日は少し遅めの昼食を頂きに来るわ」

 ルーチェはジャケットのポケットに手を入れる。すぐに出して別のポケットに入れる。財布を探しているらしい。


「じゃあ、アルエットには会えないかな。明日の午後にアルエットは同級生達と魔法の森に入るらしいよ。

 財布は右胸ポケットだろ?」

 サンティエが言った。彼はルーチェの身の回りのことは大体把握している。


「ああ、そうだったわ。

 え、アルエットが明日森に入るの?」

 ルーチェは財布からお札を取り出しながら言った。


「うん、何か問題ある?」


「最近、森に国外からの犯罪者侵入が増えているのよ。

 立ち入り禁止する程じゃないからって、通常通り申請があれば入れるけど……」


「当日、注意喚起はするだろ? 大丈夫だよ。アルエットは無茶するような子じゃないよ」


「だと、良いんだけどね……」

 そう言いながら、ルーチェはカフェ・タンドレスを出て、職場に向かった。

星影さき様からサンティエイラストを頂きました。さき様、ありがとうございます!

2023/03倉河様からアルエットイラストを頂きました。ありがとうございます(*´ω`*)

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