5、魔法の森害獣駆除体験ツアー
ルーチェは害獣駆除体験ツアーに参加した。
魔法の森入口傍の保護管理局のホールで、ルーチェは他の参加者と共にガイドの説明を聞く。
ベージュのジャケットとオレンジ色のスカーフ。
つばのある帽子は魔法の森保護管理員の証だ。
ガイドの小太りの女性は、テキパキと罠の説明等をする。
「それでは害獣狩猟可能エリアに向かいます」
参加者はルーチェ含めて5名。ルーチェ以外は全員年上のようだが、あまりやる気が無さそうだ。
申込時に「目的は補習ですか?」と尋ねられたので、積極的に参加している学生の方が少ないのだろう。
しかしルーチェはそんなことを気にしない。
ガイドの傍にぴったり付き、誰も聞いていない解説を熱心に聞いていた。
「魔法の森は、隣の敵国ヴィータ王国とも関係があります。森の中にヴィータ王国は無理矢理国境を作りました。私達はそれを取り返すことも、長い間続いている戦争の目的の1つなんですよ」
ルーチェの頭の中に「?」が浮かぶ。
すかさずガイドに質問した。
「魔法の森は、ヴィータ王国が聖なる地として守っていたけど、エテルネル建国の時に川を国境と定めたのでは?」
ルーチェの言葉にガイドが表情を変える。ロクに話を聞いていなかったはずの上級生達も目の色を変えた。
「そういう誤った歴史思想が、時々他国から流れてくるんですよ。気を付けなさい。
正しい歴史を知るべきです。あなたの為にも」
ガイドの眼差しは真剣だった。
ルーチェは黙ることにした。
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目的地に着き、一同はガイドの指示に従いながら罠を仕掛ける。
ガイド含めた6人を2人組にして合計3つの仕掛けを作る。ルーチェはガイドと一緒に作った。終始監視されているような気がした。ルーチェはむしろチャンスだと思い、作業中ガイドに話しかける。
「どうして保護管理員になろうと思ったんですか?
保護管理員になるために努力したことってなんですか?」
ガイドはやや困りながら、上辺だけの回答をした。
「さぁ、木陰に隠れて観察しましょう。
二人ずつ順番にテントで食事もしてください。
食事中は必ずテントの入口を閉めてください。魔獣が寄ってきてしまいますので」
ガイドは小さなテントを指差しながら言った。
上級生二人がテントに向かった。
ルーチェは木の葉に隠れた罠をじっと見つめる。
小型害獣しか捕まえられないが、それでも初めての体験にワクワクしていた。
コォーコォー!
「ウワー!?」
背後で叫び声が聞こえた。
ウッドディアーが角でテントを攻撃していたのだ。
「テントの入口をちゃんと閉めてなかったのね?!」
ガイドは走りながら腕を振る。
「浮きなさい!」
ガイドの魔法でウッドディアーはその場で浮いたが、暴れてすぐ着地してしまった。
ボッ!
今度はウッドディアーの体に火がついた。
ウッドディアーは慌てて逃げようとするが火があっという間に全身を燃やし尽くし、黒焦げの体がバタリと地面に倒れた。
「これは……」
全員、ルーチェを見た。
ルーチェは両手をウッドディアーに向けていた。
「大丈夫ですか? 害獣は倒しました!」
ルーチェは誇らしげに言った。
ガイドや上級生達が褒めてくれることを期待した。
「何てことをしたの、あなたは?!
魔法の森は貴重な動植物が沢山生息しています。
火の魔法を使うなんて最悪です。森を破壊する行為です!」
ガイドの激しい怒りの眼差しと声。
上級生達の軽蔑の目。
ルーチェは手を下ろし「ごめんなさい」と言った。
■■■■■
翌日、ルーチェは学校の魔法指導の先生に相談をした。
「炎以外の魔法を使えるようになりたいです!
私、魔法の森保護管理員になりたいんです!」
先生は困った顔をした。
「アルカンシエル、君の希望は分かった。
しかし、魔法の系統は本人の資質で決まる。無理矢理系統を変えようとしても、大幅に質が下がる。君は、魔力もコントロール力も決して高い訳ではない。
系統を変えることは勧められない」
「それじゃあ……」
「魔法の森保護管理の資格を得るには、魔法技術が必要だが、炎や雷系使いが採用されるとは考えにくい。
魔法の森に関わる仕事がしたければ、魔法と一切関係ない職種を選ぶしかない。経理とか、食堂担当とかね」
ルーチェの顔は暗くなる。
「ルーチェ、君はエテルネルでは珍しい炎系だ。
その系統を活かした仕事に就くことが良いと、私は思っているよ」
言い返せないルーチェの肩を、先生は優しくポンポンと叩いた。
☆追加情報☆2025/11/08
ガイドをした魔法の森保護管理員の名前はオタリーです。
俺はもう若くない第一章にも登場しています。




