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48、グリージョの反撃

「応戦部隊の到着が遅れるだと?!」

 グリージョは司令地点で伝達隊の報告を聞いた。


「はい、基地手前の道路で落雷があり、道を整備しないと進めないとのことです。既に復旧作業は始まっていますが、可能であれば基地から人員を手配してほしいと」


 グリージョは奥歯を噛み締める。今はこれ以上基地から人を減らす訳にはいかない。かといって急いで応援部隊を呼ばないと、ここが持たない。


「確かにさっき雷鳴はしたが、あの辺りそんな雷が落ちるような場所でもなかろうに……」

 ザッフェラーノの呟きが耳に入る。


「デゼルトへ伝えよ。先に必要物資を確認し、道路整備に有力な人員数名と物資を現地へ送れと」


「承知いたしました」

 伝達隊兵士は素早く踵を返す。


「グリージョ、お前もすぐに前線へ行け」

 ザッフェラーノが言った。


「我々の最優先は最聖地防衛。魔除け師である賢者の安全確保が必須だ。まずはお前を馬で避難させる。部下には任せられない仕事だ」


「何を言っとる! もう、分かっとるじゃろ!

 あのサンティエ・タンドレスに抵抗できる魔法使いはお前しかおらん!」


 グリージョは眉間に皺を寄せる。自分以外の兵力では連中に負けることは既に読めている。

「しかし、聖地に影響が出る方法は避けるべきだ……」


「ラメット少佐!」


 グリージョとザッフェラーノは声のする方を向く。


 ラメット少佐は水に包まれ浮いていた。彼女の前にサンティエ・タンドレスがいる。その足元には彼女の剣がある。ラメットは足をバタつかせていた。水はよく見ると彼女の顔を覆っていたのだ。


「ラメット少佐……!」

 タンドレスはいよいよ本格的な攻撃に出てきたようだ。下手な動きを見せれば殺されるということだ。


 タンドレスが手を振ると、ラメットの身体は兵士達の元へ飛んでいった。一緒に剣も戻された。全身がぐっしょり濡れている。ラメットは何とか呼吸を取り戻した。


「グリージョ、早く行け!

 お前は自分の魔法で森の地形が崩れることを懸念しとるんじゃろ? そんなこと関係ない! 今は侵略者の動きを止め、兵士達を守ることが優先じゃ!」


 ザッフェラーノは腕を伸ばし、グリージョの肩を掴み、無理やり視線を合わさせる。グリージョは膝をついた。


「魔法の森は聖地として、我々ヴィータ人と共にあらゆる災害や事態を全て受け止めてきた。お前の魔法程度じゃビクともせんわ! グリージョ、お前は森の為に有害樹を撤去した。そのおかげで森の魔力は回復しつつある。必ず森はお前に応えてくれるはずじゃ。

 賢者の名にかけて、断言する!」


 グリージョはザッフェラーノの瞳に映る自分が顔を見た。


「ザッフェラーノ……感謝する」

 グリージョは微笑み立ち上がった。


■■■■■


 サンティエは素早く周囲を見渡す。

 兵士達は攻撃を控え、防御体制になっている。攻めれば、その隙を狙われるだろう。


「なかなか、上手くいかないね……」

 サンティエは小声で独りごちる。


 敵を怯ませ戦意喪失させた上で、突破するつもりだった。しかしやはり鍛えられた軍人達。多少負傷者が出たところで、逃げ腰にはならないようだ。

 これ以上魔力を発動させれば、いよいよ死者が出る。サンティエはそれだけは避けたかった。


「ん?」


 足元でガタガタと地面が震えているような感覚があることに、サンティエは気付く。


「ウワッ?! 何スか、あれ!?」

 ジルが叫ぶ。


 突如地面が盛り上がり、5メートルはありそう人型の土の塊が何体も現れた。

「行け、バンボラテッラ!」

 奥からファロの声がした。


 土の巨人達はサンティエ達に素早く歩み寄る。ジルや保護管理員は、あっさり動きを封じられ、巨人の両手の中に収まる。待機していたファットリッチ達が走って逃げていった。


「ジル!」

 サンティエは巨人の頭部に水を放つ。バシュンと土は飛び散るが、すぐにモリモリと再生した。


 サンティエが仲間を捕まえた巨人に攻撃をしていると、目の間に巨人が迫ってきた。仲間を襲ったそれよりも更に大きい。

 人差し指と中指を伸ばし、鋭く水を撃つが、胸部分に当たっても跳ね返るだけだった。


 ウオオオオオ!


 土の巨人の太い腕が振り下ろされる。

 サンティエは靴底から水を噴射し、その勢いで跳んで避ける。巨人は両腕を振り回しながらズンズン進む。サンティエもそれらをかわしていく内に拓けた地から離れ、山奥へ進んで行った。


■■■■■


(怪我で俺達に保護されたリスってこんな気分なのかな?)

 と、ジルが土の巨人の両手に包まれていると、その手がグーッと動いた。


「何スか? ヒッ」


 巨人はファロ大佐へ手ごと自分を差し出していた。

 ジルの首に、剣先が近付く。


「あ、あの……」


「エテルネル魔法の森保護管理員よ。今から私が質問することは、偽りなく答えるように」


 ファロ大佐の威圧的な眼差しに、ジルの身は縮こまる。

 しらばくれることは出来ないと、諦めの気持ちになった。


「お前達は何人でここに来た? 人数とファットリッチの数を教えろ」


「メンバーは8人ッス。ファットリッチも同じく8頭……」


 ジルの回答に素早くファロは周囲を見た。

「私が今確認出来ているのは7人だ。あと1人は?」


「俺も分かんないッス。ムロンて奴がいつの間にかいなくなってるッス」


 ファロ大佐は眉間に皺を寄せながら剣を鞘に戻した。


「彼らを基地へ運ぶ者、ファットリッチとムロン探索、賢者と現場待機の3手に分かれて行動せよ。彼らには魔法錠をかけ、基地では()()()として待遇せよ。負傷した御婦人は医務室で治療すること。

 サンティエ・タンドレスは私が止める」


 グリージョは果ての山奥を見ながら言った。


■■■■■


 サンティエは巨人が通りにくいであろう木々の間を縫うように進む。しかしそれでも背後から迫っているのが分かる。

 振り向くと、巨人が進む前にある木々が地面ごとぐにゃんと曲がり、道を空けているのだ。まるで森が巨人に協力しているようだ。


 ウオオオオオ!


 筋骨逞しい体型の巨人は棍棒のような両腕を振り下ろし、岩のような拳で地面を叩きつけた。


「ウワッ?!」


 少し離れたサンティエの足元の地面がバカッと割れ、土が噴射した。サンティエは体勢を崩し転ぶ。


「そこまでだ、タンドレス!」


 ファロが馬に乗って追い付いてきた。よく見るとその馬も土で出来ていた。下馬すると、巨人も馬の土に還り、地面に溶けていった。


「大人しく同行するんだ。お前の仲間達は我々が捕えて基地に連れて行った」


「何だって? クロシェットもか?!」


「クロシェット……負傷した御婦人のことか?

 彼女も我が基地の医師に治療させる。安心しろ」


「安心しろだと? 動けない彼女に……。卑怯な連中め!」


 サンティエは二本指を立てて、ファロに水を飛ばした。

 だが、瞬時に現れた土壁に塞がれた。


「タンドレス……お前達は何か勘違いしているみたいだな。

 説得するよりも前に、やるべきことがあるようだ」


 ファロが手を前に差し出すと、地面が再びグラグラと揺れ始めた。

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