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47、サンティエの怒り

今回も視点がコロコロ変わります。

 グリージョは頭を殴られたような気持ちになった。

 こちらから先行攻撃をしないよう指示を出していた。誰がこんなことを……?

 攻撃した兵士を確認する。デゼルト隊兵士だった。応援部隊との調整係として派遣し、後方待機させていたはずだ。何故そこにいるんだ?


「銃を下げろ!」


 グリージョは撃たれた女性保護管理員の方を見る。頭にバンダナをつけたムロンという男は、変わらずロープを踏んで立っていた。奥の方で隠れていた別の保護管理員が彼女の元に駆け寄った。女性の息はまだあるようだ。


「医療班に診させよう」


「断るッス! あんたらのこと信用出来ないッス!

 今度は彼女に乱暴するつもりだろ?!」

 サンティエ・タンドレスの傍にいる男が叫んだ。


 ルーチェが乱暴されていると彼らは思い込んでいることに、グリージョは気付く。互いに敵国のことは悪く教わっている。仕方ないことだ。しかし、そうなるといくら説得しても交渉は難しいかもしれない。


「穏便に済ませるはずじゃねーのかよ! 大佐さんよぉ!」

 ムロンは笑いながら、ロープを何度を足で踏み降ろした。その時、足裏が滑り結界側にブーツが入った。

「うおっと、わりぃ」


 バンッ!


「ヒッ!」

 再び魔法銃が放たれた。介抱していた保護管理員が怯む。近くを掠めたが当たっていない。


 グリージョはデゼルト隊兵士を睨む。隊全体の困惑が伝わってくる。撃った兵士の言い分は「大佐が『結界に入れば攻撃する』と発言したから」だろう。


「グリージョ……。交渉は少し保留にして、一旦下がった方が良いのではないか? 双方、頭を冷やす必要がある。儂らは応援部隊を待つべきじゃ」

 ザッフェラーノが小声で提言した。


 賢者の意見は、いざとなれば力でこちらが勝てるという認識だからだろう。応援部隊を待つというのは、相手を無傷で捕える為の人員確保という意味だ。

 しかし、グリージョはそれが不可能だという気持ちになっていた。サンティエ・タンドレスと対峙し、彼の得体の知れない何かを感じた。彼に攻撃させる隙を与えてはいけない。それに今の状態で、向こうは待機を認めるとは考えにくかった。


 カチャリ……


 再び魔法錠を構える音がした。グリージョは「銃を向けるな!」と言った。


■■■■■


 サンティエは状況を掴めなかった。

 この場の責任者であるはずの男が、自分達の要求に応じ、仲間を帰すと発言してすぐ、木々に潜んでいた兵士が発砲し、こちらに負傷者が出た。しかも、敵が撃った相手は交渉中の自分でも、煽ったムロンでもなく、その場で立っていただけの女性保護管理員だった。


 ファロは「銃を下げろ!」と叫び、次に「その女性を診よう」と言ってきた。

 ジルがすぐに断る。当然だ。彼女を連中に渡したら何をされるか分からない。魔法看護資格を持つ仲間が駆け寄り、その場で介抱を始めた。サンティエは視線を前に戻す。


「穏便に済ませるはずじゃねーのかよ! 大佐さんよぉ!」

 背後でムロンが叫ぶ。人一倍気性が荒く短気な彼が、仲間を攻撃されて、計画外の行動を取っている。下手に制止しようとすれば、こちらの連携が崩れる可能性がある。

「うおっと、わりぃ」


 バンッ!


「ヒッ!」


 また発砲された。しかし狙われたのは、結界に足を入れようとしたムロンではなく、負傷したクロシェットだった。あまりにも卑劣な行為にサンティエの怒りは抑えきれなくなってきた。


 ファロは途中でやって来たローブの老人とヒソヒソ話している。ジルが言うように、やはり連中は穏便にしようと見せかけて、自分達を皆殺しにするんじゃないのか?

 兵士が上の命令に反して攻撃するなんてありえない。最早このファロという男自体もフェイクであり、裏に本当のボスがいると考えた方が妥当ではなかろうか。


 カチャリ……


 再び銃を向けられた。もう確定だ。ヴィータ兵士は自分達を殺して騒動を終わらせようとしている。

 そんなことさせてたまるか。


「銃を向けるな!」この呼びかけも、こちらを油断させるパフォーマンスなのだろう。


 サンティエは深呼吸した。仲間を守るには戦うしかない。


■■■■■


「交渉は続行出来ないな」

 サンティエ・タンドレスが静かに言った。


「いや、待て……ん?」

 グリージョは周囲の変化に気付く。周りを囲うように発生していた霧が晴れていくのだ。よく見ると、霧のもやがサンティエ・タンドレスに集まってから消えている。と、言うよりも、霧が彼に吸い込まれているようなのだ。


「まさか、この霧の正体は、あの男の魔力だったのか?

 あやつは何者じゃ?」

 ザッフェラーノが震える声で言った。


■■■■■


「良いタイミングで霧が晴れてきたね」

 サンティエが呟く。ジルは多分違うと思いながら黙った。


 ジルはサンティエが丸眼鏡を外し、腰ベルトのポーチに入れるのを見た。ベルトにはそのポーチしか無く、小さくて縦長で使いにくそうだと思っていたが、眼鏡ケースだったのかとここで初めて知った。


「サンティエさん、眼鏡外して大丈夫なんスか?」


「眼鏡をかける理由は、外部刺激から目を守る為だから。魔法を使う時は外すんだ。レンズが濡れると、視界が悪くなるからね……」


 サンティエは右人差し指と中指だけをピンと伸ばし、素早く振った。


■■■■■


 サンティエ・タンドレスが、魔法銃を構えるデゼルト隊兵士に手を向けた途端、兵士は銃を手放し倒れた。


「なっ?!」


 すぐにタンドレスはこちらに指を向ける。盾を構えていた兵士が倒れる。

 盾は濡れて、穴が空いた。


「ザッフェラーノ、こっちへ!」

 グリージョは武装していない賢者の安全確保の為に場から離れる。その間もタンドレスの強力な水攻撃に兵士は次々と倒されていく。


「ヒィィィ、逃げろ!」


 魔法銃よりも速く威力もある水攻撃に、兵士達の一部は恐れをなして隊列を崩してしまう。

 ファロ隊兵士が魔法銃を発砲した。しかし、放たれた魔法弾は水にタプンと包まれ無効化された。


「ラメット少佐、魔法攻撃を許可する。現場指示せよ!

 私は賢者を避難させる!」


「承知いたしました!」


 ラメット少佐は魔法の力で素早く跳ねるように移動し、配置されている兵士の元へ行き、指示を出したり体勢を立て直したりした。


 ヴィータ国境防衛軍兵士達は手をかざし魔法を発動させる。保護管理員の身体が宙に浮かび上がる。だが、タプンと大量の水が保護管理員の身体を包み、移動系魔法に抵抗した。兵士達はこちらに寄せようと魔力を込める。


「うわっ!」

 足元に太い蔓が絡まっている。どんどん巻き付いてきて、兵士達は身動きが取れなくなる。


「俺の魔法はこんなことの為に使うもんじゃないッス」

と、ジルは手をかざしながら呟いた。

「あれ、そう言えばムロンは?」

 ジルが振り向いた先に彼の姿は無かった。気にはなったが、盾を持ってこちらに近付く兵士に気付き、ジルは蔦をそちらに向けて放った。

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