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41、最終打合せ

 夜の森を進み、サンティエ達は洞窟に辿り着いた。ジルが魔獣避けの薬草を焚き、中に入る。

 明かりと炎の準備、ファットリッチ達の世話、寝床と食事とトイレ場の確保。

 サバイバルはお手の物の魔法の森保護管理員達は、テキパキと洞窟の中を整えてくれた。


「少し休憩したら、ムロン達探索班は基地の場所を確認してくるッス。作戦の最終調整はそれからにするとして、残る俺達は休むッス」

 ジルがサンティエに寝袋を渡しながら言った。


「ありがとう。ムロン達も決して無理はしないでくれ」


 サンティエがそう言うと、ムロンと他2名がニコリと微笑んだ。


■■■■■


 夜が明け、サンティエはジルに起こされる。

 案外熟睡出来たと、身体の感覚で知る。手練の保護管理員達がいてくれたことが大きいだろうとサンティエは実感する。

 メガネをかける前に、サンティエは水筒の水で顔を洗う。ジルが焚き火の前で持参していた干し肉を焼き、タンポポコーヒーを沸かしていた。


 手短かに朝食を済ませた後、一同は最終打合せに入る。深夜と早朝に巡回を済ませたムロン達も戻ってきていた。


「概ねこの地図の通りで大きく変更はない。基地の場所も予想通りだった。ここからの最短ルートも確認した」

 ムロンは簡易テーブル上に広げた地図を指差し言った。

 この地図は保護管理員達が過去資料や非公開情報、国が分かれる前の歴史文献を元に作成した、オリジナルの魔法の森全体図だ。エテルネルとヴィータ両方の敷地が描かれている。


「基地近くの森の状態が想像よりも良かったわ。空洞杉が見当たらなかったの。人為的に無くしたと判断して良いわ。となると、ヴィータ軍は我々の予想以上に管理が出来ていると言えるわね」

 ムロンと同行していた女性の保護管理員が言った。

 ジルが意外だと言う顔をしていた。


「基地近隣は俺達にとって不利になりそうだ。プランAからBに変更した方が良いな」

 ムロンが言った。頭に巻いていたバンダナを取り、丸めた頭部を剥き出しにした。元軍人であると納得のガッシリした首にバンダナを結び直す。


 プランAは、基地近くで騒動を起こし、ルーチェを救出する作戦だった。一方Bは逆に兵士を森に呼び込み、一部メンバーがルーチェを救出しに行く作戦だ。

 ムロンは地図に印をつけながら話を続ける。


「最聖地と呼ばれる場所も見つけた。2重の魔除け結界が施されている。奥側の結界の中が最聖地なのだろう」


「魔除け? そうなの?」と、彼と同行した女性が言った。


「手前側の結界に物か人が入れば、緊急信号が発動し、連中は森に来ざるをえなくなる。今日の正午頃、奴らは式典の祈りだとかで、黙祷するらしい。そのタイミングを狙えば、更に混乱させて、こちらのペースに巻き込める」


 ムロンの説明に一同は頷いていたが、サンティエが眉間に皺を寄せた。

「祈りの時間を狙うのは反対だ。結界に人が入るのも最終手段にしよう」


「何故だ? 野蛮なヴィータ人に気を遣う必要あるか?

 俺達はゲームをするんじゃない。命を懸けて、人名救助をするんだ。確率を最大限にすることに、何の異議がある?」

 ムロンはサンティエの方へ身を乗り出した。


「意図的に相手が大切にしているものを傷付けるべきではない。それに、不意を狙って襲うならともかく、呼び込むなら祈りの時間である必要はないだろう」

 サンティエも負けじとムロンを睨みつけた。


「俺達にとって大切な存在であるルーチェが、既に奴らの汚い手で傷付けられているんだぞ?」


「だからといって、わざと傷付けていい訳じゃない。意見が一致しないなら、作戦は中止だ。僕はエテルネルに戻って自首する」


 サンティエの目が、レンズ越しに鋭く光る。ムロン達もそれを見て黙った。


「……今更中止はナシッスよ、サンティエさん。

 でも、祈りの時間を狙うのは意味無いと俺も思うッス。むしろヴィータに俺達を攻撃する理由を追加させちまう」

 ジルが言った。顔を赤くしてるムロンの方を見る。


「結界の方も『いざとなれば人間が入ってやる』と脅しに留めた方が、向こうをこちらのペースに巻き込めるッス。上手くいけば先輩を渡す交換条件に使えるかも」


 サンティエはジルの横顔を見る。ジルが必死に皆をまとめようとしているのが伝わってきた。


「祈りの時間直後に連中へ俺達の存在を知らせて、森に入れる。最聖地を人質に、交渉実現を目標に頑張るッス。敵が俺達を抑えようとしてきたら、魔法で抵抗してやるッス」


「まぁ、仕方ないな……」「頑張りましょう」


 皆の気持ちが1つになったのを感じ、サンティエはジルに礼を述べた。


■■■■■


 式典当日の朝。

 ルーチェは灰色の囚人用ブラウスとスカートに着替える。「流石にこの日は敵国人に軍服を着せるのはよろしくないかな」という、グリージョの言葉に応じたからだ。

 寝室を出ると、私服を着たグリージョは朝食中だった。いつもと同じメイド服姿のトルメンタが微笑んだ。


「今日は仕事休みとする。だが、ルーチェの森だけは朝食後様子を見に行こう」

 グリージョは言った。


 2人は基地内を歩き、ルーチェの森へ向かう。いつもより明らかに人が少ないことが分かる。しかし、誰もが程良く緊張していて、身なりもきちんと整えていた。


 ルーチェの森こと、空洞杉人工林に到着すると、グリージョは早速バンテ達を創る。創造主に一瞥もせずに、バンテ達は大好きなルーチェの方へ走る。ルーチェはバンテ達の頭や背中を撫でながら、視線は魔法の森へ走らせた。


「どうした?」グリージョが尋ねる。


「魔法の森に霧が出ていますね」とルーチェは返す。


「久しぶりだな。定期巡回で森に入る隊には、霧と雨に気を付けるよう伝えないと」

 グリージョは森と、逆方面の空を見て言った。

 今朝は全体的にうっすら曇っており、濃い色の雲が基地へ迫っているようだった。


 バンテ達に杉のチェックをさせている間、ルーチェとグリージョは次に移植する時の場所の打合せをした。


「ここの地面の凹凸をなだらかにした方が良いと思います」


「地形を変えるということか?」


「この凹凸は最近の風雨による積み重ねの差でしょうから、あまり問題ないかと」


「そうか。それなら良いが……」


 グリージョがハァと息を吐くのを見て、ルーチェはジッと彼を見ながら尋ねた。


「前から思ってましたけど、グリージョって地面の形に凄く慎重ですよね。折角の素晴らしい土系魔法を持っているのに、あまり使わないようにしていますし」


 グリージョは苦笑いする。


「子どもの頃の魔法訓練で、家の庭を割って元に戻したんだ。その時、割れ目にイタチの親子が紛れていた事に気付かず埋めてしまったんだ。それ以来、この魔法にはあまり頼りたくないと思っている」


「そうだったの。イタチは可哀想だけど、わざとじゃないんでしょう」ルーチェは言った。


「でも、私が地面を動かさなければ、ひっそり庭で暮らしていたイタチは死なずに済んだ。

 魔法の森となれば、貴重な動植物がいる。それを、人間の私の都合で壊す訳にいかない」

 グリージョの眼差しは足元を土を見ていた。


「優秀なのに、器用になれないのね、グリージョは」

 ルーチェが小声でひとりごちた。


「何か言ったか?」

 グリージョが顔を上げてルーチェを見る。

 ルーチェは「いいえ、何も」と首を振った。

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