4、ルーチェの夢
後日、タンドレス夫妻に連れられて、ルーチェとサンティエは魔法の森にやって来た。
「魔法の森って、誰でも入って良いの?」
ルーチェは、サンティエの父タンドレス氏に尋ねた。
「魔法の森保護管理局に申請を出せば入れるよ。
入る目的や時期によっては駄目だったり、保護管理員が一緒じゃないと入れない場所もあるよ」
「へぇー。魔法の森に人間は入っちゃ駄目って、パパとママは言ってたのになぁ。
あれ? 言ったのはパパとママだっけ?」
ルーチェは不思議そうに言った。
サンティエが魔法発散に使っているという芝生に到着した。色とりどりの光が木漏れ日と一緒に空間を輝かせている。木々も草も地面も、明るく穏やかに自分達を包んでいるようだ。
こんなにも美しい場所があるのだとルーチェは知った。
「今は虹蛍が昼夜問わず活動してる時期だからね」
タンドレス氏は言った。
「ルーチェ、魔法を見せて」
サンティエに言われて、ルーチェは手のひらをかざす。
ポッ、ポッ、と火の玉が2人の近くに現れる。
それをサンティエが1つずつ水の膜で包んでいく。
炎の先が触れるとパシャンと膜は破れ、火の玉は消される。2人は目を合わせ微笑む。
ルーチェは火の玉をどんどん出していく。サンティエがそれを水の膜で包み、木々に燃え移る前に消える。
強い明かりと熱が、宝石のように煌く大きな蝶々を呼んできた。魔法の光がキラキラと星のように辺りを眩しく飾る。
「ルーチェはともかく、サンティエのコントロール力は恐ろしい才能だな」
タンドレス氏の呟きは、2人には聞こえず、楽しく笑う声だけが森に響いた。
■■■■■
その後ルーチェは魔法の森に興味を持つようになった。
図書館で魔法の森にまつわる絵本や図鑑を借りて読み耽った。魔法の森保護管理局主催の探検ツアーに、サンティエと一緒に参加し、野生の魔獣を観察した。
やがてルーチェは、ガイド役の魔法の森保護管理員に憧れるようになった。自分もいつかベージュのジャケットを着て、魔法の森の奥へ探検したいと思った。
魔法学校に進学した2人は、魔法の使い方を学んでいくことになる。サンティエは入学早々のテストで学年トップの成績だった。教師達もサンティエに注目し、特別授業を受けるように奨めた。
一方ルーチェは真ん中より少し下位の成績だったので、サンティエに宿題など教わることが増えた。
■■■■■
13歳になったルーチェはいつものようにサンティエの部屋にやって来た。
「サンティエ!」
ルーチェは勢いよくドアを開ける。
焦げ茶色の三編み2本を背中の半分まで垂らしている。放課後の球技クラブに通う彼女の肌は日に焼け、元気な性格がそのまま反映されているようだった。
「何? 今忙しいんだけど?」
丸メガネをクイっと上げながら、サンティエは椅子に座ったまま振り返る。オリーブ色の前髪を掻き分ける。細身の体型は変わらず、彼の身長はぐんぐん伸びていた。
「今度の学校休みに、魔法の森ツアーに行こうよ!
害獣駆除体験だよ!
13歳からしか参加出来ないやつ!」
「行かない。その日は大学の特別講座を受けに行くから」
サンティエの返答にルーチェは頬を膨らませる。
「もう! 昔はいつも一緒に行ってたのに!
優等生さんは学校の勉強の方が大事なの?!」
「僕にもやりたいことがあるんだ。
それを叶えるには、優等生だと周りから思われた方が良いんだ」
サンティエはニヤッと笑う。
「わかったわよ! ツアーは私一人で参加してくる。
でも宿題は手伝ってよね」
ルーチェはレポート用紙を彼に見せる。
サンティエは朗らかに笑った。




