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28、最後の1本

 バンテの活躍は想像以上で、遂に移植計画最後の1本を待つだけになった。疲れ知らずのバンテ達は空洞杉の隙間を縫うように走り回り隠れんぼを始めていた。

 トルメンタが軽食を運んできたので、グリージョとルーチェは屋根付のテーブルで休憩することにした。

 今日は天候に恵まれた。空洞杉の隙間から吹く風が心地良い。前日に珍しく大雨が降り、今朝もグッと気温が下がっていたので、森の中の道が心配だったが、今のところ問題なさそうだ。ルーチェはクッキリと緑が鮮やかな森の方を見る。


「前日の雨の影響で霧が出ていたらどうしようかと思っていましたので良かったです」

 ルーチェは言った。


「魔法の森の霧は、天候とは関係ない。

 晴れていても霧が出ることもある」

 グリージョが言った。


「そういえば、エテルネルにいた時も霧は降雨や気温差関係なく発生したわ。魔法の森特有かしら?」


「ザッフェラーノによると、25年位前からの現象だそうだ。月に数回定期的に発生することもあれば、数年間ほとんど出ない時期もあったそうだ。何にせよ原因は分からない」


 グリージョの話を聞きながら、改めてルーチェは森を眺めた。「私が捕まってここに来る時は霧が出てたわ……」とルーチェは思い出していた。


■■■■■


「急いでバンテを寄越してくれ! 運搬班が難儀しておる!」ザッフェラーノが騎馬兵と共にやって来た。


「分かった。ザッフェラーノはルーチェと待機してくれ」

 グリージョはバンテ達と共に森へ向かって走った。

 ザッフェラーノは馬から降り、騎馬兵に休憩をするよう指示した。そしてルーチェと並んで、仲間達と空洞杉を待つ。


 森の木々がガサガサと激しく揺れる。ニョキっと森から頭に1つ抜けた木の先端が見えた。直径2メートル半、高さは25メートルの大杉が姿を現した。


「すっすめーーー、すっすめーーー!」


 バンテ達の愛らしい掛け声が聞こえてきた。

 白砂蚕の布で包んだ根元を、バンテ10体全員で持ち上げている。オルソビアンコと他2名の移動魔法使いが、両脇に位置して懸命に魔法発動を維持していた。


 走って先回りしたグリージョとカモミッラが運搬班達を誘導する。皆、足元が泥だらけである。相当道がぬかるんでいたのだろうとルーチェは想像した。

 運搬班以外の兵士達も杉とオルソビアンコ達を囲み、声を掛け合い、サポートしている。


「馬が心配じゃ。ぬかるんだ道を進める馬が限られてしまってな。交代が出来ておらず、大分疲弊しとる」

 ルーチェと移植予定の穴まで小走りしながら、ザッフェラーノは言った。最後の1本は移植済の空洞杉から少し離れた場所に植える予定の為、少し遠回りになっていた。


「もう少しだ! 頑張れ!」

 巨塔のような存在感を放つ大杉が、ジリジリと近付いてくる。グリージョは少しでも馬が歩きやすい道へ、騎馬兵を誘導した。他の兵士達も次々とゴールである穴の方へ行き、声援を送る。


「うわっ?!」「あっ?!」

 オルソビアンコが乗る小型馬車を引いていた馬が突然大きく躯体を揺らした。ぬかるみに蹄が取られたのだ。騎馬兵が体勢を戻すが、馬車にもガクンと振動が伝わってしまった。


「危ない!」

 オルソビアンコの風が途切れ、杉は安定感を失い前方に倒れていく。他2名の移動魔法だけでは支えきれないのだ。


 グリージョはバッと腕を振った。

 すると、地面から土が突き出るように飛び出した。数メートルの斜柱が杉を止める。周囲から歓声で上がる。


「駄目だ、逃げろ!」グリージョが叫ぶ。

 よく耕され、雨水を多く含んだ土は軟すぎた。メキメキと杉は再び倒れ始める。先回りして待っていた兵士達は慌てて左右へ逃げる。


 ゴォォォォ!


 強い熱がグリージョの頬に当たった。

 ルーチェが隣で炎を出している。土の表面は固まり、持ち堪えられた。


「大佐! 後は任せてください!」

 馬車から降りたオルソビアンコが頭上遥か上で風を起こす。杉は起き上がり直立した。下にいたバンテ達が「えーーーい!」と走り出し、杉を持ったまま穴に飛び込んだ。


「バンテちゃん!?」ルーチェが叫ぶ。

「土に戻るだけだ」グリージョが即座に言った。


「このまま土をかけて安定させましょう。

 白砂蚕の布はつけたままでも問題ないわ。予め根が伸びやすいように、目の粗い生地を使ってるから」

 カモミッラが兵士達と空洞杉の根元を整える。

 1人だけ飛び込まなかったバンテが、土を入れる場所を指示していた。

 最後にバンテが「またねー」と言って根元に飛び込み土に戻った。


 軍基地建物を遥かに越える高さの木が、皆の前にそびえ立つ。一同は息を呑んでそれを見上げた。


「空洞杉移植計画、完了じゃ! 皆、よくやった!」

 ザッフェラーノがここぞとばかりに杖を上に上げて言った。兵士達も両腕を上げて喜びの声をあげた。

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