26、再び空洞杉移植会議☆
企画の抽選で遥彼方様に描いてもらったグリージョを挿絵掲載しました。遥彼方様、ありがとうございます。
移植作業初日は、運搬担当の体力を考慮し、4本で終了とした。目標達成はならずだが、手応えある結果だった。参加者達は、作業2回目に向けて、計画の見直しをしようと、意欲的になっていた。
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グリージョとルーチェが部屋に戻ると、トルメンタが待機していた。
「お疲れ様です、ファロ大佐。
バスタブの用意は出来ております。今日はしっかり汗を流してください」
2人共全身泥で汚れている。チラリとグリージョはルーチェを見た。
「ルーチェ、お前も今日はバスタブで身体を洗った方が良いだろう。私はここで仕事の残りをするから先に入れ」
「え? 別にシャワーで構いませんよ……」
と、ルーチェが言うのを待たず、グリージョは泥のついた紅色のコートを脱ぎ、目の前のトルメンタに渡した。
コートの中は半袖で白い肌着だった。汗で身体に綿生地が張り付いており、肩や背中の厚い筋肉と骨格の形が浮かび上がっていた。
咄嗟にルーチェは視線をそらす。グリージョが寝室のドアを開ける音がした。
特に雑談をするでもなく、夜は各寝室に入り、一切の干渉はない。それでも昼夜のほとんどを一緒に過ごしていると、妙な意識も湧いてくるようだ。
「大佐の着替えが済んだら、バスタブへ行きましょう」
トルメンタが言った。彼女の腕にはある大きすぎる兵服からは、土と汗と、自分にはない匂いがした。
「ルーチェ、中に入れ」ゆったりとしたグレーシャツに着替えたグリージョが部屋から出てきた。彼は仕事机に向かい、黙々と書類に目を通し始めた。
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翌日、ルーチェ達5人で早速会議が行われた。
ザッフェラーノの計らいで、魔法の森境界に出来た空洞杉の小さな人工林の傍に、日除けとテーブルと椅子が用意された。慣れない作業だった為、全員疲れが取れていない顔をしている。しかし、非常にやる気に満ちた目をしていた。
「今朝、食堂で声掛けられたんだけど『2回目から参加したい』と志願する兵士がいるの。非番で見学していた人が何人かいて、朝から話題になってるわ」
カモミッラの頬は紅潮している。
「課題はとにかく運搬班です。
縦に浮かして運ぶ方法が良いと昨日で確信しましたが、人手が足りない。運搬班は実質、掘り起こしと植え込みの両方も担います。移動魔法使いを増やすか、移動魔法のみに集中出来るようにしないと」
オルソビアンコは言った。
昨日魔力を使い果たした彼は、グリージョの配慮で非番扱いになっている。その為、服装は紅色の兵服ではなく、白いコットンシャツだった。
「2回目からの参加者は事前訓練が乏しいまま作業に入ることになる。安易に運搬班につければ良い訳ではない」とグリージョ。
「植込みの方は人手を減らして問題ないです。次回からは杉も大きくなりますが、支障ないです。移植場側からの誘導範囲を広げてはどうでしょうか?」
ルーチェは地図を指先で撫でながら言った。
「植込み班の人手は減らしにくい。
ルーチェの監視という理由で、ある程度人数がいる」
グリージョが返答した。
進展しない発言に、賢者除く3人は不満そうだ。
「では、グリージョとルーチェ2人で植込班になれば良い。
お前一人がいれば監視は問題ないじゃろ?」
ザッフェラーノがそう言うと、一同驚いた顔をした。
「しかし、私は作業全体を監督しています。森に入らない訳にいきません……」とグリージョは返した。
「儂がグリージョに代わって、監督者として森に入ろう。忘れておらんか? 儂は魔法の森担当賢者。魔除け師じゃぞ」
ルーチェ除く全員がハッと反応した。
「儂に、少々腕の立つ騎馬兵をつけてくれれば、運搬班の魔除け対策も不要になるぞ」
「それは良い案ですね! 作業が減れば、その分大きな杉の長距離運搬に集中できます……あれ、皆?」
ルーチェは自分1人が興奮していて、残り3名の顔がまだ固まっていることに気付いた。
「どうしたんじゃ?」ザッフェラーノも首を傾げる。
「いや、失礼……本当に魔除け師だったんですね。
てっきり舌先三寸で出世した御仁かと」
グリージョが謝りながら言った。
「俺も、肩書だけのお飾り賢者かと……」とオルソビアンコ。
「女性への悪ふざけが過ぎて左遷された残念なお爺さんかと……」と、カモミッラ。
「お主ら、本当に失礼じゃぞ!?」
流石にザッフェラーノは怒った様子だった。




