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25、空洞杉の移植

 グリージョ、ザッフェラーノ、カモミッラ、オルソビアンコの4人は、空洞杉移植作業参加者を非公式で募った。

 しかしやはり時期が悪く、兵士の多くは休暇や私用の予定があり、人員確保は想像以上に困難だった。ただ空洞杉について懸念していた兵士は多く、作業については肯定的な反応が多かった。


「ファロ大佐。我々は空洞杉移植作業に参加希望します」


 若手兵士2名に声をかけられ、グリージョは一瞬たじろいだ。その2名はデゼルト隊所属兵士だからだ。


「デゼルト少佐は知っているのか?

 参加者にエテルネル人捕虜が含まれる。少佐からすれば決して快くない非公式任務だ」


「デゼルト少佐は関係ありません。

 我々は日々森をパトロールする中で、魔法植物の衰えを感じておりました。我々も森を回復させたいのです」


 二人の眼差しがどこまで真実なのか。

 疑問は残るが、人手が欲しいことも事実だ。ルーチェから離れる仕事をさせれば良いだろうとグリージョは判断した。


■■■■■


 最低限必要な人数が揃い、最終調整も済んだ。

 作業初日は、幸先の良さを感じる快晴だった。


 作業は大きく3つに分かれ、並行して進めていく。

 カモミッラ主導で空洞杉の根を切り出す。

 オルソビアンコ主導で空洞杉を運搬する道を確保する。

 そしてザッフェラーノとルーチェ主導で移植先の地面整備である。


 各班5名程度の小規模だが、各人の魔法能力を見極め配置した。


 グリージョは魔法の森に入り、全体の指揮を取る。ルーチェの監視をザッフェラーノに頼む際、彼は拘束呪文をザッフェラーノにこっそり伝えた。


「もちろん、使うことはないはずじゃがの〜」

 ザッフェラーノが何故か楽しそうな様子なので、ルーチェは不安な気持ちから、隊服の袖越しに自分の手首を掴んだ。


 カモミッラ班がグリージョを先頭に今回移植予定の空洞杉の方へ向かう。

 移植場から徒歩で20分程の場所に、高さ10メートル超の空洞杉が何本か生えている。最低2本、目標5本移植が今回の作業内容である。


 続けてオルソビアンコ達が出発した。

 空洞杉の根切りをしている間、運搬担当班は道を確保し、周囲の植物を傷付けないように白砂蚕の布で養生したり、魔獣を遠ざける煙を撒いたりする。

 グリージョはデゼルト隊から参加した兵士2人をここに配属させた。


■■■■■


 ルーチェは空を見上げる。清々しい青空に程よく浮かぶ雲。日差しはどこまでも柔らかい。次に森の方を見る。移植場は魔法の森の境目に作られた。捕虜であるルーチェは、移植場内であっても、なるべく森側に行かないように気を配っていた。日差しに照らされた森は鮮やかな緑で彩られていた。


「心配かの?」ザッフェラーノが声をかけてきた。


 ルーチェは試しで移植していた高さ1メートルの空洞杉の手入れをしていた。

 他の兵士は黙々と地面を耕しているが、エテルネル人捕虜のルーチェを敬遠している雰囲気が感じ取れた。それでもザッフェラーノは気にせず彼女を見守っていた。


「カモミッラを信じろ。彼女の学びへの貪欲さは折紙付きじゃ。敵国捕虜のお前さんにあれだけ熱心に教わろうとしていた。カモミッラなら大丈夫じゃ。それにグリージョもいる」


 ルーチェは小さく微笑んだ。

 本当なら自分が現地で杉を選び、切る根の位置を決めたかった。だが、エテルネル人の自分を聖地魔法の森へ入れることを、グリージョもザッフェラーノも容認出来なかったのだ。ヴィータ人の聖地への信仰には敬意を払いたい一方で、同じ森で何が違うのかと疑問を持ちたくなる自分もいた。


 フワリと風の流れが変わった。

「オルソビアンコかの?」ザッフェラーノは言った。

 オルソビアンコは風系魔法使いだった。


 続いて軽快な蹄の音が聞こえてきた。

 グリージョが馬を走らせやって来た。


「もうすぐ1本目が来る! 移植先へ誘導してくれ!」


■■■■■


 森の木々がサワサワ鳴り出す。高さ10メートル、幅1メートルの空洞杉が縦にグラグラしながら現れた。

 下は地面から浮いており、根の部分を白砂蚕の布で丸く包んでいる。杉の両側に簡易馬車に乗った兵士が両手を差し出し魔法を発動している。オルソビアンコの風魔法と、もう一人の兵士の物質魔法で調整し、ゆっくり空洞杉は進んでいく。騎馬担当の兵士はオルソビアンコの指示に従いながら慎重に馬を動かしていた。


「こっちじゃ!」森側にいたザッフェラーノが指をさす。

 オルソビアンコ達は馬車から降りて、魔法を発動させたまま杉を運ぶ。予め掘った穴の前に杉が到着した。


 グリージョが馬に乗ったままルーチェに紙を渡した。

「カモミッラが現場の土の状態を書いてくれている」


 ルーチェはそれに目を通してから、根元を包む布を外した。たっぷりの水分と土をつけてくれていた。

 ルーチェは杉の根を慎重に触れてみる。


「太根も細根も傷付いていない。これなら無事に植えられそうです。2本目もこの調子ではこんでください!」


 ルーチェの溌溂した声に、兵士達は歓声をあげた。

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