18、魔法の森代替庭園☆
デゼルトは踵の高い靴をカツカツと必要以上に鳴らし廊下を進む。
「何としてでも、あのエテルネル女を捕虜ではなく犯罪者として公表させなければ……。
あの女の名前は何という?」
「は! ルーチェ・アルカンシエルです。デゼルト少佐!」
後ろにいた部下の一人が答える。
「レオパルド伯と呼べと言っているだろ! 下等兵が!」
デゼルトは唾を飛ばしながら怒鳴った。
「失礼いたしました」部下は直ぐに頭を下げる。
「ルーチェ・アルカンシエルか。
奴の素性を親兄弟含めて調べさせろ。どんなことでも良い。使えるものは使ってやる。
サッサと行け!」
デゼルトは自分の個室のドアを開け、勢い良く閉めた。
門前払いされた部下達は、その場を後にする。
「チッ。何がレオパルド伯だよ。
爵位もない、ただのデゼルト伯爵家の三男ってだけのくせに偉ぶりやがって」
一人の部下が舌を鳴らす。
「貴族限定の将校育成学校出身なのに、こんな辺境でお飾り少佐留まりだ。所詮、器が知れてるぜ」
もう一人の部下も溜息混じりで言った。
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グリージョ・ファロは午後の訓練を終え、宿舎に戻って来た。
寝室でゆったりしたシャツに着替える。かなり大きく仕立ててもらったが、最近腕周りがキツくなってきていた。
コンコンコンとノック音と「トルメンタです」という声が聞こえた。グリージョは「入れ」と返す。
トルメンタはドアを開ける。少し暗い顔をしていた。
「ルーチェについてご相談です。
今朝からあまり食べなくなり、昼食は一口も食べませんでした。心の負荷が行動に影響してきているのだと思います。明日からでも、彼女を部屋から出すことは出来ないでしょうか?」
「捕虜としては考えられない程の高待遇なのにか?」
グリージョは尋ねる。
「彼女は訓練された兵士ではありません。特殊で閉塞的な状況に、長く耐えられるはずがありません。
ねぇ、グリージョ。彼女には森の知識があります。彼女に仕事を与えては?
きっと活躍できるはずよ」
「簡単に言うな。明日のことはこれから考える。
これを洗濯係に渡しておいてくれ。
私は少し出掛けてくる」
グリージョは今日着ていた軍服をトルメンタに渡して寝室を出た。
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グリージョ・ファロは国境防衛軍基地内の外れにある庭園に向かう。
庭園だが、白砂蚕の繭で作った半透明で丈夫な布で天井と壁を覆い、半球型ドームようになっている。
「こんなところに儂を呼び出すとはどうしたんだ?」
庭園入口で、グリージョが立っていると、茶色い色のジャケットを羽織った白髪の老人がやって来た。グリージョの頭2つ位低い身長だが、背筋はシャンと伸び、足腰もしっかりしている。
「ザッフェラーノ。
魔法の森の賢者である貴方に聞きたいことがある」
賢者とは、ヴィータ王国の聖職の1つである。
国内各聖地に配属し、聖地から国王へ祈りを捧げることが主な仕事で、魔法の森担当賢者は、国境防衛軍基地に所属している。
2人が訪れた庭園は、聖地代替庭園である。大半の聖地には魔獣や毒草が存在し、立入りが危険であるため、王族や聖職者の定例儀式用に、聖地と同じ植物を庭園に植えているのだ。
「この、魔法の森代替庭園にエテルネル人を入れることを許してもらえるか?」
ザッフェラーノの額の横皺がぐうんと生え際まで上がる。
「まさかあの捕虜をここに入れるのか?」
「そうだ。彼女はエテルネルで魔法の森保護管理の仕事をしている。ここの植物の手入れも出来るだろう」
「そりゃあ確かに、毎回儀式前に大慌てで草むしりして体裁を整えている現状を何とかしたいとは思っているが……」
ザッフェラーノはごもごも呟く。
「中の毒草に襲われても、最悪植物が全部枯れても、捕虜と捕虜を監視する私が責任を問われるだけだ。
悪くない話だと思うが。ずっと嘘の庭園環境報告をし続けるのも無理があるだろ?」
グリージョは賢者の方をジッと見る。
「他ならぬ、グリージョの提案じゃ。
試してみても良いかもしれん」
賢者ザッフェラーノの言葉に、グリージョは微笑んだ。
2023/03/遥彼方様から頂いたトルメンタイラストを掲載しました。




