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17、退屈で不安な生活

 ルーチェはトルメンタに連れられて、主寝室を出た。向かいにある客用寝室のドアは閉まっており、物音がする。掃除中なのだろうとルーチェは思った。

 ルーチェは、支給された灰色のブラウスとスカートを着ている。下着も支給されたものである。


「アルカンシエル用の軽食が届いた。食べろ」


 ルーチェは部屋中央の椅子に座り、テーブルに置かれた料理を見た。何の変哲もないサンドイッチとブラッドオレンジジュースである。

 ルーチェはファロ大佐とトルメンタの視線を感じながら手に取って食べ始める味も可もなく不可もない。むしろジュースは美味しい。緊張で縮んでいた胃袋が元に戻ったように、ルーチェは勢い良く食べた。


「上部に報告し、正式な処遇が決定するまで私の監視下に置くことが決定した。

 間もなく掃除も終わるだろうから、食事の後は翌日まで休め。こちらが指示するまで寝室から出てはいけない」


「分かりました」

 ルーチェはゴクンとパンを喉に通した後に言った。


■■■■■


 食後、客用寝室に入ったルーチェはそのままベッドに潜り込んだ。

 旅行先のホテルのように整えられたシーツに触れた途端、今起きていることを忘れるかのような疲労と眠気が彼女を襲い、眠りについた。


■■■■■


 翌日、窓から差し込む日の光でルーチェは目を覚ます。

 快適な目覚めであったが、自分の置かれている状況を思い出し、一気に胃が重くなった。頭の中がグルグル回りだし、大声を出さずにはいられなくなった。


「私、今、ヴィータ王国にいるの!? パスポートを持ってこなかったわよ!

 敵国にいるの、私?! え、帰れるの?

 もしかして死ぬの? 殺される? あの胸筋パンパン軍人に!?」


「いいえ。ファロ大佐は貴女が生きて帰れるように尽力していますよ」


 落ち着いたトーンの女性の声が、割って入ってきた。

 ドアの傍に小間使いのトルメンタが立っていた。手には持っているお盆から良い匂いがする。


「おはようございます。

 今日は1日この部屋で過ごしていただきます。

 まずは朝食をどうぞ」


 トルメンタはベッド傍の丸テーブルに料理を置いた。

 湯気の立つスープとパンとブラッドオレンジジュースだ。

 重たかった胃が軽くなった気がして、ルーチェはベッドから下りて、椅子に座る。


「ありがとう」ルーチェは気を紛らわす為に食べ始める。


「寝間着が別にありますので、今晩からはそれに着替えてお休みください。

 ファロ大佐が了承した読み物を後で持ってきます。

 洗濯するものはありますか? アルカンシエル?」


「いいえ、今は無いわ。あ、あのトルメンタさん」

 ルーチェはコップを置いて彼女を見る。


「私のことはルーチェと呼んでくれないかな?

 アルカンシエルって呼ばれるの落ち着かないの。せめて貴女は、これ位のワガママ聞いてよ。言葉使いも、もっとくだけてほしいわ」


「フフフ。分かったわ。それ位なら大佐も許してくれるでしょう。じゃあ、貴女も私のことをトルメンタと呼んでね」

 トルメンタは気さくな笑みを浮かべながら言った。


■■■■■


 ルーチェは命令通り、寝室から一歩も出ることなく過ごした。

 トルメンタが持ってきたものは、ヴィータ王国観光ガイドだった。ヴィータ王国とエテルネルは互いの国の情報を教え合うことはしないが、それ以外の国とは交流をしている。ヴィータ王国は観光地として、外国からの訪問客を歓迎しているのだ。ルーチェも外国から入った大衆記事で知ることはあったが、本当にそうだと確認できなかったので、興味深く読んだ。


「こんな風に、歴史を紹介しているんだ。学校で習った内容とまるで逆だわ」


 観光ガイドブックを読んだり、部屋の中でトレーニングをしたりしてルーチェは過ごしたが、徐々に退屈と不安に耐えきれなくなっていた。


■■■■■


 朝の訓練を終えたファロ隊は会議室に集まり、座学に勤しんでいた。

 数名グループに分かれ、あらゆる非常事態における対策を議論し合う。ファロ大佐は机の間を行き来しながら、その様子を眺めていた。


「ファロ大佐!」

 勢い良く扉を開けてデゼルト少佐が部下を2名連れて入ってきた。不機嫌そうに彼はファロ大佐に近付き、ビラを1枚見せた。


「エテルネルに先を越されました。どうしてくれるのですか?!」


 それは外国経由のゴシップ記事だった。ヴィータ王国が罪のない民間人女性を無理やり捕虜にしたと書かれている。


「あのエテルネル女は聖地を犯した犯罪者です。

 今すぐそれを公表しないと、私の偉業が潰されてしまいます!」


 デゼルトは顔を真っ赤にしている。

 平時にも関わらず、式典用軍服を纏い、四角い眼鏡のフレームや鞘の飾りに金を施している。見た目の派手さだけはファロを上回っていた。


「噂レベルの記事だ。本気にする人間の方が少ない」

 ファロは冷たく返す。


「ですが、あれから2日経ちます。

 にも関わらず、何もしていないのは問題ですよ」

 デゼルトは食らいつく。背は少しだけ彼の方が高い。しかし肩幅はファロの半分程だ。


「事は慎重に進めなければならない。お前の欲の為に、戦争を起こす訳にはいかない。下がれ」


 ファロが眉尻を上げて、デゼルトを睨みつけた。

 デゼルトはグッと息を呑む。

「甘過ぎると、破滅に繋がりますよ」そう言い残し、デゼルトは踵を返して会議室を去った。

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