表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/57

14、グリージョ・ファロ大佐

 ルーチェは兵士に案内されて室内に入る。

 簡素な会議室のようだ。10名程用の長机の向こうに、屈強そうな男が立っている。威圧的な眼差しはルーチェに向けられていた。


「ここに座らせろ」


 ファロ大佐の指示通り、一人の兵士がサッと椅子を引いた。流れ作業でメイドらしき女性がルーチェとファロ大佐の前にお茶と菓子を置く。


「お前達は下がれ」

 ルーチェを連れて来た兵士2人はお辞儀をして退室し、ドアを閉めた。中にはファロ大佐とルーチェ、メイドが残った。


「私は、魔法の森とその国境を管轄している防衛軍のグリージョ・ファロ大佐だ。御婦人、今から私が質問することは、偽りなく答えるように。

 貴女は……エテルネル人……か?」


 ゆっくりと話し掛けてくる。言葉が通じない可能性を含めてだろう。ルーチェは顔を上げる。


「はい、私はエテルネル人です。

 エテルネルで有効な身分証明証も持っております」

 わざと具体的に返答した。これで先方も会話が難なく出来ると判断してくれるだろう。


 ファロ大佐は机上で手を握り、胸を反らし正面向きに座っている。落ち着いた態度と声だが、見た目まだ若そうだ。肩周りの筋肉が膨らんで、紅色のコートがはち切れそうになっている。濃く太い黒い眉の下で、黒い瞳が輝く。鋭いが、先程のデゼルト少佐と違い、冷たさは感じない。黒い短髪に無精髭と、無骨な見た目をしているが、話し方や所作に品を感じた。


「分かった。念の為、身分証を見せてもらおう。ベストの裏ポケットにいれてあるのか?

 メイドに取らせよう」


 ファロ大佐は椅子から立ち、背を向けた。メイドがルーチェに近付き、身分証の場所を確認し取り出す。

 ルーチェの手首錠は片手ずつだが、手の甲下半分まで及んでおり、ボタン等の細かいものは扱えない。

 また、魔法の力で手足の動きも制限されているのだ。かろうじて目の前の飲み物位は手に取って飲めるだろうが、今のルーチェに、それをする気はなかった。


 メイドがファロ大佐に見える形で、魔法の森保護管理員証を机に置いた。


「ルーチェ・アルカンシエル。魔法の森保護管理員。

 そのような職業がエテルネルにあるのか?

 お前は聖職者かエテルネル軍所属なのか?」


 ファロ大佐はルーチェの顔をじっと見る。

 興味深い、という反応だった。


「いいえ。私は聖職者でも兵士でもありません。

 魔法の森保護管理の国家資格を持つ公務員です」


 ファロ大佐は無精髭を生やした顎を撫でる。


「森の動植物についてある程度知識があるということだな。

 巨大な空洞杉を倒したのも納得だ……」


 ルーチェはピンッと睫毛を上げた。


「空洞杉のことはご存知だったのですか?

 では、何故あんなに大きくなるまで放置されていたのですか?」


 質問してからルーチェはグッと黙る。

 前々から思っていたことだが、今言うことではないと思ったからだ。


「ヴィータ王国にとって魔法の森は神聖な場所だ。

 木を切ることは簡単ではない」


「空洞杉が周りの植物の栄養を奪う性質を持つ有害樹だとしても? エテルネルなら発見次第専用管理地区へ植え替えます」


「それがどうした? 王のご意向を否定するのか?」

 ファロ大佐の声が荒ぶる。

 ルーチェは即座に謝る。ヴィータ王国は国王が全ての頂点。国民は国王に従うのみなのだ。軍人であれば尚更だろう。


「ファロ大佐……」メイドが困ったように言う。

 するとファロ少佐はコホンと咳払いをした。


「話が逸れてしまった。

 アルカンシエル、運命の裂け目で起きたことを説明しろ。

 偽りなくだ」


 大佐の目は厳格な審判員のようだった。

 ルーチェはコクンと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ