10、行方不明のアルエット
ルーチェは魔法の森に向かう。
保護管理局に寄ろうかとも考えたが、多忙の仲間の手を煩わせるのは申し訳ないと考えた。自分の考え過ぎで済むならそれで良いのだから。
毛虫用睡眠薬。
調合する薬草を考えた時、一部『安全エリア』には無いものが含まれている。
学校で用意されているものを使うかもしれないが、それなら素直に毛虫用睡眠薬と書けば良い。しかし、アルエット達は香料用と申請していた。嘘をついた理由は恐らく引率必須にしたくなかったからだろう。申請時に採取するものや目的を確認した上で、エリアや引率有無を保護管理員が決める。ガイドや教員が一緒だと面倒だという気持ちはルーチェにも分かる。
しかし例年以上に防犯対策が求められている今、安易な行動は危険だ。
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ルーチェは森の入口から安全エリアに向かう。
整備された道が続く。小鳥のさえずりに、ささやかな葉のこすれる音。散策なら最高の場所である。
アルエットと同じ位と思われる子ども数名が固まっているのが見えた。ルーチェは走って近付く。
「あ!」「まずい!」
魔法学校の制服は着ていないが、持ち物に校章がついていた。予約リストにあった訪問者達で間違いないだろう。
だが、アルエットがいない。
「魔法の森保護管理員のルーチェ・アルカンシエルです」
ルーチェはベストから保護管理員証を取り出した。
「予約は4名のはずだけど、あともう一人はどこ?」
子ども達は互いに目を合わせ、最後にルーチェを見た。
「はぐれちゃったんです」と、女の子が言った。
「どこで? 保護管理局には連絡した?」
ルーチェの問いに女の子は首を振る。
「あの、ルーチェさんって、アルエットの知り合いですよね?」今度は男の子が言った。
「僕達、実は注意エリアにちょっと入ったんです。
どうしても欲しい魔法草が見つからなくて。
すぐに戻ったけど、アルエットだけ戻って来なくて」
「ルーチェさん、どうしよう!
アルエットに何かあったら!
やっぱり学校に連絡した方が良いかな?」
「馬鹿! そんなことしたら、最悪退学だぞ!
魔法の森にも今後入れなくなるかもしれない」
子ども達が混乱している様子が伝わってきた。
アルエットが心配な気持ちと、軽い気持ちでルール違反したことへの罪悪感とペナルティへの恐怖。
「こんなことならサプライズにしないで、ちゃんと先生に言えば良かったんだよ!」
「だってアルエットが知り合いの保護管理員がいるから大丈夫だって……」
言い合いになりそうな雰囲気を鎮める為、ルーチェは手を前に出す。
「分かったわ、落ち着いて。
あなた達は今すぐカフェ・タンドレスに行って、サンティエ・タンドレスに私の所へ来るように伝えて。
カフェ・タンドレスの場所は分かる?」
「はい! 何度かアルエットと行ったことがあります!
サンティエさんも知ってます!」
女の子が即答した。
「では、お願いね。
私も今日は非番なの。アルエットと合流したらカフェに行くから。あなた達はジュース1杯注文して宿題をしていなさい」
子ども達は素直に返事し、走って森の出口へ向かった。学校や保護管理局に行く訳ではないので、足取りも軽そうだ。
ルーチェは彼らが出口の方へ行ったことを確認してから、注意エリアに入っていった。




