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エカテリーナ様襲来事件から2週間程たった頃、私は、労働期間、無期限撤廃直訴のネタとなるブツを手に入れつつありました。もうすぐです!もうすぐ頃合いなのです!あと、1日か2日あれば……!!
などと、私が躍起になっていましたら、セレンから、私に対する良くない噂が流れていると、報告があがってきました。
最近増えた側仕えの彼女が来てから………。
マリアが来てすぐにリュタンに調べさせ、3日後くらいには報告が上がってきており、彼女が何らかの行動を興すことは、予想の範疇でした。
セレンにも、それとなく探ってもらっていたのですが、彼女は、思いの外早く、行動を興してくれました。
それが、この度の噂です。
セレンによると、側仕えになってから4日目あたりから、「私の思い違いだと思うのですが」だの、「こんな些細なこと、申し上げていいものか」など、前置きしつつ、私から嫌がらせ、もしくは虐めを受けていると話していたといいます。
それを聞いた侍女達の間で、広まっていき、侍女達と接点のある侍従達にも広まりつつあるようです。
セレンには、こちらに来た時から、アッシュベルト語は分からない振りをし続けてもらっていたので、簡単に情報が入ってきたそうです。
皆さん、セレンの前でも遠慮なく噂話をしてくれたので、楽だったと、セレンは言っていました。
マリア自身も、セレンが言葉が分からないと知った途端、遠慮なく目の前で、嫌がらせをされていると侍女仲間に触れ回っていたようです。
◇◇◇
そんな噂の渦中ですが、王太子殿下のお手伝いだけは、継続です。数字で吐きそうです。
「メルティナ嬢、ずいぶんな噂を流されているようだね?」
唐突に声をかけられ、はっとして顔を上げました。
もう、ライオネル殿下のところまで噂が広まっているのですね。思いの外早いです。
私の噂が勝手に流れる分には別に構わないのですが、あまり私が悪者になると、いろいろと動きにくくなったり、セレンが虐められたりしないかと、心配になります。
そろそろ、手を打つべきでしょうか……
「メルティナ嬢、だいぶ噂は広まってきているようだが、まだまだ、私達、王族の耳に入る程度ではないよ。ハハハ。
私も、彼女の動向に気を配っていたから知っただけだよ。」
悶々と考えていたら、顔に出ていたようです。
両頬を手で挟み、表情を繕いました。貴族の嗜みの、無表情がどうも私は苦手なようです。
それはいいとして、やはりライオネル殿下も気を配っていらっしゃったのですね。
ならば、ここは、少しずつ交渉していく時かもしれません!
「王太子殿下、他人の心を勝手に読まないで下さい。
それよりも、そろそろ、何らかの形で一歩踏み込む材料が欲しくなってきた頃合いではありませんか?わたくし、あと、2、3日で品を用意できそうなのですが?」
「それは本当か?それがあれば、踏み込むきっかけになるというのか?」
食いついてきました!
これなら行けそうです!
「と言う訳で、王太子殿下、この物的証拠を献上しましたら、この、お手伝いに期限を儲けていただきたいのです!!」
勢いこんで、立ち上がり、執務机に半分乗り上げる格好で、話を迫っておりました。
「いいよ。メルティナ嬢。その物的証拠と引き換えに期限を設けよう。考えておくよ。」
??!!!!!!
思ったより、あっさりと認めていただけました!
ふっ、ふふふふふふ!
やったわ!これで、この数字地獄ともおさらばよ!
そんなわけで、取り急ぎブツの回収が必要になったので、お手伝いのあと、弾む心を抑えながら、自室へと、急ぎました。
◇◇◇
いつもの、お茶会の時間です。
今日は、いつもにない待ち遠しさを感じていました。
その為か、エリック殿下がいらした時、自分でも思ってた以上に明るい弾んだ声で、歓待していました。
「殿下!お待ちしておりました!」
「???あっ、ああ?待っていてくれたのか?私が来たことがそんなに嬉しいのか?」
「ええ!(貴方のお陰でブツが手に入るので)とても嬉しいのです!」
「そっ、そうか……。」
いろいろな言葉をはしょりながら話ていました。
ああああ、いけません。これは顔に出過ぎです。無表情、無表情、無表情無表情………。
落ち着きました。獲物を狩る時は、最後まで油断してはならないのです!
反撃をもらってブツの回収に失敗したのでは、目も当てられません!冷静沈着!冷静沈着なのです!
最近のお茶会では、エリック殿下の希望もあり、日常生活に良く使う魔法簡易講座を開いております。
大変熱心に聞いて下さるので、上達は早い方だと、思いました。やはり、魔術師団団長なだけあるようです。
「今日は、空間固定の復習と収納の拡張と時間固定を教わりたいのだが、いいだろうか?」
「それは構いませんが、時間固定は少し、お教えするのに時間がかかりますよ?お時間はよろしいのですか?」
「そうだな、とりあえず、時間内に出来るところまででいいだろうか?中途半端になっても構わない。明日、続きを頼みたい。」
「承知しました。時間が許す限りで、お教え致します。」
なにやら、魔術学校の先生にでもなった気分で楽しいのです♪
しかしながら、基本、肉体派な私には、身体を動かさない実技では、物足りなさを感じてしまいますね。贅沢な悩みです。
魔法簡易講座を始めて数分程で、マリアが紅茶を持ってきました。
つい先程、リュタンから合図があったので、今日もこの紅茶に混ぜこまれているようです。私の目的のブツは。ウフッ。
机に置かれた瞬間、風魔法と水魔法を駆使して、薬剤と紅茶を分離させ、風魔法を微調整しながら、小瓶に収納していきます。
薬剤は目に見えない程の微量と細かさなので、マリアの目の前で分離を行っても気付かないようです。
マリアは、あまり魔力がないようで、魔力感知はできませんし、エリック殿下は、ご自分の魔法習得訓練に夢中で気付いておりませんし、私のやりたい放題状態になっております。
紅茶とお菓子を並べ終えたマリアが、去り際に厭らしい笑みを浮かべていたのも見逃しませんでした。
マリアが、一旦退出したあと、小瓶を眺めて、私が密かにほくそ笑んでいたことに気付いたのは、セレンとリュタンだけでしょう。
フフッ、ウフフフフ。
待っていて下さいませ!ライオネル王太子殿下!!
ここまで読んでいただきありがとうございます!