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第一印象は地の底から  作者: ゆめぴりか
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メルティナ暴走です。

 それから、私は、弁償という名の肉体労働をしに、王太子殿下の執務室に通うようになりました。1日2、3時間程ですが……。


 徒歩で王太子殿下の執務室への出入りは、端から見ればどお思われるかわかったものではないので、行きは、自室から執務室へ直接転移させていただく事を許していただきました。

 帰りは、自室に、魔法の事に明るくない侍女や、訪問者が居た場合、いろいろと面倒なので、図書館や庭でセレンと待ち合わせて帰る事にしました。


 私の確約されたスケジュール的には、午前中、王太子殿下の手伝い。15時、エリック殿下と休憩となりました。あとの時間はフリーです。



 フリーのはずだったのです。



 王太子殿下の手伝いを始めて2、3日は、手慣らしと申しましょうか、王太子殿下の側近のマーカス様ー赤茶色の髪に薄灰色の瞳の整ったお顔立ちの容貌ーに教わりながら、なんとかやっておりました。

 私は、算術が得意だったので、数日後には、ひたすら数字を合わせる日々を送るようになっていました。

 気づいた頃には、15時のお茶の時間ギリギリまで、執務室に籠っていることも増えていました。


 


 数字と睨めっこを始めて一週間程がたった頃でしょうか?

 何度計算しても、帳簿と税収が合わない領地が三件程でてきました。


 ………ウルセラ伯爵領………メドセーナ伯爵領………カヤシーナ子爵領……


 途中で面倒くさっ………私の手には負えなくなり、マーカス様に丸投げしました。

 マーカス様は、快く引き継いで下さいました。コメカミに浮いた血管は、私には見えませんでした。

 丸投げして、しばらく、王太子殿下とマーカス様が頭痛と闘っていらしたようなので、少しだけ、リュタンを貸してあげました。

 お二方共、踊り出しそうな勢いで喜んでおりました。

 お陰で、数日振りに昼食以降、フリータイムができました。

 開放感に浸りたくなった私は、宮殿のお庭散策に行く事にしました。

 1時間後にこのお庭散策を後悔する事になろうとは、思ってもみなかったのです。

 


◇◇◇



 久しぶりの庭園は、季節の花が咲き乱れ、とても美しく、室内で鬱屈した気持ちが爽やかに癒されていくようでした。

 草花の青々しい匂い。眩しい太陽の光。雲一つない澄み渡った空。開放感!最高!

 私は、どちらかと言うと、体育会系なので、体を動かす事が大好きです。特に、天気のいい日は、空を飛びたくなりますね!


 そんな、心地好い気分に浸っている時でした………。



 「あなたが悪役令嬢のメルティナね!」



 頭のオカシイ人、三人目がやってきたのです。


 悪役令嬢とはなんでしょうか?

 しかもこの、三人目さんは、お一人ではありませんでした。

 三人ほど、ご令嬢を引き連れてきていたのです。


 「なに、ぼーっとしてるの!?私は、ボルドレン侯爵家の長女、エカテリーナよ!!跪いて礼をするべきだわ!」

 「「「そーよそーよ!!」」」

 「エカテリーナ様は素晴らしいお方なのよ!」

 「エカテリーナ様以上にエリック殿下に相応しいお方はいないわ!」

 「エカテリーナ様の美しさ、聡明さに跪くべきだわ!」


 ああーー………。凄い人達がいらっしゃったようですよ。


 エカテリーナと呼ばれる侯爵令嬢は、ウェーブのかかった赤い髪に少しつり目の薄茶の瞳の気の強そうな美人さん?でした。

 頭のオカシさで、美人が半減ですね。


 などと、考えていると、エカテリーナ&おつき三人組がヒートアップしてきました。


 「隣国のお偉いとこの娘だかなんだか知りませんけれど、私とエリック殿下の仲を引き裂いていいわけがないのですよ!」

 「「「そーよそーよ!!」」」

 「エカテリーナ様の御実家、ボルドレン侯爵家と王家には深ぁい繋がりがあるのよ!」

 「それを、あなたごときが横槍なんて、いい度胸よ!!」

 「私達は、絶対に認めませんからね!!」


 貴女方に認めていただく必要はありませんが………。

 こんなに騒いで、品位というものが疑われますよ?

 お家の恥ですよ?

 かといって、前回同様、私の状況をご説明したところで、何の意味もなさない事は経験済み。反論は無駄。無言でやり過ごしましょうか………。

 と、思っていたのですが、このエカテリーナ様、思った以上に私の事を予習しておりました。

 中途半端に、エカテリーナ様の都合の良いところだけをピックアップして………。


 「ふんっ!何も言えないの?ああ~、まだ、こちらの言葉は不慣れなのかしら?私達の言葉が理解できないのかしら?他国に嫁ぐつもりで来ていらっしゃるのに、それはお粗末ではなくて?

あっ、頭が悪いから、無理だったのかしら?」

 「「「あははははは!」」」

 「私、知ってますのよ?あなた、自国では、魔力があるわりには、ノーコンで使えないのですってね?」

 「「「あははははは!」」」

 「そんなだから、体裁よく、追い出されたのではなくて?そんな、あなたのお家事情に巻き込まれたエリック殿下がお可哀想だわ!!さっさと婚約解消しなさいよ!!」


 ノーコンノーコンノーコンノーコンノーコン…………。


 ブチッ!


 「お嬢様!!いけません!!」


 セレンが何か叫んでいたように思いますが、何かがキレてしまった私には、聞こえませんでした。

 以前にも、申し上げた通り、私は気が短い方です。そして、なにより、私の魔法を侮辱されることが嫌いです。

 自国でも、私の魔法を揶揄してきた輩は、片っ端から血祭りに挙げてきました。

 身内だろうが、使用人だろうが、貴族だろうが………。

 従兄弟のお兄様を半殺しにしかけた時はさすがに怒られました。セレンが止めてくれなければ危なかったです。犯罪者になるところでした。


 そんなわけで、今、私は怒りで周囲に先の尖った氷柱を50本ほど浮かべ、エカテリーナ様を氷柱で太い幹に縫い止めています。

 ヒラヒラしたドレスの裾の部分は何ヵ所か氷柱で穴が空いてるでしょうね。


 ドシュコーーン


 スコーーーン


 ドスコーーーン


 少し高めの木を叩くような音が響いています。

 音と共に、一本目はエカテリーナ様のお顔の右側、10㎝くらいのところに深々と氷柱が突き刺さってます。

 二本目は、エカテリーナ様の左脇、腕と胴の間に。

 三本目は、エカテリーナ様の足下に。


 「ああ、外してしまいましたわ。」


 心底悲しそうな表情をしてみました。


 その後、空中に浮かべた氷柱はそのままに、私自身にだけ風魔法を使い、素早くエカテリーナ様の目の前まで移動しました。

 エカテリーナ様のお顔は、先程までの厭らしい笑みのまま、引き攣った状態で固定されておりました。

 私は、氷柱を一本だけ引き寄せて、エカテリーナ様の左眼球の数ミリ前で停止させて、囁いてあげました。


 「わたくし、ノーコンですので、このまま手が滑ってしまうかもしれませんね?」

 

 コテンと首をかしげて、エカテリーナ様を見詰めてみました。


 「あと、何十っ本手が滑るかしら?」


 無邪気に微笑んでみたのですが、エカテリーナ様は、顔色を真っ白にして、唇をブルブル震わせて、動かない口をなんとか動かして「ごっ、ごご、ごめんなさい!申し訳ありませんでした!」と、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔になりながら、謝って下さいました。


 「わたくし、ノーコンだったかしら?」


 と、お茶目に聞いてみると、


 「いいえ!いいえ!決してノーコンなどでは、ありませんわ!素晴らしい、魔法技術だと思います!ですから、この、目の前の氷をっ!!!」


 大変素直に訂正して下さいました。

 ついでに、

 

 「今日の事は、誰かに……?」

 「話しません!!誰にも話しません!!あなた達も言ってぇぇ!!」

 「「「ごめんなさい!話しません!!助けて下さい!!」」」


 息ピッタリですね。食いぎみに返事して下さいました。

 これ以上、王宮を破壊したのがバレると、どれだけ、王太子殿下にタダ働きさせられるか……恐ろしい。


 と、思っていたら。


 「メルティナ嬢?今度は、樹木かい?」


 あっ……………。見られてしまいましたわ。


 とりあえず、今まで空中に浮かべていた氷柱と木に刺さった氷柱を一瞬にして消して、笑顔で振り替えってご挨拶してみました。

 後ろで、エカテリーナ様の体がどさりと地面に座り込んだことには気づかない振りをして。


 「ご機嫌よう。王太子殿下。」

 「ああ。私の機嫌は、今、この上なく良いよ。ただ、樹木を傷つけるのは、感心しないな。」


 笑顔が怖い。

 慌てて、土と水の魔法を駆使して、樹木の成長を促し、幹にできた穴を塞いでみた。


 「きっ、傷とはなんでしょうか?」


 樹木の修復に驚きを隠せないでいた王太子殿下でしたが、そこは王太子教育の賜物。すぐに、表情を繕い、エカテリーナ様を立たせて帰しておりました。

 王太子殿下は、私に向き直ると、チラッと幹を確認してから、


 「………ほう、こんな事も出来るのですね。貴女は本当に器用だ。私も魔力はあるが、ここまで器用には操作できないよ。」


 「申し訳ありませんでした!」


 笑顔が怖い!!!おもいっきり頭を下げて謝罪しました。


 冷や汗が止まりません。何故先程、誤魔化そうとしてしまったのか!自分が憎い!


 「……あ、私の手伝い」

 「やらせていただきます!喜んで!!」


 食いぎみに言葉にしていました。

 頭を下げたままだったので、この時、王太子殿下の表情を見ることができませんでした。


 「いいよ。メルティナ嬢。今回は樹木の修復もしてくれているから、お手伝いは今まで通り、無期限で、許してあげるよ。」


 無期限、無期限、無期限………。


 辛い(泣)


 セレンを振り替えると、あからさまに、ホッとした表情をしており、セレンにも、心労をかけてしまいました。

 堪え性の無い主人で申し訳なくなってくる。


 『……セレン………。ゴメン。』


 久しぶりに母国の言葉を使って謝罪してました。

セレンは、大丈夫という表情で、コクンと一回、頷いてくれました。


 教訓、感情に任せて魔法を奮ってはいけませんね。




ここまで読んでいただきありがとうございます!

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