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前半、メルティナ視点
後半、ライオネル視点です。
一人目の令嬢突撃事件から3日くらいが経った頃でしょうか。二人目の令嬢が突撃してきました。
エリック殿下って、どれだけの令嬢に気を持たせるような事をしてきたのでしょうか?
エリック殿下の言葉を信じたらですが。
◇◇◇
前回の令嬢突撃事件後から、私は、王宮の図書館に通うようになっていました。
前回のご令嬢のように、隣国のコトに無頓着ではいけないと思ったからです。
自国にいた時から、いずれアッシュベルトに嫁ぐのだからと、言葉以外にも、文化や風習なども習いましたので、全く無知というワケではありません。無知では無いのですが、こちらの書物にはどう書かれているのか、興味本意で読み漁っておりました。
「もしもし?貴女がエリック殿下の婚約者ですか?」
不意に、頭上から呼ばれました。
ゆっくりと顔を上げると、ピンクブロンドの髪に緑色の瞳をしたご令嬢と目が合いました。
「初めまして、ヴァカルディス伯爵家が次女、リリアンと申します。」
ゆっくりとした、優雅な動作で挨拶して下さいました。
私も挨拶ですね!挨拶大事です!
「こちらこそ、初めまして、わたくしは、ラインハート公爵家長女、メルティナです。丁寧なご挨拶ありがとう。」
本来なら、リリアン様から私に話し掛ける事はマナー違反です。ですが、リリアン様は、私の家の事は知らなかったようなので仕方がありませんね。
リリアン様の顔色が少し悪くなったような気がしました。
「わたくしに何か?」
何しに来たのかと思い声をかけてみたのですが……。
睨まれました。急変しました。
「貴女、卑怯よ!」
(たぶん)怒りで震えながら発せられた言葉の意味がわかりませんでした。
何が?
「自分の家の力でエリック殿下の望まぬ婚約をさせたのでしょう?!わかっていますのよ!」
何を?
何をわかっていると仰っているのでしょうか?
私にはわかりません。
「なんて、恐ろしい女なの!エリック殿下がお可哀想ですわ!こんな女に無理矢理……。」
何か、また、頭のオカシイ方がいらっしゃいました。
何やらブツブツ言っていて、怖いです。
「何を思い違いをなさっているのかわかりませんが、わたくしとエリック殿下の婚約は、国と国で決められたコトですよ?
わたくしの思いは何一つ反映されてはいないのですよ?」
聞いてるか聞いてないかわかりませんが、一応、説明だけはしてみました。
私の方こそ、何故こんな言われ方をしなければならないのか、甚だ疑問です。
「そんなの、何とでも言えるわ!国と言えば自分は悪くないとでも思ってらっしゃるの!?それこそ、権力で無理矢理結ばせた婚約ということよ!私は認めないわ!解消しなさいよ!」
………何としてでも、私が悪者なのですね。
ヴァカルディス伯爵令嬢様には、この婚約に、私の意思がある、なしは関係ありませんでしたのね。とにかく、悪者であれ!って感じでしょうか?
何やら、また、面倒くさくなってきました。
「貴女のような人に、私とエリック様の気持ちは………!愛し合う気持ちはわからないのよ!早く出ていきなさいよ!」
「…………。」
本当に、わかりません。気持ちなんて、見えないのですから、特にです。それに、貴女と殿下の気持ちには、何の興味も湧きません。
あと、出ていけって、王宮は貴女の家ですか?
ただただ、この方は私を貶めたいだけの様な気配なのです。
本当に、何を言っても無駄でした。
「何か言ってごらんなさいよ!」
「…………」
「やっぱり何も言えないんじゃない!」
「…………」
「辛気臭い女ね!地味が染りそうよ!」
「…………」
限界です。
私、こう見えても、実家では、使用人の間で、『短気のメル様』と呼ばれておりました。
戦闘時は、短気になってしまうらしく、よく冷静になれと叱られておりました。短気は損気なのです。
わかっています。わかっているのですが、キレました。
術式展開。ウィンドカッター。
ザシュッ!ザシュザシュザシュ!スパーン!
本以外の物がキレイにキレました。
もちろん、令嬢のドレスも切り刻んでおきました。
勢い余って、図書館の壁や床も切れてます。
明らかにヤり過ぎました。
ヴァカルディス伯爵令嬢は、ゆっくりと頭を動かし、周囲の状況を見ると、そのまま気絶しました。
人って、スローモーションで倒れられるんですね。
カラン、カラン、カラ~ン
何が落ちた音に、素早く振り返りました。
そこには、エリック殿下と同じ金髪にエメラルドのようなキレイな緑眼の美丈夫が一人。エリック殿下の方が深い緑色の瞳をしているような気が……。
今はそれどころではありません!
この方は……、間違いなく………。
……………王太子殿下がおりました。
◆◆◆◆
私はライオネル。一応、アッシュベルト国の王太子をしている。
今日は、執務の途中、少し調べ物があったので、図書館に居た。
図書館に入った時、すでに弟の婚約者である、メルティナ嬢は、図書館に備えられている、読書スペースの一角に座り、何やら真剣に読書していた。
私には、全く気付いていなかったので、邪魔するのも悪いと思い、声をかけなかった。
メルティナ嬢の居るスペースの本棚を一つ隔てた読書スペースで、私も調べ物に没頭していた。
何やら、周りが騒がしいコトに気付き、話し声の内容に耳を澄ましていた。
「貴女、卑怯よ!」
「自分の………、わかって……」
「そんなの……、権力……、…………さいよ!」
なんだか、一方的に罵られている。この事は、弟は知っているのか?こんな令嬢にアイツはニコニコと対応していたのか。
いくら陛下の命令とはいえ、なかなかに苦労していたことに、今更ながら、気付いた。
しかし、このまま、メルティナ嬢が罵られ続けるのを放置しているわけにもいかず、いつ声をかけようか様子を伺っていた。
「何か言ってごらんなさいよ!」
こんな無礼な女性がヴァカルディス伯爵令嬢だったとは……。
ヴァカルディス伯爵にも、一言で済むかわからないが、抗議しておこう。
等と考えていたら………。
ザシュ!ザシュザシュザシュ!
バサバサ!
何か、ヤバそうな音が!
棚から現場を覗くと………。
切り刻まれた、ボロボロの服の令嬢が倒れていく姿と、本棚が、切り裂かれ、本が散乱していた。
彼女達の間にあったであろう読書用の机や椅子までも………。
無惨だ。
ただ、本だけは無事だった。
そんな緻密な魔術コントロールができるなら、物に当てないでほしかった………(泣) いや、わざとか………。
あまりの惨劇に、手に持っていたペンを取り落としていたが、それにも、私は気付いていなかった。
どのくらいの間があったのか。
メルティナ嬢が振り返り、キョロキョロ視線をさ迷わせ狼狽していた。手も、スカートを握りしめ、モジモジと落ち着き無く動かしている。
なんだか可愛らしい人のようだ。
「もっ!申し訳ありません!」
勢い良く、90°に腰を折り、謝罪してきた。
酷い惨状にもかかわらず、私は何故か笑いが汲み上げてきて、クスクスと笑ってしまった。
メルティナ嬢が、ポカーンとしたちょっとマヌケな顔で見つめてくるものだから、尚更、笑ってしまった。
「ずいぶんな絡まれ方をしていたようだが、大丈夫だったようだね。しかしながら、この解決法方は如何なものかと思うよ。」
笑いながら話した為、声が少し震えてしまった。
まあ、今の彼女には、そのことには気付かなかったようだが。
「!!本当に、申し訳ありません!物を壊してしまった贖罪として、わたくしに出来る事で、何でも御助力いたします!」
フフッ。安易に、何でもするなんて、言っちゃ駄目だよ、メルティナ嬢。
まあ、あまり虐めるとエリックにバレた時、少し面倒くさいので、ほどほどにしてあげるよ。クスッ。
「そうかい?では、いろいろ頼もうかな。貴女がどれくらい出来ることがあるのか、確認しながらになるが、私の仕事をやってもらうよ。………そうだな、一日二時間くらいから始めようか?」
「はい!如何様にも、御使い下さい!」
だから、そんなコト言っちゃ駄目だよ。
でも、見てるのが楽しくて、つい、弱みに漬け込みたくなってしまった。
彼女は、期限を切っていないコトに気付いてなかった。
私は教えてあげないよ。
しばらくは彼女のおかげで、退屈な日常から離れられそうだ。
「メルティナ嬢?この残骸と、そこのご令嬢は、私に任せてもらっていいかな?悪いようにはしないよ。」
「!!よろしいのですか!?………殿下に助けていただけるなんて……。ありがとうございます!」
この借りは高いよ。クスッ。
今回も最後まで、読んでいただきありがとうございます。