5
アッシュベルト到着直後からいろいろあって、疲れました。
今日は、移動の疲れも相まって体がダルいです。セレンに言って早めに休ませてもらいましょう。
「セレン、今日はもう、休ませてもらってもいいかしら?」
「夕食はどうなさいますか?」
「今日はいらないわ。」
「わかりました。軽食を用意してもらいますね。」
「っ!!……そっ、そうね。必要ないと………思う…けど。」
何か見透かされている気がします!!
たしかに、あったら食べちゃいますけども!!
ちょとだけ強がり、必要ないとか言っちゃいましたけども!!
セレン!ニヤニヤするのやめなさい!
“絶対食べるでしょ!わかってますよ!”的な顔やめなさい!
恥ずかしい……。とりあえず、顔を手で覆ってみましたが、たぶん、耳まで赤くなっているので無駄でしょうね。
セレンのクスクスと笑う声が聞こえます。
「とりあえず、支度を手伝ってちょうだい。」
「畏まりました。」
その日は、なんだかんだと言いつつ用意してもらった軽食を食べ、早めに就寝しました。疲れていたようで、目を瞑るとすぐに深い眠りに落ちていきました。
◇◇◇
それから、数日は何事もなく、穏やかに過ごしていました。
一日に一回は訪問してくるエリック殿下の相手する時間を除いては……。
宮殿で過ごすようになり、一週間くらいが過ぎた頃でしょうか?宮殿のお庭-一般の貴族向けに開放されている場所-でのお散歩をのんびりしていた時でした。
前から、一人の令嬢が近付いてこられ、斜め後方を付いてきていたセレンが、俄に殺気立ちました。
令嬢は、私の2~3mあたりで立ち止まると、挨拶もなく、話し始めました。
「あなたが、エリック殿下の婚約者さん?」
上から目線で話しかけてきました。
私より、頭一つ分程背の高い、金髪緩ウェーブで青い瞳のまあまあ美しい方でした。
「お初にお目にかかります。メルティナ・ラインハートと申します。第二王子殿下とは、縁あって、婚約者にしていただいております。
何か、わたくしめに御用でしょうか?」
とても失礼な態度に、イラッとしたので、丁寧な挨拶で返しておきました。普通なら、ここで自分自身の無礼な振る舞いに気付いて挨拶を返してくるのですが、この方は違ったようです。
「まあ!なんなの、偉そうに!用がなければ貴女に話し掛けてはいけないのかしら?!」
うっ……。高圧的だわ……。苦手なタイプだし、雰囲気的に話しが通じる気がしないわ。
これは、逃げるにかぎる!ですかね?
逃げ道を探すために、視線を巡らせていると、さらに口撃が増した気がしました。
「ラインハートなんて家名聞いたこともないわ!きっと、何の取り柄もないお家なのでしょうね!わたくしの子爵家よりも格下ね!」
ウチの家名は、他国でもそこそこ名を馳せてると思っていたのですが、隣国の末端貴族までは浸透していなかったのですね。
何より、この方、言い方がいちいちイラッとします。
私は、あまり、自分の言葉で自分の感情を表現するのが苦手なのです。今の私には、この方に言葉でわかっていただけるように話すことは、無理な気がしてきました。
「貴女聞いてるの!?わたくしはね、貴女のような方に忠告を差し上げてるのですよ!貴女のような方は、エリック殿下には相応しくありませんわ!さっさと婚約を解消なさって自領にお帰りなさいと言っているのよ!聞いてらしたの!?」
いえ、きゃんきゃん言われて頭痛が……。
「何故このような方が婚約者なの?わたくしの方が美しいし、教養もあるし、淑女としてのマナーも完璧ですのに!あっ!マリアンヌ様には負けるかもですが、きっと、エリック殿下はわたくしの事が一番お気に入りのハズですわ!」
隣国の貴族も知らないで教養とか……。無いでしょう。
この方がエリック殿下の婚約者になりたかった事はわかりました。しかし、それと私が絡まれるのは何か違う気がいたします。
それに、知らない令嬢の名前が出てきました。
最悪、その方、“マリアンヌ様”とか言っていたでしょうか?“マリアンヌ様”にも絡まれるのでしょうか。
面倒くさい。
「ちょっと、貴女!わかったのなら、貴女からさっさと婚約解消を申し出なさいよ!そして、わたくしを次の婚約者にってエリック殿下に伝えるのよ!わかった!」
何でしょう。名前も名乗らないこの方の言い分に、激しく苛立ちを覚えました。でも、うまく言葉に出来ません。
力業でいきましょうか?
そろそろ、セレンが限界のような気がしてきました。触るな危険!です。
何より、私自身が面倒くさくなってきました。
ここは、一発……。
術式展開。サンダードロップ。
パリパリッ!!……ドガッ!
見知らぬ令嬢の足下に、雷を落としてみました。
私、口頭で詠唱しなくても、魔法が使えるのです。
攻撃魔法には、雰囲気を出すために、自分で考えた名前を付けてみちゃったりしています。エヘッ。
庭園の石畳が砕けています。最小限のパワーで落としたのに、脆いですね。
足下に雷を落とされた令嬢は、両目を見開き、青ざめて、カタカタと震え出しました。
「情けないわね、この程度で。次は何処に当てて欲しいのかしら?ここ?ここ?それとも……こちら?」
小首を傾げて、人差し指で、腕、心臓、頭の順に示していきました。
頭まで、指差した時点で、泣きながら失禁しだしたので、とりあえず、指差しを止めました。
「私、加減とコントロールが苦手なの。貴女はきっと、誰にも言わないわよね?ウフッ。」
愛嬌のつもりで笑ってみたけど、和むどころか、相手の女性は激しく縦に首を何度も振り、真っ青を通り越して、真っ白な顔で約束してくれました。
たぶん、この方とはもうお会いすることはないでしょう。
最後まで、お名前わかりませんでした。ですが、もういいですよね?後で誰かに報告とか必要でしょうか?第二王子殿下とか?
何やら面倒くさい気しかしませんので、スルーでいきたいと思います。
それより、何故か、私よりセレンの方がスッキリとした顔をしていました。
まっ、いっか。
何事もあまり深く考えても良い事はありません。
特に、今回の件は無かったことにしろと、誰かが囁いている気がします!素直に乗っかっておきましょう!
読んでいただき、ありがとうございます!