4(エリック視点)
エリック視点です。
だいぶ、エリックぶっ壊れてきました。
三人を追いかけて、第二王子妃用の部屋に飛び込む。
と見せかけて、そっと入室した。
中では、ヴィルが平謝りしているところだった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
なんか、メチャメチャ謝ってる。
しかし、それ以上に、目の前に、あのメルたん……、んっゲフゲフ!メルティナ嬢がいる!リアルに!呼吸してる!
その事実に歓喜してしまい、しばし見つめてしまった。
はっ!いけない!私も謝らねば!先程、あのような状況を見られた後だ、あらぬ誤解をしているに違いない!メルたんの誤解を解かなくては!
私の気持ちまで、誤解されてはたまったものではない!
この、約8年の想いがきちんと伝わらねば意味がないではないか!
思考の中で、焦りを覚えた私は、慌ててヴィルの隣に並び、
「すまない!だが、一つ言い訳をさせてほしい!」
と、叫んでいた。
おもいっきり言い訳とか言っちゃってるよ自分。でも、今ここで必死にならねば、後がない。メルティナ嬢が帰らないように、どーにか納得してもらえるように、全力で言い訳せねば!
「貴女には何の非もないのだが、私が、貴女を王子妃に迎える事を良く思わない貴族がいくつかあり、いずれも力のある家柄の為、事を荒立てたくはないという陛下の意向もあり、先程の令嬢の訪問も無下にはできず、穏便に帰ってもらえるよう話しているところだったのです!」
一息にまくし立ててしまった。
しかしながら、私の想いは伝わったはず!と思って、メルティナをみると、少し眉間に、皺を寄せ、“疑ってます!私のコト忘れてたでしょ!”と顔に書いてあった。
あっ、彼女は全て表に出るタイプか。そんな、素直なメルたんも可愛い!眉間の皺も舐めたいほどだ!
いかん!謝らねば!
「っ!!申し訳ない!貴女の到着を忘れていたのは私の落ち度だ!」
全力で謝ったおかげか、メルティナの表情が少し和らいだ気がした。いや、あれは、何か可哀想なモノを見る目か……?
そんなこんなと、考えているとメルティナから衝撃発言が発せられた。
「わかりました。しかしながら、私、先程のお二人の様子を不貞行為の詳細として手紙にしたためて、父に送ってしまいました。」
「いつですかっ!?」
「先程、廊下に蹲っている時に送りました。」
「「!!!」」
「もうそろそろお返事が届く頃かと。」
なっ!なっ!ラッ!ラインハート公爵に、不貞を知らせる手紙!
膝から崩れ落ちそうになるのを、なんとか気力で耐えた。
が、今度は、婚約解消を言い渡されるのではないかという恐怖で支配される。ちなみに、隣にいるヴィルも真っ青だ。
内心、かなり動揺しているがなんとか顔には出ずに済んでいる。王子教育スゲー。
とにかく、ラインハート公爵からの沙汰を待たねばと思いはじめたところで、メルティナの側の空間が歪む。
魔力の気配を感じ、少し身構えていると、手紙が二通現れた。
もう、返事きた!早っ!
空間転移魔法か?やはり、アグニスの魔法は素晴らしい!術式の難解さもさることながら、何より、実用的だ!是非、この技術をメルたんから手取り足取り教えてもらいたい!
もっと早くこの技術を身に付けておけば、メルたんと高速文通が可能だったのに……。あっ、いや、無理か。今までも、何度も手紙を書こうとしたが、どーにも内容が……。ヴィルに言わせると『ストーカーの考える内容なんか手紙に書くな!そんなモノ読ませてメルティナ様に嫌われたらどーするんですか?!』的な内容らしい。ちょっと無礼過ぎないか?
そんな、欲望まみれの思考の中にいたが、手紙を読み終えたメルティナから声をかけられた。
「エリック殿下、お父様からは、こちらの手紙をヘンリー・アッシュベルト国王陛下に、できるだけ早く読んでいただいてほしいとのことでした。お願いしてもよろしいでしょうか?」
なんか、凄い可愛い顔で見つめてきた!!
こんなお願い聞かないわけがないでしょう!
「承知した!陛下にはすぐにでも読んでいただけるよう、私が直接運ばせてもらうよ。……それで、あーー……ラインハート公爵令嬢、貴女はここに居てくれるのか?」
あ゛アアアア、“メルたん”と呼びたい!!
いつもの“メルたん”と呼ぶわけにもいかず、全く呼び慣れない家名で呼んでしまった。なんか、他人行儀みたいで寂しい……。
「エリック殿下、私のことはメルティナとお呼び下さい。
それと、お父様からは、このままこちらでお世話になれ、とのことでしたので、当初の目的通り、滞在させていただきます。
よろしくお願い致します。」
っ!!私の心を読んだかのように名前呼びを許してくれた!
私達は通じ合っているのか?!幸せ……。
「そうか、よかった。こちらこそ、よろしく頼む!」
あまりにも嬉しくて、勢い良く返事してしまった!
メルティナがちょっと驚いている。そんな表情も可愛い。
はっ!そうだ!これだけは頼まねば!
ラインハート公爵の誤解だけは解いておかねば!
疑われたままでは、いつ婚約解消を言ってくるかわからない。そんな不安要素は、早々に解決しておかねば!
メルたんとのラブラブ婚約生活に支障が出てもいけないからな!
「……メルティナ嬢。こんなお願いはするべきではないのかもしれないが……。頼む!コトの真相として、先程伝えた私の言い訳を、お義父様にお伝え願えないだろうか!!」
「そーですね。誤解?でしたね。お父様には、エリック殿下から聞いた状況をそのまま報告させていただきますね。返事は……たぶんすぐにくると思います。」
何か思案していた様子のメルたんだったが、すぐに報告してくれると言ってくれたので少し安心した。
メルたんは私の目の前で手紙を書き始めた。
便箋が宙に浮いて止まっている。そんなこともできるのか?!
それが出来れば、何時でも何処でも、メルたんメモリアルが綴れるではないか?!その技術も是非修得しよう!
心に決めた瞬間だった。
「……凄いな。魔法を日常的に使っているのか……。なるほど…。そーすれば………。」
メルティナには、公爵からすぐに返事がきていた。少し、肩を落としていたようだか大丈夫だろうか?
とにかく、私には、陛下に手紙を届ける使命がある。行かねば。
「では、メルティナ様。私と殿下は、公爵の手紙を陛下に届けますので、これで失礼します。この部屋はメルティナ様専用の部屋ですので、如何様にもお使い下さい。では、ごゆるりと。」
な゛っ!!ヴィルが退室の挨拶をしてしまった!
まだ、メルたんを見ていたいのに!!
と思ってヴィルを睨んでいると、私の10倍以上の冷気と圧力を持った笑顔で見てきたのて、呆気なく私の勢いは消失した。
怖い。
「メルティナ、陛下に手紙を届ける為に失礼するよ。何かあれば、すぐに私に言ってくれ。対処する。では。」
ちょっと格好つけて、“メルティナ”なんて呼んでみてしまった!なんか、良い感じ!
とりあえず、陛下の所に行ってこよう。
◇◇◇
かなり待つ事を予想していたのだが、思いの外早く謁見させていただけた事に驚いた。
やはり、アグニス国の宰相様からの手紙は別格か。
陛下の執務室に入ると、最奥、窓際で書類の山の中に陛下は埋もれていた。
「父上、失礼いたします。」
私の事など見えていないであろう陛下に向かって、膝を折り、礼をする。
ちなみに、普段は私は、陛下と呼んでいる。私的な場で父上を陛下と呼ぶと父上はいじけるので、“父上”と呼ぶようにしている。
「ああ、エリックか。アグニスの令嬢はどうだ?問題ないか?とにかく、仲良くやれよ?……ところで、手紙とはなんだ?」
何処から話せばよいのか……。手紙を陛下に読んでいただく前に、事の次第を一通り話した方が良いだろうな……。
己の失態とはいえ、やっちまった感がハンパない。
「父上、その事も含めて、手紙をお渡しする前に説明させていただきたいのですが、よろしいですか?」
「??……わかった。説明を聞こう。」
今までの経緯を簡潔に説明してみた。
陛下の顔色が俄に曇っていくのがわかった。
「して、手紙は?」
「こちらにございます。私は内容は存じ上げません。」
「とにかく、読まねば始まらぬな。どれどれ………。」
どのくらいの時間が経過したのだろう。数分程度のような気もするが、緊張の為か数時間経ったような感覚がする。
大きな溜め息をつき、陛下が顔を上げた。
「……あの鬼畜宰相、もともとの条約にさらに条件をつけてきよった。……娘の心の傷の代償とか言っとるけど、関税の減税は関係なくない?!」
「父上、口調が乱れております。」
「!それもこれも、エリックのせいじゃろう!?もう、これ以上関税下げたら国内品の価格ヤバくない?!流通が輸入に傾き過ぎちゃわない?!ダメじゃない?!もう、やだぁ……。」
陛下、ご乱心。自分のせいなので何も言えない。
扉の横に控えていた陛下の側近も頭をかかえていた。すまん。
多少の不貞、されど不貞。不貞行為はしてないが、状況がそんな言い訳を許さない。
ああ、逃げたい。
しかし、メルティナとの婚約だけは、貫きたい。
「父上。メルティナ嬢との婚約中の間になんとか挽回したいと思っております。私の気持ちはメルティナ嬢と伴に、です。私の行いから、ラインハート公爵の要件がなんとか緩和されるよう努めてまいります!」
「………わかったようなわからんような。とにかく、好転するように努めよ。」
陛下が一気に老け込んだような気がするが、とにかく、メルたんとの仲の改善は急務だ!頑張ろう!
一人熱く燃える私に対して、ヴィルが大変残念なモノを見るような目で見ていたコトには気付かなかった。
早く、アノ部屋に帰りたい……。
いやっ!今はメルたんを生で拝めるではないか!!
メルたんに逢いに行きたい……。