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神に至る拳  作者: ツタン亀ーン
8/13

プラナコントロール その二


「そしてお前はこの症状になった以上、もう人としては扱われねぇ」


「は・・・?」


 人としては扱われない。文字として理解は出来る。しかし、意味は全く理解できない。そして、師匠の真剣な顔付きからこのことを冗談で言っている訳ではないことも分かった。俺には理解出来る術がない以上更にここから詳しく聞く以外にこの疑問を晴らすことは出来ないだろう。

 

「・・・人としては扱われないというのは具体的にどういう意味ですか?」


「まぁ、これはもし後天性プラナ不全症候群になっていることが世間にばれたらの話だがな。もしばれてしまった場合は世界中から特別な指名手配をくらい犯罪者となる。基本的には自分が今いる国の警察やそれに近い組織にひたすら追われることになるだろうな」


「後天性プラナ不全症候群は一昔前に流行っただけのただの病気じゃなかったんですか?そんな、犯罪者扱いだなんて。それに捕まったらどうなるんだ!?」


「さぁな。プラナのための人体実験に利用されるとかいろいろ噂はあるが、そもそも捕まる前に殺されちまうケースが多いしな。捕まった後どうなるかは知らねぇ・・・まぁ、だが捕まってその後出て来たって奴の話は聞かねぇから大体最後はどうなるかは想像つくがな」


 俺は余りにも想像していなかった話だったために思考が止まってしまっていた。現実感もなくいまだ理解もできない。しかし、やはり嘘は入っていないのだろう。


 太一が言葉もなく絶句しているのを見てか、安心させるような顔をして話しかけてくる。


「まぁ安心しろや。今から行うプラナコントロールさえできるようになれば、まずばれることもなく生活できる。というわけで早速やっていくか」


「ちょっと、待ってください。まだ・・・まだ分かってないことがあります。それを先に教えてください」


「ん?まぁいいけどよ」


 恐ろしい話ばかり続けていてテンションが下がっても困ると思い、とりあえず訓練を先にしてやろうと思っていたのにここで更に聞いてくるとは意外と根性があるのか、それとも単に好奇心が強いだけなのかどちらにせよそれは少し意外に男は思った。


「後天性プラナ不全症候群っていうのは結局なんなんですか?さっき師匠が言ってましたけど、世間一般の認識は実は間違っているというやつと何か関係あるんですか?」


「おっとそうだ、大事な説明を忘れていたぜ。太一はこの病気の症状はどういったものか知ってるか?」


「たしかプラナを取り込めなくなるんじゃありませんでしたっけ?」


「そうだ、この病気はなぜかプラナが取り込めなくなるといわれている。だが実際はそんなことは無い。むしろ普段の数十倍は体にプラナが満ちている状態になっているんだよ」


「えぇ!まさか」


「いや本当だ、実際お前から感じられるプラナの気配は並みの人間の数十倍はあるだろう。」


「それが本当だとしたら、なんでプラナ取り込めなくなるなんて嘘を言ってるんだ?」


「さぁなそれについては俺は何もわからん。ただ、この病気が流行った昔の頃はプラナを正確に計測する方法がなかったから、恐らくプラナが取り込めなくなるだろうっていう間違った情報が今も言われているというのがありそうなんじゃねぇか?」


 なんにせよ今の自分にはいつも以上にプラナが満ちているというのは全くもって信じられない。なんせ今の自分の体調は絶賛大不調中なのだ。俺は師匠にさらに詳しく症状について尋ねると今度はある程度納得できるような理屈の通っている説明が得られた。

 というのもプラナ不全症候群になるとプラナの安定機能というものが狂ってしまうらしく、自分の閾値を超えてプラナを過剰に吸収してしまうせいで体は体調不良を起こし、PCDは設定以上のプラナの流れに異常を起こし動作しないらしい。


「なるほど、大体は分かりました。でもまだ、肝心なことが分かっていません。なぜこの病気にかかると犯罪者として世界中から追われることになるのかを、教えてください」


そう、一番重要なところはここだろう。色々理由があるにしろたかがプラナが過剰吸収してしまうくらいで問答無用で捕まえられる犯罪者になるわけがない。


「そこがやっぱり気になるか。そうだな・・・これについては大きく分けて二つ理由がある。一つは病気にかかった人間の中から極少数だが、大量に過剰吸収してしまうプラナをコントロールしてしまう人間が現れたことだ」


「プラナをコントロールするって、たしか今から俺が覚えることでしたよね。そんなに危険なことなんですか?」


「プラナをコントロールすると自分の閾値というプラナの上限の枷を上げたり下げたりすることが自由になるが、これ自体に危険性はなにもない。問題はこのコントロールできるようになったプラナで自分の身体能力や感覚機能を強化することで通常の人間とは一線を画す力を得てしまった人間がいるということだ」


 そうか、師匠の意味の分からん格闘術はともかく、あの化け物染みた力はプラナをコントロールしてるからなのか。人間じゃないなと思ってたけど、ある意味で本当に人間辞めてたんだな。

 ということは俺もプラナをコントロールすることが出来るようになれば、漫画の主人公のような力を振るえるようになるんだろうか。思春期真っ只中の俺からすればスーパーマンになれるかもしれないというだけで心が揺れ動くぞ。


「俺もプラナをコントロールできるようになればその身体能力強化とかが出来るようになるんですか?」


「言っておくがプラナをコントロールできたからと言って体に強化を掛けたりすることはそう簡単にできることじゃねぇ。それに、俺はお前がそうやって力を使うつもりならプラナをコントロールする術を教えるつもりはねぇし今後力を付けて悪事を働こうもんなら容赦なく殺しに行くぜ」


「いや、確かに力を使えるようになるのは魅力的だけど俺は今の生活を無事に過ごせるならそれで充分だから大丈夫ですよ」


 内心少し惹かれるものがあったことは胸の内にしまっておいた方が良さそうだ、師匠は冗談ではなく真面目に殺しにきそうだからな。それに、俺は今の生活が何よりも大事ということは嘘ではない。


「そんなこと言うやつに限って力が手に入るかもしれないと分かると無茶をしてプラナをコントロールしようとして最終的に死ぬんだけどな。」


 師匠は悲しそうな表情で顔を上に向ける。何かを思い出そうとしているのか目を閉じながらじっとしていた師匠はゆっくりと口を開く。


「一つ目はこれでなんとなくわかっただろう。プラナをコントロールすることで力を付けてしまった人間はその力で悪事や暴力事件を引き起こしたんだ」


「でもそんな話は聞いたことないですけど、そういう事件は表沙汰にはされてないということですか?」


「そうだ。力を恐れた政府はプラナをコントロールした人間をこれ以上産み出さないように徹底して情報封鎖をしたんだ。そして、その傍らで俺たちのような後天性プラナ不全症候群の人間を片っ端から排除するようになったんだ。」


「でも、こういってはなんですけどこれで世界的な犯罪者になるというのは少しやりすぎなんじゃないですか」


「まぁそうだ。これは二つ目の理由にも重なることなんだが、ある事件が切っ掛けで決定的に俺たちは追われるようになった」


「事件?それはさっき言っていた暴力事件とは違うんですか?」


「事件の方向性が違う。暴力事件は結局のところ悪意を持った何者かによるものだが、この事件は誰も悪くはなかったんだ。それなのにお互いの陣営に多大な被害を及ぼした。これは、今では俺たちの禁忌とされている"暴走"というものによって引き起こされた事件だった」


 "暴走" 字面から判断するに自分達の意思を伴っていない何かが起こってしまったのであろうことは想像できるが、一体何が起きたというのだろうか。どうやら、暴走したのは師匠側のいわゆるプラナをコントロールした人間のようだが・・・


「"暴走"というのは詰まる所力を求めすぎて理性も人間性も捨て去り本当の意味で人間を辞めちまうことなんだ」


「人間を辞める・・・?」


「そうだ、プラナの閾値を極限まで上げた結果プラナをコントロール出来なくなり大量のプラナを吸収し続けた肉体は変化を起こす。あるものは頭から角が生えたり、あるものは獣のような尻尾が生えたり悪魔のような羽が生えたりと、まぁ変化は様々だが、まさしく人間を辞めた風貌に変異した。その状態になった者は人間としての知性は一切なくなりひたすら破壊を繰り返し続けるだけの化け物になっちまうんだ」


 獣のような尻尾?人間を辞めた風貌だと?それはもしかすると先日神隠しに現れたあの化け物と同じだったのだろうか。もしそうだというのなら神隠しのおかしな点にも納得のいくことがある。


 先日の化け物が"暴走"によって生まれたものだとするのならば、警察から情報が封鎖されているのも当然だろう。それにあの化け物の馬鹿力も師匠と同じタイプだと考えるとこれまた納得が行く。

 と、いうことはだ。あの化け物が暴走した姿だと仮定すれば、そいつを退治しに師匠の言う所の国側の人間がこの町にきているんじゃないのか。いや、というか師匠はあの化け物を倒していたな。あれ?どっちかというと師匠からすると化け物は仲間じゃないんだろうか。


 とにかくまずは、神隠しと関係があるかを聞いてみるか。


「師匠。もしかして、その変異した人達って昨日俺のことを襲った化け物と何か関係あるんですか?というかあれこそが暴走した姿なんですか?」


「んんんん?そういえば似てる部分あるな、深く考えてなかったんだけど。あれ?関係あるんだろうか」


「え・・・?全くそういうこと考えずに戦ってたんですか?というか何のためにあの化け物と戦ってたんです?」


「あ?何のためって強そうな気配を感じたから喧嘩しにいっただけだよ、別にあいつ等と戦うのに特別な目的なんかがあるわけじゃねぇからなぁ」


 さっきまで真面目な顔して頭良さそうな話してたから勘違いしそうになってたけど。この人、やっぱり基本アホだよな。


「あーでも多分違うぞ、暴走した時は体の一部分にちょっと角とかが出てるだけだし、あんな明らかに化け物みたいな見た目じゃなかったしな」


 そうなのか、てっきりそうだと思ったのに。だったら神隠しの時に現れるあの化け物は何者なんだ・・・?


 俺が思考を巡らしていると師匠は呆れたような表情で続けて喋り出した。


「というか話が脱線してんぞ。とにかくあの化け物の話は置いといて話を続けるとだ、突如暴走者が暴れに暴れまわった結果お互いの陣営は戦闘不能状態になった。そしてその後世界中の政府は後天性プラナ不全症候群を根絶するために俺らとは完全な敵対関係になったってわけだ」


「事件が起こったのは日本だったんですか?」


「いや、世界中のあらゆる場所で起こった。事件が起こった日付は完全に一致していたわけではないが大体同じ頃だったはずだ」


 そんな大きな事件が同時期に起こるなんていうのは明らかに不自然だ。何者かが手を加えて事件をそういう風に仕向けたという可能性が高そうに思えるが、そんなことは当時の人間だって分かってただろうし、当然後で事件に誰かが介入した可能性を考えて調査もしたんだろう。

 そうして師匠がどちらにも責は無かったと言ってたということは結局調べても何も出てはこなかったんだな。


「そんな大きな事件だったら被害も大きかったんですか?」


「被害規模としたら大した数ではなかっただろうな。そもそも、俺たちの絶対数はそんなに多くないからな。暴走して暴れるといっても結局数人が暴れた程度じゃ大した被害にならないんだよ」


「え?でもさっき・・・」


「つまりだな、単純に物理的被害が出るよりも恐ろしいことが起きたんだ。さっき"暴走"の説明をしたときに言い忘れていたんだが実は最も恐ろしい特徴が一つあるんだ。それはな、"暴走"ってのは他の人間にもうつるんだよ」


「うつる・・・?ということは、まさか政府側の人間も・・・?」


「そう、プラナ不全症候群だろうがそうじゃなかろうが問答無用に"暴走"はたちの悪い病気のように感染するんだ。自分の閾値の限界以上のプラナに耐え切れず発狂していく人間で溢れかえる戦場は、まるで地獄だったぜ」


 師匠はまるで足で嫌なものを踏んでしまったときのように不快感を露わにした顔でそう言った。


 俺は神隠しの時の化け物と楽しそうに戦う師匠を見ているせいか、あんまりそういうのに拘らずに戦えればなんでもいいとか考えている戦闘狂だと思っていたのでこういう反応をするのは意外だった。


(あんな師匠にでもこれは許せないという人間としての感情は残っているのか・・・)


「まぁ話は長くなったがそういうことだ、お前がここでプラナをコントロールしないまま元の生活に戻ると、間違いなくどこかで捕まって死ぬだろうな」


 太一は余りの情報の多さにでかい溜息をつきながらある程度現状を理解しつつあった。当然まだまだ不明瞭なことも多かったが一通り疑問点であった部分は解消されたと思われる。で、あればもう聞くこともない太一が次にやることも決まっている。


「師匠、ようやく色々と納得が行きました。遅くなりましたがプラナをコントロール方法を教えてください」


「あぁああああああああああ・・・長かったな、説明」


 師匠は俺の10倍は長い溜息を付きながら体を大きく上に伸ばして、もうこれ以上長い説明は絶対にしねぇという気持ちが籠った指を俺に突き付けながら話し始める。


「おし!太一の気持ちも固まったことだし今からはサクサクやってくぞ!」


「で、何をすればいいんです?」


「俺はもう絶対に長い説明はしねぇぞ。とにかく今のお前は自分のプラナを感じることができてねぇ、そうだな?」


どれだけ説明したくないのか。わざわざもう一度宣言してから師匠は俺にプラナを感じるかどうかを聞いてくる。しかしプラナを感じるというのはどういうことなのか、プラナは電気や炎のようにそもそも触れたり見ることは出来ないと言われている。ということはなにか、俺は今からそんな世の中の常識を外れる訓練でもさせられるというのか。


「プラナを感じるという意味がそのままだとしたら当然そんなことできないですけど。まさか感じれるように今からなれとかいうんですか」


「当たり前だ、というかこれを感じ取れるようになれなければプラナをコントロールするなんて出来る訳ねぇぞ。まぁ・・・安心しろや、プラナ不全症候群だったら絶対感じ取れるはずだし今まで俺の訓練でこれを習得できなかった奴はいねぇからよぉ」


「え、えぇせめて詳しい説明を――」


「長い説明は無しとさっき言ったろう。こんなことはやって体に覚えさせるしかねぇんだからよ。というわけで早速やってもらうぞ、地獄のダッシュループの始まりだ」



とんでもない悪人面をしながら師匠は俺に有無を言わさないように無理やり特訓を開始させた。



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