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神に至る拳  作者: ツタン亀ーン
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プラナコントロール


 太一は晩御飯の買い出しを済ませた後家に戻っていた。家の中では居間で裕二が勉強をしていて、その周りで愛が走り回っている。裕二は勉強中にも関わらず愛が周りをうろちょろしているので、どこかに行って欲しそうに愛の方を振り向いているが、愛はそれには全く気が付かずに走り回っている。


 俺はとりあえず愛と裕二にただいまと言ってから居間を抜けて台所まで行き、買ってきた荷物を冷蔵庫にしまいこむ。すると、裕二がなんともいえない顔をしながらこちらにやって来た。


「ねぇ兄ちゃん。愛に居間で遊ばないように言ってほしいんだけど」


「愛にはそのことは伝えたのか?」


「最初の時にね。でも最初はおとなしくしてたんだけど、気づいたらあの感じで直ぐに遊びだすんだ。その後も何回も注意したんだけど、本当に一時的にしか静かにしてくれなくて・・・。兄ちゃんなんとか言ってくれない?」


「言うのは別にいいんだけど俺が言ったところで一緒じゃないかなぁ。俺が言うよりは祖母ちゃんが言った方が言うこと聞きそうだけど?」


 普段なら愛はこの時間なら外で遊んでいるので、裕二の勉強の邪魔になるといったことはないのだが、今日はどうやら昨日俺がお願いしたことを律儀に守ってくれているようでその結果、裕二の勉強の邪魔になるといったなんとも悲しい噛み合いをしてるようだった。

 愛に言うにしても昨日あれだけ嫌がってた愛に珍しくお願いをしたばっかりなのだ、些細なこととはいえ兄としてはあまり言いたくはないのが心情だ。


 そしてさりげなく祖母ちゃんはどうなのかと聞いた返事は祖父ちゃんの手伝いとかで少し出かけているそうだ。で、あればとりあえず俺が愛に話しかけるほか無いということで、買ってきたメロンパンを渡すついでに、話をしに行くことにする。


「おーい愛、昨日頼まれてたメロンパン買ってきたぞ」


「あ、お兄ちゃんありがとう!さっそくメロンパン食べてもいい?」


「あぁいいよ」


 本当はこの時間から大きいメロンパンを食べると晩御飯前なのでご飯がまずくなるだろう、と祖母ちゃんに怒られるのだが、それでも愛はいつも買ってきたら直ぐに食べてしまうのを俺は知っているので今更愛を止めよう等とは考えてもいない。


「と、ところで愛は」


「そうだ!ねぇ兄ちゃんメロンパン食べ終わったら久しぶりに一緒にゲームしよ!」


 愛はさっそくメロンパンをガサゴソと袋から取り出しながら俺のか細い声をぶった切りながら、質問をしようと思っていたことをしにくくなるようなお願いをしてきた。

 そもそも俺はこれから出かける用事があるのでゲームをすることは出来ない。


(色々とタイミングが悪すぎるなぁ・・・普段なら絶対に断らないのに・・・)


「ゲームもいいんだけどここでやると勉強してる裕二の邪魔になるぞ?・・・ん?そういえば愛はさっきまでここで遊んでたのか?」


 裕二が勉強しているのにここで遊んでいたのか?と可愛い妹にストレートに問いただせない俺は、それとなーくさりげなーく聞くことに成功して内心ガッツポーズをとる。


「うん、兄ちゃんに邪魔ーって言われたけど、よく考えたらここみんなの場所だから別に遊んでも問題ないんじゃないかなーって思って・・・」


 俺は愛にそう言われてそういえばそうだな、と今更ながらに気づく。そうだよ、ここ居間だった。であれば、愛の主張は理にかなっている。というか裕二は自分の部屋で勉強したらいいのではないか・・・?

 俺と愛が話している間に裕二が戻ってきていたので聞いてみることにした。


「なぁ、裕二。自分の部屋に戻って勉強したらダメなのか?」


「僕、自分の部屋で勉強すると集中できないんだよ。漫画があったり遊ぶ道具もあるし、それにベッドがあるでしょ?僕あれの傍で勉強してるといつの間にか寝ちゃうんだよね」


「なるほど、普段家で勉強なんて全然しないから全く分からんが、そういう物なのか」


(しかしこうなってくると、どうすればいいんだ?やっぱりどちらかに我慢をしてもらうのがいいんだろうか。いや、でも俺には選ぶ権利などないし・・・)


 弟と妹が見てくる中どうしようとうじうじ考えている情けない兄を見せていると祖母ちゃんが帰ってきて声を掛けて来た。


「あんたらそんなとこで何やってんだい」


 助かった、とばかりに祖母ちゃんに事情を説明しどうすればいいのか助力を求めたところ、祖母ちゃんは「なるほどねぇ・・・」と一息ついてから愛と裕二に指示を出す。


「裕二、勉強したいんなら私の寝室を使いな。あそこなら遊べるような場所もないし、布団だって片付けているから出てないからね。ただ、せっかくこうやって珍しく愛が家にいるんだから一緒に遊んでやるのもいいんじゃないかい?」


「うん・・・勉強する気もなくなってきてたし久々にゲームでもやろうか、愛」


「やったー兄ちゃんとゲームなんてするの久しぶりだね!」


「ゲームするのはいいけどうるさくするんじゃないよ。それと太一こっちに来な。」


 俺は全てをいいように解決してもらった情けなさから肩を落としながら祖母ちゃんについていく。


「太一、優しいお兄ちゃんをするのも大事だけどね。物事を決める立場になったからにはしっかりと答えをだしな。責めてるんじゃないよ?お前はまだ中学生だからね、出来なくてもしょうがない。でもあいつらからするとお前は頼れる兄貴なんだ、しっかり頼りになるとこ見せてあげな。」


「祖母ちゃん・・・」


「昨日の晩御飯の様子を見ればお前が兄貴としてちゃんと愛に言っているのを見て私は感動したよ。大丈夫、お前は兄貴としてちゃんと成長してるよ」


 俺は情けなさや照れくささからなんともいえない顔をしながらやっぱり祖母ちゃんには叶わないと頭を掻きながら、そういえば今から外に出かけなければならないことを思い出したのでしれっと伝えてみた。


「あ、そういえば祖母ちゃん俺、今から用事あるからごめんだけど今日も晩飯作ってもらってもいい?」


「はぁ?太一、あんた昨日愛達に夜出るなって言ったばかりなのに出かけるというのかい。呆れたもんだねぇせっかくいい感じに成長してたと言ったばかりなのに」


 この雰囲気の中この話題を切り出していくのは俺だって嫌だったが、そろそろ出かけねばならない以上言うほかなかったのだ。

 俺は呆れる祖母ちゃんになんとか謝り倒し、「兄ちゃん外行くなんてずるい!」という愛にも謝り倒してから家から逃げるように出て行った。


「あー俺やっぱり情けねぇ兄貴だな」


 

 やっぱりそう簡単にはかっこいい兄貴にはなれそうにない太一だった。







 ――――――――――――――――――







「た・・・たぶんここだよな?」


 俺は師匠と呼べと高笑いしながら去っていった男が渡した紙を見ながら恐らく目的地であろう場所に着いていた。恐らく、というのは男が渡した紙に書いてある文字や絵が下手すぎて正確にここだろうというのが分からなかったからだ。

 

 太一が着いた目的地というのは先日化け物に襲われた空き地にのすぐ隣にある廃墟だった。なんとなく見覚えがある場所であったのもここに来ることができた要因かもしれない。


「ったく、もっと分かりやすく伝える方法はなかったのかよ」


そしてその紙によると、どうやら男はこの廃墟の2階にいるらしい。俺は悪態をつきながらまるで人気のない、ぼろぼろの廃墟に足を踏み入れた。



 廃墟に入ってからしばらく歩いていると何か風を切るような鋭い音が聞こえて来た。まるで弓で矢を放った時のような風を切り裂くような音が何度も連続して聞こえている。しかし、音は一定に聞こえているわけではなく止まったり急に鳴ったりと不規則だ。

 俺は、上で何かやってるんだろうかと足を速めて階段を上る。


 2階はそれなりに広い空間だった。こんな廃墟に動き回れるようなスペースがあるとは一体なんのための建物だったのだろうか。そんなことを考えながら2階にたどり着いた俺は音の中心である部屋の真ん中に目を向けた。


 部屋の中心には男がいた。


 男はシャドーボクシングをするように何もない空間に向かって拳や蹴りを繰り出している。どうやら先ほどから聞こえている不思議な音は拳やらが空を切る時に聞こえていたようだ。

 肩から拳銃の弾丸のように発射される拳は一瞬にして空中を叩き、そして高速で引き戻される。近くまで行くとその一連の動作のあまりの速さにまるで掃除機で大きなゴミを勢いよく吸った時のようなすごい音がしていた。


 一心不乱に拳を振るっている男はしかし適当に動いているのでは無さそうで、何かと戦っているように実践的に動いているように見える。男は目に見えない何かと何度か拳を振りやり取りをした後唐突に前に大きく前に移動した。

 そして男は踏み込みながら仮想敵の足を鋭く払い、相手の襟もと辺りを掴むように手を動かしそのまま相手を後ろに倒すようにゆっくりと押す。そして一瞬の溜めを作った後、掴んでいないほうの手を上から下に大きく振り下ろした。

 男はそのまま残身を取りながら普通の立った姿勢に戻る。


 俺は声を掛けるのも忘れてまるで演舞を見るように凝視し続けていた。そんな俺に男はいるのに気づいていたのか後ろを振り返りながら話しかけてきた。


「思ったよりも早かったじゃねぇか。俺のこの手の呼び出しで直ぐに来れる奴は今までそうはいなかったぜ」


 俺は突然話しかけてきた男に驚きながらも、まるで慌てていないように返事を返す。


「そりゃあんたの渡した紙が毎回あんなのだったら普通たどり着けないですよ。それより俺がここに着いたのに何時気が付いたんです?」


「何時ってお前がこの建物に入った辺りにはもう気づいてたよ。」


 やっぱりこの男は人間ではないのだろう。見えてもいないのになんでわかるんだよ、あれかやっぱり気配を感じるとかそういう特殊能力でもあるのか。


 そんなことを考えていると男は続けて話しかけてくる。


「おいてめぇ、そんなことより俺の事は師匠と呼べと言っただろう。今から人に物を教えてもらうっていうのにひでぇ態度だなぁ・・・」


 俺はあの時のは冗談じゃなかったのかと思いながら、演技っぽく肩を落としている男に面倒くさそうに返事をする。


「分かりましたよ、師匠。ただ、一つ言わせてもらってもいいですか?俺の事は太一って呼んでくださいっていいましたよね。いつまでもてめぇ、とかお前ばっかり言ってる師匠も大概ひどい態度ですよ」


「あぁ悪かったな太一。・・・・ふぅ体もいい感じに落ち着いてきた」


 師匠は微かに笑いながら体を伸ばしてストレッチをやり始める。気持ち悪いくらい体を地面にぺたーんと折りたたんでいる姿を見ながら俺は先ほどの動きについて言及してみることにした。なんとなく最後の動きに既視感があったからだ。


「あの・・・俺がここに来た時の最後の動きなんですけどあれってもしかして昨日の動きと同じでした?」


「お、やっぱり気づいた?いやーせっかくだからあの時見せた最後の動きをもう一度やってやろうと思ってな。普段ならイメトレする時の相手の強さをちょい格上に設定するからあんな上手く技が決まるなんてありえないんだけど早めに切り上げるという意味でもなかなかいい技チョイスだっただろ。ちなみにあの技は踏み込みからの一連の動き全てが相手の動きを読んで使う物だから―――」


 師匠は突然キャラが変わったように早口で先程の戦闘シーンがいかにすごいかを説明しだした。さっきまでどこぞのチンピラみたいな言動を繰り返していたのに、急に子供のように目をキラキラさせながら捲し立てているの見ていて格闘好きなんだなぁというのがひしひしと伝わってくる。というかマジで子供みたいだ。


 このまま放っておくと永遠に喋りそうだったので、やむを得ず口を挟む。


「あのー、もう本当に体調悪くなってきたので早く教えてください」


「でな!・・・え、教える?あぁ・・・そういやそんな話だっけ。悪いなちょっと喋りすぎた。」


 若干恥ずかしそうにしながら一度咳き込んでから切り替えるように話し出す。


「えー、それじゃあ早速プラナを正常に使えるようにやっていくわけだが、まず最初に太一の今の状態について詳しい説明をしてからやっていく」


「状態って"後天性プラナ不全症候群"ことですか?それなら基本的なことなら知ってるけど・・・」


「世間一般的に言われている後天性プラナ不全症候群の症状というのは間違っている。わざとそういう風に公表しているのか、本当に知らないのかは分からんがな」


「え?どういう――」



「そしてお前はこの症状になった以上、もう人としては扱われねぇ」



 俺が口を挟む間もなく驚愕の事実が判明していく。



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