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神に至る拳  作者: ツタン亀ーン
5/13

町に訪れる者たちと転校生


 騒々しく人が出入りしている建物の中で唯一静まり返っている部屋があった。そこでは二人の人間が机を挟んで向かい合っていて、一人は困ったような顔を、もう一人はなにか言いたいことがあるように口をわなわなと震わせていた。


 男は我慢の限界だとばかりに口を開いた。


「どうして、ここまできて捜査を譲らねばならんのです!」 


 今まで静かだったその部屋が突然爆発したかのような声量で男が声を荒らげる。


「それに!特殊プラナ犯罪対策課でしたか?そんなもの、本当に存在するのですか!?」


 顔に汗を走らせながらもう一人の柔和そうな顔をした男が宥めるように言う


「沢田君、気持ちはわかるがこれはもう上が決めたことで、もうどうしようもないんだ。それに実際我々の捜査では限界が見えておった。これだけの被害が出続けている以上我々だけで解決するという意地を張っている場合でないのは分かるだろう?」


「ええ、わかりますよ。でも普通は協力して捜査するでしょう?そうでなくてもせめて、引き継ぎ作業をしてから全ての捜査権を移行するとかそういった段取りくらいは必要ではありませんか!?」


「彼らはどうやらあまり公にはできない部署であるらしく、そういったやり取りはしないように、とのことだ。」


 沢田はもう抑えが効かないように腕を大きく振りながら叫ぶ。


「桜井さん!!」


 沢田が言葉を続けようとしたところに桜井は被せるようにして話す。


「だが!!・・・それでは現場の者たちも納得しないということで強く抗議して、引き継ぎ作業に一人だけ責任者を付けても良いという約束を取り付けた。」


桜井は一度大きく息を吸い呼吸を整えて柔和そうな顔を真剣な顔にして言った。


「沢田君、君が行ってこい!私としてもこの『神隠し』についてよそ者に「はい、そうですか」と簡単に譲るわけにはいかん!君が見極めてくるんだ、その"特殊プラナ犯罪対策課"とやらが信用できるか否かを!どうだ!やってくれるか?」


「桜井さん・・・」


沢田は桜井という上司はいつも他人に流されて警察という自分の仕事に誇りはないのか、と常に疑問に思っていたが、考えを改めなければいけないなと感じていた。なによりただ騒いでいる自分達よりも立派に言うべきことを言っていたのだ、これに応えなくては警察官いや、漢ではない。


「はい!不肖ながらこの私沢田が引き継ぎ作業の責任者をお引き受けいたします!」


「うん、沢田君お願いします。で、その例の彼らなんだけどもう既にこの町に到着していて、今日は現地を下調べするらしいから、明日朝から引き継ぎ作業をできるように準備してもらえるかい?」


「わかりました!それでは早速準備をしてきます!」


 沢田は失礼します、と言ってから部屋を出て行った。



 神隠しが始まってから狂い始めたこの町の生活を彼らは解決することが果たして出来るのだろうか。そう考えながら桜井は窓の外にある町の景色を眺める。


 いつの間にか部屋は再び静寂に包まれていた。






 

 ――――――――――――――――――






「みんなーおはよう!突然だけど、今日はみんなにこのクラスの一員になる転校生ちゃんを紹介しまーす!」


 担任の沖田先生は教室に入ってきて教壇に立つと、こちらをくるっと振り返り、挨拶もそこそこにそう言った。


 沖田先生が来る前に情報が回っていたこともあり一度騒ぎ回った後であったが、再び生徒達が隣や後ろを振り返りながら喋りだす。


「せんせー転校生は女子なんですよね!?」



 こういったときに真っ先に発言をすることが多い男子生徒の一人が沖田に手を真上にビシッとあげながら身を乗り出して質問する。


「なっ、なんで知ってるのー!」


 沖田は顔によく表情が出るといわれるのが個性なの、と二年生に上がって直ぐの自己紹介で言っていた通りに目を大きく開けて、私今驚いているのと言わんばかりに口に手を当てていた。


「なんで、って先生普通に職員室の前で他の先生と一緒に今日転校生の話してたよ」


「がーんっ・・・がくっ」


 普通「がーん」とか、ましてや倒れこむ時に「がくっ」等と自分で発言するだろうか。これが見るからに可愛いタイプである沖田(実際に可愛い)がやるからまだ許されているだけで、普通の教師がやると「え、きも」となって引かれてもおかしくはない。



 沖田は教卓に顔を伏せたまま、右手でののじを書きながらぽつりと言った。


「サプライズにしたかったのになー・・・」


 沖田がまだうじうじしている中、先程の生徒が続けて発言する。


「せんせー転校生の女子生徒は可愛いですか!?」


 先程から自分の体の問題のこともあり考えがまとまらない気味な太一ですら、この言葉には思わず心の中でツッコミを入れてしまった。

 

(いや、色々と失礼すぎないか、それ)


 転校生は恐らく教室の扉のすぐそこに待機しているのだろうにも関わらず、とんでもないことを言ってのけているクラスメイトに俺は驚愕していた。そして更にうちの担任がそこに乗っかかるように悪乗りをしていく。


 がばっと教壇から勢いよく顔を上げて沖田は言った。


「男子生徒諸君!・・・よかったね、正直私がめっちゃ妬ましいくらい可愛いです!」


「・・・」


「うぉおおおおおおおおおおおお!!!」



 教室が爆発した。そう表現するにふさわしいほどの歓喜をクラスの男子生徒は上げていた。

 立ち上がりながらまるで神が降臨したかのように涙を流しながら天を仰ぐ者、興奮のあまり野球中継の時によくみる審判がアウトを取った時のようなポーズをするもの等、様々な喜びを体で表現していた。かくいう俺も先程まで冷えた目線で色々考えていたが、"先生が妬ましくなるほど可愛い"という表現に期待せざるを得ない感じになってしまっていた。


 所詮は思春期真っ盛りの男子中学生、どれだけ冷めたことを考えてても可愛い女の子には興味があるのだ。


 あまりの盛り上がりに若干びびっている沖田がクラスに静かにするように両手を重ねながら言った。


「み、みんなーうれしいのはわかるけどそろそろ転校生ちゃんに登場してもらうから静かにしてねー」


 いよいよ転校生が登場するということでボルテージが最高潮だった教室も波が引くように静まり変える。


(でも、これすごいハードル上がってるしすごいプレッシャーだろうな)


今更そんなことを考えていると沖田がドアの向こうの転校生に声をかける。


「はーい、それじゃあ転校生ちゃん入ってきてくれる?」


 誰かがゴクリと喉をならす音が静まり返った空間に響く中ゆっくりと教室の扉が開かれる。扉を開けて入ってきた転校生はしっかりと扉を閉じた後、緊張もなさそうな様子で教壇の方にすたすたと綺麗な足取りで歩いてきた。そして教壇で立ち止まるとクラス内のほうに体をくるりと向けた。


 なるほど、沖田先生がああいうのも納得の容姿であった。美人寄りだが、「あの子どう?」と聞かれると美人と答えるより可愛いと言ってしまいそうな顔立ちをしている。長い黒髪をポニーテールでキュッとくくっているのも大人っぽさよりも子供っぽい可愛さがあった。


 沖田が申し訳なさそうに転校生の顔を覗き込みながら弁解をする。


「ごめんねぇ、ちょっと盛り上げるだけのつもりがうちの生徒達がついやりすぎちゃって・・・あんまり気にしないで大丈夫だからね」


 誰しもが、いやあんたも相当ノリノリやったぞと心の中でツッコミを入れていると、


「ええ、大丈夫です。それよりも先生、続きをお願いします。」


 と、可愛い顔をしながら真面目そうな受け答えをしていた。


「ああ、うん。えーとじゃあまず自己紹介しよっか!」


 沖田の方がよっぽど動揺しながら転校生にチョークを持たせて言う。


「黒板に自分の名前を書いてから軽く自己紹介してもらっていい?」


「分かりました」


 転校生は後ろを振り返ると黒板にチョークを使って自分の名前を書く。そして書き終わった後こちらに振り向き直し自己紹介を始めた。


「皆さん初めまして、私の名前は鳴海(なるみ) (しずく)と言います。東京の学校から親の仕事の都合で転校してきました。こちらにはまだ来たばかりなので色々教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします。」


 緊張など全く感じさせない見本のような挨拶をみせられた生徒達は自然に拍手をしてしまっていた。


「それではこれから質問ターイムと言いたいんだけど、みんなごめん!もう朝の時間なさそうだからこれで一旦終了にするね。また時間とって紹介する時間作るから、じゃあ鳴海さん一番後ろのさっき用意した席に座ってもらえる?」


 ついさっきまでなかったはずの場所にいつの間にか席が用意されてあった。


(間違いなく先生が教室に入った時にはなかったはず)


 よくわからない現象に頭を捻らせていると。


「なんだよ、太一気付いてなかったのか。さっきの転校生が自己紹介している短い時間に先生が後ろの扉からこっそりと机と椅子を運んでいたぜ」


 と、前の席から八木がこっそりと教えてくれた。ちなみに俺の席は一番後ろで八木はその前の席だ。


 転校生が自分の席に向かって歩いていくのを横目で見ながら八木は呟く


「先生机まで後で運び入れてよっぽどサプライズにしたかったんだろうな・・・それにしても太一お前の席も一番後ろなのに気づかなかったのか?」


「全然気が付かなかったぞ」


 八木はにやにやしながら言う。


「なんだ太一、気付かないくらいあの子に見とれてたのか。たしかに可愛いけどお前ああいう子がタイプだったのか」


 鬱陶しい絡み方をしてくる八木を追い払うように手を額に当てながら太一は返事をする。


「いやそういう訳ではないんだけど、なんか頭が重いしそれのせいかも」



 澪が自分の机に座るのを確認すると沖田が朝の時間の終わりを告げる


「みんな私は1限目から授業あるからもういくねー。みんな鳴海さんと仲良くするのよ、じゃあねー。」


 沖田は時間がないのか、慌てた様子で教室から出ていった。


 先生が出ていくと直ぐに多くの生徒が澪の机に集まって色々な質問を始めた。


 人が集まりすぎて団子のようになった席を見ながら八木と俺は話していた。


「太一は行かなくていいのかよ、タイプの女の子の話を聞きにいかなくて」


「まだいうか、まぁ仮にタイプだったとしてもあの人混みに入る元気はないなぁ。あぁ本当に頭が重い」


「おいおい、まだ1限目も始まってないぞ、大丈夫か?」


「ごめんちょっと授業始まるまで寝るわ、お休み」



 俺は転校生の席に集まっている人込みを見ながら目を閉じようとする。眠気で思考が虚ろになりながら目を完全に閉じる前に、一瞬だけ人込みの奥に見えた転校生と目が合った気がした。







 ――――――――――――――――――







 太一達は必要な道具を持って特別教室に向かっていた。今から行う授業はプラナを使った特別授業なため特別な場所に行く必要があるためだ。


「うーーん・・・あぁああ眠い」


「お前さんざん授業中寝ててまだ眠いのかよ」


 八木は呆れながら太一を見下ろす。


「やっぱり頭が重くて、あんまり意識がはっきりしないんだよな」


「今からでも保健室行ったらどうだ?もしかしたら熱あるかもしれないぞ」


 そうだなぁといいながら太一達は教室に到着してしまう。


「まぁとりあえずこの授業終わったら昼飯だしその時にでも保健室いくよ」


「この授業じゃ居眠りはできないんだから踏ん張れよー」



 太一達が教室に揃って授業を始まるのを待っていると授業開始のチャイムが鳴った。そこから少しして教室の扉を開いて沖田が現れる。


「みんなー揃ってる?それでは4時限目の授業を始めます!」


 沖田が授業開始の合図をすることでクラスの係が「起立!礼!」と号令をかける。


 お願いしますと挨拶をしてから、椅子に座ると沖田が授業を始めるための道具を取り出していた。


「はーいそれでは今日はプラナの特別授業ということでプラナを使った道具を使って授業を進めます。さっそくやっていきたいんだけど、一応ね、プラナについての基礎的な知識をみんなと再確認してからやっていきます。ではでは、えーと。」


 沖田は誰かを探すようにきょろきょろした後、獲物を見つけたが如くにこちらを指差して言ってきた。


「では、そこのいつも居眠りばかりしてる藤原君に協力してもらおうかな!」


 ハハハハと教室に笑いが起こる。俺は眠いし体調悪いしで正直勘弁してくれという気持ちでいっぱいだったが、いつも居眠りばかりしているのは真実なので全く反論する余地がなかった。


「では早速だけど藤原君、プラナは大気中に漂うエネルギーを私たち人類が呼吸と共に取り込むことで発生するものだけど、人類がこのプラナに気づいたのはいつだったかな?」


「えーと、いつでしたっけ・・・」


 先生は驚いたように目を見開きよろよろと後ろに下がる


「ふ、藤原くん、あなた今までの授業まさか全部寝てたわけじゃないわよね」


「いや先生プラナの授業なんてほとんどないじゃないですか、ちょっと忘れちゃったんですよ。あれでしたっけ、300年くらい前でしたっけ?」


「訳100年前です藤原君。正しくは人類が正しくプラナの存在を科学的に認識し、利用しようと考えた時期、ですが。曖昧な形での認識という意味では遥か昔から人類は神秘的なエネルギーとしてプラナを感じていたと考えられています。」


 先生はいつものふざけた表情を消し先生としての真面目な顔つきでクラスの生徒に教鞭を振るう。


「では藤原君これは知ってるわよね?プラナは個人で蓄えられる限界値が決まっていてそれをプラナの閾値(しきいち)と呼ぶことを」


「流石に知ってますよ。これは何度もテストに出てきますしね。」


(これいつも漢字が難しくてテストで間違えてたんだよなぁ)


 ほっとしたような顔をした後、先生はさらに俺に続けて質問をする


「よかった。でも藤原君最初の質問もテストにでてきてるわよ・・・ちなみにだけど藤原君の閾値はいくつ?」


「えーと、今年に入って計測した時はたしか198くらいだったような」


 俺は健康診断の時に計測した数値を思い出しながら言った。


「藤原君ありがとうね。ちなみに私の閾値は205です。この閾値ですが基本的に個人差というのは少なく、大体の人が200前後という値になっています。ただ生まれた時から200前後という訳ではなく成人に近づくにつれて少しづつ成長していくことが分かっているわ」


「先生、たまに閾値がとても高い人もいるんですよね?」


 女子生徒が手を上げて沖田に質問をする。


「そうね。ごくまれにだけど閾値が高い人が現れることがあるわ。そういった人はこの国ではプラナの研究機関に協力いただいていて、学生であれば能力特待生として国から援助を受けることができます。この町にも何人かいるわ。」


(・・・?何人か、だと?)


 八木も気づいたのか俺に近づいて内緒話をするようにこそこそと話しかけてくる。


「能力特待生ってこの町じゃ太一の妹だけなんじゃなかったっけ?」


 八木は何度か家にも来たことがあるし、愛が能力特待生であることも知っていた。だからこそ太一と八木はこの町にいる能力特待生が愛だけであると知っている。


「最近になって増えたってことなのかな」


 太一と八木がこそこそしている間に話は進んでいた。


「ではプラナの基礎知識はこの辺りにしていよいよ道具をつかった授業に移ろうか!まぁ今更PCDの話をしてもみんなわかりきってるだろうし」


 沖田は用意してきた道具を生徒達に順番に回していく。


「なんだこれ」「扇風機か?」「ライターみたいなのもあるぞ」


 生徒達は回ってきた道具をみながら口々に色々なことを呟く。


「それじゃあ先生と一緒に実験を手伝ってくれる人を募集しようかなー、あ、藤原君はさっき不正解だったのでこっちに来て引き続き私のお手伝いをお願いしますね。」


「うげー・・・」


 俺は嫌な顔をしながら先生のもとに歩いていく。


「よしよしいい子は先生大好きよー。じゃあ、もう一人はせっかくだし鳴海さんに来てもらおうかな」


 先生は俺の肩を叩きながら雫に来てもらうように言った。「わかりました」という返事と共に雫がこちらに来ると、先生は道具を持って実験を始めることをクラスメイトに伝える。


「それでは、まず今日やることの本題を説明します。本題というのは、みなさんにプラナの特性について分かりやすく理解してもらうために実際に見て体験してもらおうということです。」


 眼鏡をかけたいかにも勉強できます、といった風の生徒が眼鏡をくいっとしながら先生に質問をする。

 

「先生プラナの特性というのは、もしや先日明らかになった"あれ"のことですか?」


「そう!流石眼鏡君はその手の情報が速いね」


 この眼鏡をかけた彼は去年『眼鏡が似合う男子コンテスト』なるもので見事学年1位の座を取った生徒で、それ以降生徒からもうちの担任からも『眼鏡君』と呼ばれている。しかし教師までもが眼鏡君呼ばわりは流石にどうかと思うのだが、本人は気に入ってるらしいのでやっぱりいいのかもしれない。


(それはさておき"あれ"ってなんだ?)


「みんなうちの学校にいることを感謝したほうがいいよー。今から扱う道具は全国の学校でもまだほとんど出回ってない教材なんだから」


 なぜそんな貴重な教材がこのド田舎なこの学校にあるのは疑問だが、沖田曰く急にこの学校に持ち込まれる運びとなったらしく理由などは沖田も知らないという。


 沖田は道具が全ての机に回ったことを確認すると、勿体付けていた"あれ"とやらの説明を始める。


「みんなは最近新しく見つかったプラナの特性は知ってますか?」


 生徒達は顔を向き合わせながら知ってるやら知ってないやらを話し出す。

 そして沖田はまたもや俺に質問をしてくる。


「藤原君はどう?知ってますか?」


「うーん、何かテレビで見たことがあるような気はしますが、それが何だったのかは知らないです。」


 俺が正直に先生に答えると先生は顔を縦に振りながら。


「うんうん、まぁ恐らく大半の生徒の人は藤原君と同じような認識だと思います。ちなみに鳴海さんはどうですか?東京のほうだとこちらよりもそういう知識も得やすそうですけど」


 雫はちょっと考えるように目線を下にした後喋り始めた。


「そうですね・・・最近の発見だとすると、ある特定のタイプに変換したプラナを特定の物質に注入することでその物質が特別な変化をすること、とかでしょうか」


「わーお、鳴海さんよく知ってますね。そう、今鳴海さんが説明してくれた通りで、私たちがいつもPCDで変換しているのとは異なる特定のものに変換されたプラナは様々な物質に特別な変化をもたらすことが最近分かったのです。」


 ちなみに、今日配られた道具にはプラナをその特定のものに変換してくれるPCDのようなものと、それによって変化させられる物質を発生させる道具を用意してあり、実際にどのような変化があるかを今から実験するらしい。

 

「では、さっそく実験に取り掛かるために道具を用意して欲しいのだけども、少し準備の手順が複雑なので私が今から説明しに回ります。」


 この特別教室は座るだけで班ごとに分かれるようになっているので、先生は班ごとに説明に行くようだ。


「じゃあ先生ちょっと他の班に説明してくるから、藤原君と鳴海さんはここで仲良く待っててくださいね」


(いや、仲良くって言われてもどうすんだよ・・・)


 黙っていてもどうしようもないので、顔をちらっとあげて雫のほうを見るとあちらさんはじーっとこちらを見つめていた。


「えーと・・・鳴海さん・・・?」


「藤原君とお呼びしてもよろしいですか?」


「あ、はいダイジョブデス」


 なぜか俺は片言で返事でしてしまう。


「藤原君とはまだお話できていませんでしたので、お話できる機会を頂けたことはありがたいです。」


「え、クラスで俺以外の人だとどれくらい喋ったん・・・です?」


 俺は今日の授業はもれなく全て寝ていたので、朝の時間の後澪がどのようにしていたのかは全く知る由がなかった。


「藤原君、私たち同級生なんです。敬語、使わなくても大丈夫ですよ。それに、私の事は雫と呼んでいただいてもいいですけど」


「あ、あぁそう?流石に名前呼びは恥ずかしいから鳴海さんでいいかな、よろしくな。鳴海さんも俺に対して敬語つかってるけど別に普通でいいよ」


「私は普段からこうなので、これが普通なんです。ちなみにさっきの問いに答えると、このクラスでお話していない人は藤原君だけですね。だからこそ是非とも藤原君と話せる機会をうかがっていたんです」


 俺の知らない間にとてつもないコミュニケーション能力で雫はクラス中の人間と仲良くなっていたらしい。昼休みにもまだ入ってないのに、このわずかな時間でとんでもない行動力だ。


「すごいな・・・こんな短い時間でここまでたくさんの人と喋ることって出来るんだな。ということは八木とももう話したのか?」


「八木君ですか?八木君とはこの授業が始まる前に教室でお話しましたね。その時に藤原君ともお話したかったのですが、熟睡しておられたのでやめておいた方がいいと八木君にいわれまして。普段からあのようにずっと寝てるんですか?」


「普段もよく寝てはいるんだけど、今日はちょっと体調が悪くて頭が重くてね。今も実はふらふらなんだ」


「えぇ!では、授業を受けている場合ではないのでは?」


「そうなんだけどこの授業受けた後は昼休みだろ?それから保健室に行ってもいいかなと思ってね。それよりも鳴海さんすごいね、本当に転校初日か?ってくらい馴染んでるよ。」


 最初は真面目タイプの結構お堅い感じの子かと思ってたのに、話してみると結構表情が豊かなタイプなんだなと俺は少し驚いていた。


「私、人との出会いは一期一会だと思っているので、話せる機会があれば出来るだけ多くの人とお話できればと思っているんです」


 そうして雫と話している間に沖田が他の班の準備が出来たのか、こちらに戻ってきた。


「仲良く待っててくれたかな?」


「はい、おかげ様で藤原君とお話しできました」


 すると先生は少し以外そうな顔をしながら言う。


「ほうほう、藤原君は普段からあまり他の人と話そうとしないもんだから少し以外です。藤原君はこれを機に色んな人と話すのもいいんじゃないですか?」


 俺は先生に勝手に喋らない人認定されてしまったので反論する。


「いや、先生俺は積極的に話に行かないだけで結構色んな人と話してますよ」


「あれ?そうなの。まぁ鳴海さん、藤原君とも仲良くしてあげてくださいね。では早速実験をやっていきましょうか」


 沖田は道具をみながらあーだこーだ言っている生徒達を静かにするように宥めてから実験を始めていく。


俺はこのあたりから頭が重いだけでなくズキズキし始めていた。


(あ、これやばいかも、頭いてぇ)


 雫と俺は先生の言われた通りに用意されている教材を持たされて実験の準備をする。そして今から実験を開始するという瞬間に俺の頭に鈍痛が走った。


(いっ!・・・・)


 平衡感覚がなくなり頭の痛みと共に引き寄せられるかのように目の前に床が近づいていく。そして俺は床に顔を打ち付ける瞬間に誰かに受け止められたらしいことを知覚しながら意識を失った。




この半分くらいの文字数で収めたかったのに無謀だったというのか・・・

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