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神に至る拳  作者: ツタン亀ーン
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化け物との遭遇

「ってなわけでよぉ、今この話題が熱いんだって!」


 授業が終わり、休み時間に入った途端に前の席の男子学生は椅子をこちらに倒しながら、器用に顔をこちらに向けて話しかけてきた。

 こいつは、同じクラスメイトの八木泰司(やぎたいじ)。暑苦しいやつだが、毎日直ぐに学校から帰宅するためあまり友達というものを作ってない俺にも絡んでくれる良い奴だ。


「いや、この話題ってどの話題だよ」


 先程まで授業中だったというのに、明らかに寝ていたような顔つきで体を伸ばしながら、太一は八木に返事をした。

 俺、藤原太一(ふじわらたいち)はこの中学校に通う中学二年生。短めに切った少し毛質が硬そうな黒髪に、平均より少し細い体格をした中学生だ。


「いやさっき、授業始まる前にいったじゃん!」


 そういえば、学校に来て眠たい目をこすりながら授業の準備をしている時に八木になにか言われていたような気がするが全く覚えていない。


「ほら、あの神隠しだよ」


「あーあれか、流石に知ってるけど、そんなにホットな話題あったっけ」


 神隠しというのは、最近この町でたまに起きている出来事で、起こるタイミングは決まって午後6時以降、そして人が姿形もなく消えてしまうということ以外には何も分かっていない怪事件のことだ。


「それがさー実は俺、昨日実際にその現場を見たっていう人に話を聞いたんだよね」


 話を聞いてみるとこういうことだったらしい、八木は昨日部活で怪我した部員の見舞いで町の病院に行った時に、実際にその神隠しを見た人間に話を聞くことが出来たそうだ。というのも話を聞いた人は一つ隣町の中学校に通っている学生で、病院の個室で警察の事情聴取を受けていたのだが、何度も詳しく説明していて疲れたため売店に休憩がてら来ていた所を、偶然出会った八木に話を聞かせてくれたらしい。


「最初はなんか神隠しについて喋ってくれない雰囲気だったんだけどね。やっぱり何も見てなかったんすか?って聞いたらすごい勢いで話してくれたんだよ」


「へー、でもたしか神隠しっていままで目撃者が誰一人居なかったんだよな。信憑性あるような話だったのか?」


「うーん信憑性っていうと、すごい現実味がない話だったからなぁ」


「なんだそれ・・・」


「まぁそれもあって警察にもなかなか信じてもらえなくて疲弊してたしな」


「んで、結局内容はどうだったんだ?」


 この時点でかなり胡散臭そうな話になりそうな気配がしていたので、内容がどうあれ既にあまり信憑性はないんじゃないかなぁなどと考えていると、予想を遥かに超える話を聞くことなった。


「不良が突然化け物に変身して周りにいた不良を殺しちゃった所を偶然見ちゃったんだってさ」


「・・・は?」


「いや、ごめんちょっと言葉が足りなかったな。塾の帰りに不良達がなにやら子供を囲い込んでる所を偶然見てしまったらしいんだけど、その不良のうち一人が突然髪が伸びたり手から鋭い爪が生えたりした化け物になったんだってよ」


「・・・・」


「んで、周りの不良達に襲い掛かって殺しちゃったんだとさ。あ、あと最終的に化け物は3人だったらしいぜ」


「いや、ごめん詳しく説明してもらっても全然意味分からないんだけど。しかもそれって、神隠しじゃなくて殺人事件?になるんじゃないのか?」


 神隠しを見たというのだから、せめてなにか誘拐されるところを見たとか、なんらかのすごい道具で人を音も無く移動させたところを見たとか、そういうのが来るかなと思っていたら、漫画のようなまるで現実的でない話が出て来た。


「それがその後、突然目の前が真っ白になって気を失ってしまったんだとよ。目が覚めた後警察の人に聞かされた内容によると、実際に何らかの破壊された跡は残っていたけども、その学生以外は誰一人としていなかったんだってよ。」


「なんで目の前が突然真っ白になったんだよ、とかいろいろツッコミたい気持ちもあるが、実際その場で神隠しが起こったのは間違いなさそうだな。」


「俺はこの話まじであったんじゃないかと思うぜ。話を聞いた時のその学生の顔つきは本当に何かがあったと思わせる迫力を感じたからな。」


「なんにしろ怖い話だな。うちの弟と妹には夜遅くには出歩かないように言い聞かせないといけないな。」


「太一は相変わらずシスアンドブラコンだな。」


「失敬な。よくできた弟と妹を心配するくらい兄として当然の務めだろ。」


 弟の名前は藤原裕二(ふじわらゆうじ)、そして妹の名前は藤原愛(ふじわらあい)。どちらも素直ないい子で、いつも兄のことを慮ってくれる俺の大事な家族だ。まぁ、愛は少しやんちゃなとこもあるけどまだ小学三年生なのだから少しくらいやんちゃしてるほうがいいのだ、うん。


そうこうしているうちに次の授業の予鈴が鳴った。


「あっ、次移動教室じゃないか?」


「まずい!話し込んでたせいで誰も教室に残ってねぇぞ!」


 太一達は誰も声を掛けてくれなかったことを愚痴りながら急いで教科書やノートを持って教室から出て行った。




______________________________





 今日の授業が一通り終わり、学生は部活に赴いたり帰宅の準備をしたりと各々放課後に向けての準備を進めていた。普段であれば、一目散に帰宅の準備をして帰る太一であったが、今日は少し様子が違うようでどこかに向かうそぶりを見せていた。


「おい太一、今日は急いでスーパーにいかなくていいのか?」


 いつもであれば誰よりも早く真っ先に教室を出る太一だけに今日の動きは不自然だったのだろう、八木が不思議そうに聞いてきた。


「今日は、数学の小テストで連続赤点だったから補習があるんだよ。」


「お前授業中寝てばかりだもんな、せめて授業中くらいは起きて勉強したほうがいいんじゃないか?」


「勉強は苦手なんだよ。そんなことより今は家のことや弟達のために頑張りたいんだ。」


 太一は勉強以外のことであればある程度並以上に出来る自信はあるのだが、勉強だけはどうにも苦手で昔から上手くいかなかった。


「ふーん、まぁお前の家が大変なのは知ってるから別にいいけどよ。たまにはうちの部活にも顔だせよ」


「そんな暇ないし、空手部に行っても普通に迷惑だろ」


 一年生の時に部活の体験があって、八木と太一は空手部の見学に行ったことがあった。もちろん太一はどこであろうと部活に入るつもりは無かったのだが、一緒に回る友達がいないとかなんとか理由をつけられて強制的に同行させられたのだ。

 いやいや引っ張られてきたとはいえ、せっかく来たということで部活を体験することにした。体験だから楽しい事をやらせてくれるということで、回し蹴りや突きのミット打ちをさせてもらったのだが、その時に筋がいいとかなんとかで何故か空手部の上級生に気に入られてしまったのだ。その後、八木と共に今年の新人は筋がいいと興奮した上級生に、八木と軽く組手をやるように持ち掛けられてそこでなんと勝ってしまったのだ。

 

 元々体格のいい八木相手に勝てるわけはなかったのだが、慣れないヘッドギアやグローブを付けていたこともあり、運と勘でなんとか八木の攻撃を捌くことができそのまま勝利に繋がったというわけだ。その時、上級生に「君の格闘センスと反射神経はすごいものを持っているから是非入部してくれないか」と情熱的な勢いで迫られたのだが、家のことがあるから部活には入れないと断ったのだ。

(それに、興奮が落ち着いてきた後、家に帰ってから滅茶苦茶体や腕に痣ができて痛かったんだよなぁ)


 太一の体は同年代と比べて身長はあれど、体格は華奢な方だったのでどっちにしろ空手部に入っても大変だろうことは目に見えていた。


「迷惑どころか、いまだに今日は太一は来てないのかとか言われるんだぜ?」


「しょうがないからたまーに顔だしてるだろ、二カ月に一回くらいだけど・・・」


 あまりにも空手部の勧誘がしつこいのでたまに顔を出すようになってからというもの、いつの間にか非公認の空手部の部員として認知されてしまっているらしい。

 (どれだけ最初に見込みがあったのかは知らないけど流石に今でもそんな扱いなのは大袈裟すぎると思うんだけどな)

 太一からしてみれば、入部してから持ち前の体格を駆使してめきめきと実力を上げてきた八木の方が、よっぽどすごいと思うわけで、なんとも八木に申し訳ない気持ちになってしまうのだ。


「ま、無理強いはしないよ。太一の時間が空いた時にちょっと気分転換がてらいってみるか、くらいの気軽さでこいよ」


 と、八木は苦笑まじりに言った。


「それよりお前は、家のことがあるなら尚更補習なんかにひっかかってんじゃねーぞ」


「うっ」


 痛い正論を食らった俺は、こいつ最初はそこに触れてこなかったのに、ついに触れてきやがったかと、苦虫を嚙み潰したような顔をしながらうめいてしまった。


「じゃあ、俺はこのまま部活にいくから、太一も次は補習を受けることにならないように、今日の補習はしっかり頑張れよ。」


「あ、ああ」

 

 歯切れの悪い返事をする太一を後目に急ぐように八木は教室を出て行った。


「やっぱり補習くらいは回避できるように勉強するべきかね・・・」


 既に太一しかいない教室に独り言がポツリと広がり消えていった。





______________________________






「まずい、補習がこんなに長引くとはおもっていなかった。早く買い出しに行かないと。」


なんとか補習を終わせた太一だったが、当初予想していた終了時間よりもかなり遅くなってしまっていた。

 元々今日は補習があるから帰りが遅くなることは前もって言っておいたが、予想以上に補習に時間をかけてしまったため、今からスーパーで晩御飯の買い出しをしてから家に帰るとなると予定していた時間よりも、大幅に遅れて帰宅することになってしまうだろう。


「こんなことなら見栄を張って補習があっても買い出しする時間くらいはあるからとか、祖母ちゃんに言わなかったらよかったな」


 今日補習があることを前日に伝えた時に「放課後忙しいようなら、祖母ちゃんが買い出し行っとこうか?」とせっかく言ってくれてたのに「補習っていってもすぐ終わると思うし、俺行けるから大丈夫だよ」となんの根拠もなく大丈夫といった俺・・・

 

「ふっ・・・」

 

 遠い目をしながら今日はいろいろと反省すべき事と学ぶべきことが多いな、と格好を付ける。


「おっと、こんなことしてる場合じゃない、早く行かないと」


 太一は駐輪所においてある自分のプラナアシスト自転車に急いで近づいた。

 この自転車はプラナと呼ばれる人間が呼吸する際に取り込むエネルギーで、自転車をアシストすることで普通の自転車よりも速く、そして力のいらない走行が可能になるという謳い文句の乗り物だ。


 太一は乱暴に自転車を駐輪所から引っ張り出すと、自転車のスタンドを足で後ろに蹴り自転車に乗った。そして乗った後に自転車のプラナメーターを見て、しまった!という顔をする。


「あ、そういや自転車のプラナほとんど空なんだった。しょうがない、時間もないし注入しながら運転しよう」


 太一は自転車からごそごそとコードを引っ張り出すと、自分の腕に付いている腕輪のような機械に接続した。


 腕輪のような機械はプラナコンバートデバイス、通称PCDと言って、自分の体内のプラナをこのデバイスを通すことで様々な道具の動力源として出力等を最適なものに変換してくれる優れものだ。

 本来人間の体内に取り込んだプラナは、そのままではエネルギーとして使うことは出来ない。なので、このPCDに自分のプラナを吸収させ、変換することで乗り物からパソコン等あらゆるエネルギーを必要とする機械に使用することが出来るというわけだ。


「急いでるからちょっと飛ばしていくかな」


 太一は普段なら先生見つかると怒られるくらいのスピードを出すために、自転車のプラナギアのパワーを上げた。すると、太一のPCDからみるみるプラナが放出されていくのと同時に、自転車の速度がぐんぐん上昇していく。


「おぉー気持ちぃー」


 ペダルに軽く力をいれるだけでぐいんぐいんとおもしろいように速度を上げ、太一の髪の毛は前からの風により髪の毛が逆巻き、はためいていた。


 傾斜のきつい峠道を強引に自転車で登った太一は下り坂を一気に下りだした。


「よし!これなら買い出し含めてもぎりぎり間に合うかもしれん!」


太一の住んでいる家は小学生の弟と妹そして祖母、祖父の合計5人で暮らしている。そのため早く帰って晩御飯の準備をしないと祖母ちゃんからの特別説教を食らってしまうのだ。そうでなくても弟達がお腹を空かして待っているのだから、早く帰らない理由はない。


 峠を下りきり、もう少しでスーパーに着きそう、という時だった。

 

「―――。」


 何か叫び声が聞こえた。どんな声だったのか、「いてっ」だったような気もするし「あぁあああ!」のような言葉にならない叫び声だったような気もする。なんにしても間違いなく人の叫び声を聞いた。


「・・・・」


 太一は急いで自転車に急ブレーキをかけてその場に止まったものの、どうするかを迷った。

叫び声らしきものが聞こえたのは目の前にある田んぼの奥にある空き地からのようだった。

 その時、太一はふと朝八木と話していた話を思い出した。


「神隠し・・・まさかな」


 太一は自分の腕のPCDにそっと顔を向け時間を確認した。午後6時17分と画面に表示されていた。今までの神隠しが行われたと思われる時間帯に入っていた。

 とはいえ、これが神隠しである保証もなく、ただ人が怪我をしたという可能性のほうが大いに高いように思われた。


「っつ、あぁーもう、さっさと確認しよう」


 もし誰かが助けのいるような状況に陥っているなら、行かないという選択肢はないし、仮に神隠しだったとしても朝八木が話していた目撃した時の話が本当だったという確証はないのだから危険があるとは限らない。

 とにかく、確認しないことにはどうしようもないということだ。


 太一は自転車を田んぼの脇に止め、髪の毛を右手でかき混ぜながら小走りで空き地の奥に入っていった。


 空き地に入るとすぐに先程声を上げたかと思われる人物がいた。地面に片膝を立てた状態で顔を伏せて座っているその人間は普通の男性のように見える。


「あの、大丈夫で・・・・」


 近づいて声を掛ける途中にようやく太一は気がついた。

 この時、太一は日も落ちてしまい辺りが少し薄暗くなっているせいで気がつくのが遅れてしまった。男の周りの地面が妙に荒れている事を、そして男の頭には犬のような耳が生えていて、露出している腕にはびっしりと獣のように毛が生えていることに。


 男はゆっくりと顔を上げて立ち上がった。

 顔には人間にはおおよそ考えられない、闇でうっすらと光る夜行性動物のような眼。口からは牙が、そして体中獣のような毛におおわれていておまけに手から生えている爪は鋭く尖っていた。


 男、いや『化け物』は数秒太一を見た後、突然


「ぃイイイイイイイイイ!」


 人間が出す音とは思えない金切り声をあげながら太一に襲い掛かった。


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