入団3年目「『おもちゃのチャチャチャ』という童謡がある」サビ
半年以上、長々と停滞した事をお詫び申し上げます。
お待たせいたしました、続きです。
次回はもっと早く投稿したいなぁ、と。
誤字・誤表記を訂正致しました、御指摘下さいました方々に感謝を。(2022.10.31)
盛り過ぎた数字下方修正致しました。「100打点→90打点」「5人→4人」(2022.11.23)
「未来に起こることを知っているので、予言します。
8月の初旬、具体的には9日。
名古屋ドルフィンズの小市真一が、プロ初先発でノーヒットノーランの偉業を達成します」
そう断言した途端、根谷管理部長に“ふざけたこと抜かすんじゃねぇ、この野郎!”と怒鳴られてしまった。
まぁ、当然だよな。
俺が同じ立場なら怒鳴るだけじゃなく手元の灰皿を投げつけていただろう。
だけど俺の記憶に間違いはないし、1987年8月9日に小市投手が東京ギャラクシーズを相手に史上初の大記録を達成するのも事実なのだから仕方がない。
どうして断言出来るのかといえば、本来ならばその日は、俺がプロ入り初の先発をする予定の日だったからだ……。
ところがその前日、予想外の事態が発生したのである。
矢鱈とギャラクシーズに敵意を燃やす監督が前日の快勝に気を良くしてか連勝を狙い、よりにもよって延長10回に、俺の名を球審へとコールしたのだ。
当日は六連戦の五日目であり、連投に次ぐ連投で中継ぎ陣は疲労困憊状態、しかも同点にも関わらず8回から抑えの切り札を投入済みという状況。
監督の立場からすれば仕方がなかったのかもしれないが……見境のないドタバタな投手起用のツケを押し付けられただけだと思っている。
結局、俺の初先発は月末まで延期されてしまい、8日の先発マウンドは小市投手に譲らざるを得なかった。
済んだことではあるけれど、いつまで経っても忘れられなかったあの日のあれこれ。
前の人生では引退前も引退後もずっと幾度となく、頭の中で自問自答し続けたっけなぁ。
もしも予定通りに投げていたら、球史に名を残したのは俺だったのでは……と、考えるのも不毛なタラレバ。絶対無理の四文字を前にして砕け散るまでが、毎度毎度のお約束なのだが。
それはそれとして。
昨年の契約更改の席上で、チームのドラフト戦略につい口出しをした際には言を左右にしてどうにか誤魔化せた……と思っていたが、どうやら誤魔化し切れていなかったらしい。
だけどなぁ、まさか身辺調査まで綿密に行われていたとは……根谷管理部長、恐るべし!
次はもっと穏当な発言に終始するとしよう。
少なくとも馬鹿正直に、未来人であるなどと告白しないよう留意せねば。
などと益体もないことを脳裡と胸中でキャッチボールさせていたら、不意に根谷管理部長が“どうにも納得出来ねぇが”と言い出された。
ついさっきまで頭の天辺から湯気を噴き上げんばかりだった鬼の形相が、今は赤みが少し薄れている。ついでに鬼のような形相も緩めちゃくれませんか?
「これまでの功労に免じて猶予をやろう。期限は来月9日が終わるまでだ。それまで、二軍で大人しくしていやがれ……判ったな!!」
はい、判りました。
このような場合、神妙な表情で素直に頭を下げるのが正解だ。
前世にて熱血猛将監督に怒られ続けた際に身につけた経験則である。
思い描いていた手順とは些か異なるも待望の二軍生活を送れることに安堵だよ、ああホッとした。
微妙に成長した所為でイメージと動作にズレが生じた投球フォームの修正は、中途半端に登板機会を与えられる一軍よりも、練習漬けになれる二軍の方がやり易いからな。
根谷邸からの帰り道。騒音をBGMにタクシーから夜景を眺めていて、ふと気づく。
あ、晩飯喰いそびれた!
仕方がない、選手寮に戻ったら食堂の冷蔵庫を漁るとしよう。空きっ腹では眠れる筈もないし、何か晩飯代わりになるものを……代わり……代わり?
あれ、もっと肝心な何かを忘れてないか……あ、そうだ!
8月9日に投げる予定だった俺はチーム事情で前日に投げる羽目となったのだ。その俺がいないとなれば……一体誰が投げるのだろう?
もしかしてそれが……小市投手だったりしたら?
歴史が変わってしまうんじゃないだろうか?
些細なことで未来が変わる。未来は変えられるのだ、そう実証したのは誰あろう俺である。
江原さんの現役生活の延長や起きなかった墜落事故に関しては偶然だと言い逃れ出来たとしても、去年からのキンタローの成績向上と、今年の小野寺のブレイクに関しては紛れもなく俺が積極的に関与した結果だ。
況してや西村幸広と岩永哲也と小野坂耕一の三人に関しては、俺の余計な差し出口の所為で進路を完全に捻じ曲げてしまった。
それでも歴史という大河の中では些細な波紋でしかなかったのか、何事もないかのように波紋は速やかに消え失せている。
俺が8月8日にドルフィンズのユニフォームを着て登板しないのも、同じように些細な波紋として処理されるのだろうか?
処理されず小市投手の大記録が生まれないとなったら……どうなる?
根谷管理部長は俺をペテン師と見做すだろうな。
下手すればクビを言い渡されるかもしれない、……いや、それはないな。多分大丈夫だろう。ギネス記録保持者をクビにするだなんて、外聞を憚る大事だ。そう簡単に出来たもんじゃない。
支配下登録枠も現時点では六十人だから、飼い殺しで貴重な1枠を浪費するような無駄もしないだろう。
心配事は全て杞憂となるに相違なし……だよな?
BGMの発信源、隣で眠る小野寺博元に小さな声でそう問いかければ、一際大きな鼾が返って来る。 おい、大丈夫なら大丈夫って言えよ、この野郎。
深刻な悩みとは縁がなさそうな、満腹満足顔を見ていたら悩むのが何だか馬鹿馬鹿しくなって来た。
クヨクヨしたとてどうしようもないか。為るようになるだろう。今までがそうだったのだ、これからもそうでありますように!
さて、久々に二軍での生活が始まった光一郎であったが、その日常に起きた変化は二点のみ。
ひとつは、関西方面への遠征がなくなった事。
もうひとつは試合に備える必要が無くなった分、思う存分にやりたい練習に取り組めるようになった事。
昨年よりも充実したトレーニング器具をフル活用しては筋力を鍛え、外野の左翼ポールと右翼ポールの間を行き来するダッシュを多めにした走り込みを行う。
投球練習はビデオ撮影をしながらで、再生映像を確認しながら丁寧な投球を心掛けては脳内のイメージとの擦り合わせと質の向上を図る。
投げ込み過多とならぬようシャドーピッチングの量を増やしながら、肩甲骨の可動域を広げるトレーニングも欠かさない。
光一郎の毎日は練習だけではない。時には樋浦茂二軍監督の命令に従い、二軍戦にも登板する。特にギャラクシーズとの対戦は積極的に登板していた。
朝日が昇ってから夕陽が沈むまでの間、適宜休憩を挟みながらトレーニングに没頭し、早目の夕食と入浴を済ませたら仮眠を取る。
そして一軍の試合が終わり寮生活をする選手達が戻って来る頃に起きては夜遊びなど以ての外とばかりに、日付が変わるまで夜間練習に励む。
当に球団が望むあるべき選手の鑑のような生活といえよう。
更に付け加えれば、光一郎の練習はひとりぼっちで行われているわけではなく、傍らには常に二人の新人、岩永と小野坂の姿があった。
光一郎は高卒新人の二人に過度なほど親身に接し、一年間戦える体作り、怪我をしない為の体作りが順調にいくよう連日連夜アドバイスしている。
素振りにおいても、筋力強化においても、具体的な目標を課しながらで。
二軍打撃コーチの鷲尾博実が毎年恒例の事業、選抜メンバーを率いて渡米中である事もあり、二人の指導は光一郎へ丸投げ同然で黙認されていた。
樋浦二軍監督は、岩永と小野坂の尻を追い立てるように外野を走る光一郎に対し一切の咎め立てをせず、見て見ぬ振りをする。
他のコーチ達もまた、自分らの仕事を肩代わりしてくれているものと放置していたが、ひとつだけ制止しようとしたものがあった。
それは練習上がりのランニング中に妙な歌を歌う事、である。
ふざけ過ぎではないかとの注意に対し、疲労の限界クタクタの極みであっても声を出せば体は動くもの、リズム付きであれば猶更です、と反論する光一郎。
実際にやらせてみれば確かに光一郎の言う通りであった為、二軍首脳陣は苦笑いで実施を了承した。
♪ 俺達ゃ 未来の主力だぜ
いつかは どデカイ仕事する
走り込め! 走り込め!
皆さん 応援 よろしくね
走り込め! 走り込め! ♪
中々暮れない日差しの中、光一郎をリードボーカルに、輪唱というよりヤケクソ気味の復唱が狭山丘陵まで届けとばかりに響き渡る。
当事者以外には愉快なコントにしか見えぬ光景は、光一郎が一軍再昇格で抜けた9月半ば以降も、武蔵野第二球場の名物としてあり続けた。
梅雨時分から混戦を抜け出して以降、一度も首位の座を奪われること無く守り続けているギャラクシーズ。
シーズン終盤となる秋を迎えてもその勢いは衰えず、9月初旬に優勝マジックを点灯させる。
二位以下を大きく引き離して首位独走中のギャラクシーズが意気揚々と城南市民球場へと乗り込んだのは、9月19日のこと。
対戦相手は、夏前から名古屋ドルフィンズとの間で熾烈な2位争いを繰り広げている広島キャナル。
優勝戦線に残る為にも絶対に負けられないとばかり、必勝態勢のキャナル。対するギャラクシーズは、四年ぶりのリーグ制覇まで秒読み段階であり万全の状態で臨む。
前年度優勝チームとしての意地と、常勝軍団復活を期すチームの誇りが激突する三連戦の初戦は、ギャラクシーズが先勝した。
新進気鋭の速球派である真殿寛己が、1失点完投でキャナル打線の猛攻を完璧に封じてみせたのだ。
明けて翌日の第21回戦。
ギャラクシーズはキャナルへ引導を渡すべく、チーム二番目の勝ち頭を先発のマウンドへと送り出す。
深刻な肩痛に苦しみながらも挙げた江守卓の12勝は、エースの貫録と矜持の結晶と言えよう。
しかし不思議とこの日は一切の不調を感じず、全盛期とまではいかずとも絶好調時に近い投球で、スタンドのファンを魅了する。
球史に名を残す強打者達を力づくで捻じ伏せた豪球は見る影はなくとも、磨き続けた速球は威力十分。それ以上にカーブが初回から冴えわたっていた。
ササニシキと名付けたスライダーや、マスカットと名付けたシュートなど独特なネーミングセンスの変化球を見せ球にしながらの投球術の前に、キャナル打線が六回終了までに放った安打は僅か二つ。
選べた四球も一つだけとあっては、得点出来る筈もない。
もっとも、好投していたのは江守だけではない。キャナル先発の亀山昭人もまたそうであった。
初回から毎回安打を許すもきっちりと後続を断ち、許した失点は僅かに1点。四回表、塩沢利夫のタイムリーによるものだけに抑え込んでいる。
ゼロばかりがズラリと並ぶスコアボードに、超満員となったスタンドの観客の大半が、もしかしたら江守の完封劇で終わるのではと予測し始めた七回裏。
膠着していた試合が不意に動き出す。
最初の打席は敢え無く凡退したものの二打席目ではカウント球をレフト前へと打ち返した小杉毅彦のバットが、再び火を吹いたのだ。
今日の江守の決め球であったカーブは小杉のフルスイングに捉えられ、ライトスタンド上段へと美しい放物線を夜空に描く。
昨年引退した安原浩二の後継者として四番を任されるようになった小杉の、会心の一撃であった。
沸き返る大観衆の中へと消えた打球を静かに見送った江守。
大平貞治監督の表情が一瞬だけ朱に染まる。
それを見た投手コーチの翠睦男は慌ててマウンドへと走ったが、今日初めての失投に苦言を呈する訳にもいかず、直ぐにベンチへと退散する。
嫌な空気を断ち切る為だけに集まった内野陣もまた同様。
ファーストの中原清、セカンドの塩沢、サードの長谷辰徳、ショートの近藤淳基の誰もが“ドンマイ!”というエールだけを残して定位置へと散って行く。
最後まで残ったのは江守と同い年で長年の女房役の山野井和博捕手だったが、生憎ムードメーカーとは対極の性格の人物。
特に投手に対しては此処に投げろと率先して指示するよりは、何処に投げたいかとお伺いを立てるようなリードをするのが信条とあっては、気の利いたセリフを期待するのも無駄である。
審判から受け取った新しいボールを江守へと手渡し、立ち去り際に“まだ同点だから”と一言告げるのが精一杯。口数の少なさでは球界でもトップクラスの山野井にしてみれば、むしろ出来過ぎな気遣いであっただろう。
独りマウンドに立つ江守は、丁寧に捏ねられてから手渡されたボールを暫く見詰めてから、僅かに口を動かした。カーブを打たれたくらいでワーワー騒ぎなさんな、と。
誰かに聞かせる心算もない小さな呟きは、興奮冷めやらぬ球場の喧騒に一瞬で搔き消されるが、江守は気にしたそぶりを欠片も見せずにいた。
面白くなって来たじゃないの。
江守の心に点る闘志という名の炎がオレンジ色から透き通った青色へと変わり、山野井の出すサインを見る目がカクテルライトよりも鮮やかな光を放つ。
球審の合図と共にしなやかなフォームから投じられたのは、ジャストミートされたばかりのカーブ。積極性が売りの次打者、中嶋清幸は内野ゴロに仕留められた。
一塁塁審のアウトの声を背に、堂々と胸を張りながらベンチへ戻る江守のの雄姿に、奮起したのはギャラクシーズ自慢の黄金の内野陣を形成する面々。
八回表の攻撃。
一死から二番の近藤がフルカウントからファウル4球と粘った末に足で稼いだ内野安打で出塁するや、三番中堅手のウォーレン・クローザースの内野ゴロの間にセカンドを陥れる。
そして長谷が今日これまで打ちあぐねていた亀山の速球を漸く捉え、左中間を深々と破る勝ち越しのタイムリー二塁打を放った。
勝利を呼び込む決定打というには心細くとも、勝ち越し点を再び奪ったのは確かな事実。
孤軍奮闘状態であった江守にはたかが1点であろうとも、実に心強い援護射撃であったのも事実であった。
その裏、八回裏のキャナルの攻撃を三者連続三振でピシャリと抑えたのが、その証左。
遂に試合はクライマックス、大詰めの九回裏を迎えた。
塩沢相手に熾烈な首位打者争いを挑んでいる塩屋耕三に、代打の切り札である大和田孝。
勝利を希求するキャナルベンチが期待を掛け背負った二人を、いとも簡単に始末した江守であったが、理想的な三番打者像としてキャナルファンのみならず多くの野球好きに愛されている龍田慶彦に出塁を許す。
マウンド近くに転がった打球を猛烈ダッシュで飛び出した中原が掴んだ所為で、江守のファーストベース・カバーが遅れ呼吸が合わなかったからであった。
簡単なピッチャーゴロが連係による内野安打になったが為に、ゲームセットは遠のき、同点のランナーを背負う羽目となった江守。
徐に打席に入るのは、一度は試合を振り出しに戻す同点弾を放った小杉である。
初球、外角高め一杯の速球を悠々と見送った小杉は、二球目のスライダーにも打つ気を見せない。バットを出したのは三球目、外角低めのボール球のカーブ。しかしバットは空を斬る。
これでカウントは2ストライク1ボール、投手有利の状況となった。
盗塁を企図する振りで集中力を散らそうとする龍田を一瞥しながらのセットポジション。山野井の出すサインをチラリと見た江守だったが、気に入らないのか小さく首を横に振る。
ここはインハイの速球だ! 真っ向から胸元を突くべし!
今度は小杉をキリキリ舞いさせる自信が溢れんばかりとなったその瞬間、江守の脳裡にて何処かの誰かが静かに囁いた。
“真っ向勝負をするんは気持ちエエけど、負けたら一生舐められんで”と。
囁きは、沸騰寸前であった江守の血汐を適温にまでスッと下げる。思わず球審にタイムを要求するや、プレートからつま先を外す江守。
大きく深呼吸。
心配になったのか立ち上がろうとする山野井を冷静な眼差しで制止した江守は、鼻息をひとつ放ってから改めてプレートにつま先を置いた。
試合再開にキャナルのチームカラーで真っ赤になったスタンドが、地鳴りのような声援を発する。
三塁側に陣取るギャラクシーズ応援団も負けじと大声を出してはいるものの、赤い帽子を被った大観衆に呑み込まれそうな塩梅だ。
龍田を厳しい視線だけで牽制しつつ、江守は山野井のサインに軽くうなずく。
誰もが見惚れる美しい動作で投じられたのは、外角低目への速球。
狙い澄ましたように小杉がフルスイング。
そして。
球審がオーバーアクションで下した判定は、ストライク・バッターアウト。
駆け足で集まって来た野手の祝福を受けながら江守は、もう少し体を労われば今日のような投球が今後も出来るだろうか、と天を仰いだ。
同時刻。
川崎市の一角にある京浜球場のブルペンで、光一郎もまた天を仰いでいた。
根谷管理部長の勘気も解けた上、調整も思いのほか上首尾であったのに、相変わらず投げる機会が無い現状を嘆きながら。
今夜もエースの日高修は絶好調。序盤に2点を失ったものの、その五倍の援護を背にスイスイと完投ペースで投げている。
レイカーズの大量点の内訳は、三番浅川幸二の38号3ラン、四番キンタローこと金月和博の36号2ランと37号ソロ、五番小野寺の30号満塁弾だった。
去年と同じく今年も試合後に行われている、光一郎主導の夜間特訓。
毎晩ではないにしても深夜までバットを振り続ける成果は、二人の打者の著しい成長に十分過ぎるほど寄与していた。
金月のホームランと打点は去年より若干ハイペースで、三年連続40本と初の本塁打王獲得を目指す浅川と比較しても見劣りするものではない。
バントも厭わぬ姿勢で森山祇晶監督の信頼を得た小野寺は、去年よりも成績が下降気味のブロデリックをベンチに追いやるほどの活躍をしていた。
30本90打点以上を三人も並べた破壊力抜群のクリーンアップを中心に、好打を連発する伊倉宏典ら中堅達。怪我を治し、光一郎よりも先に一軍復帰を果たした鶴発彦も存在感を増している。
鶴の復帰で控えに回った戸松誠治や、正遊撃手として開幕より起用されている高山徳雄ら若手が溌溂と駆け廻る一方、ベテランの代表格たる緒方卓司も要所でいぶし銀の活躍を魅せていた。
日高を筆頭にした先発陣も大過なく、誰かが不調に陥っても誰かの好調で埋める事で連勝はあれど連敗とはほぼ無縁である。
埼玉に拠点を移し、チーム名をライナーズから一新して9年目となる今シーズンに至り、遂に盤石の戦力を手に入れたレイカーズ。
ギャラクシーズのようにぶっちぎりで首位独走……とはなっていない。マジック点灯は大阪ブルズに完勝した9月27日になってからだった。
理由は2位の神戸ブレイザーズも、レイカーズに負けず劣らず勝ち星をうず高く積み上げていたからだ。
恵まれた巨体を持て余すようなフォームで力投する剛球と落差のあるフォークを駆使して自身初の20勝投手となった山田之彦。
他にも堀井伸之、佐々木義則、山本久志ら実績ある三名があぶなげなく二桁勝利を挙げれば、20本塁打以上の打者を4人並べた自慢の重量打線も持てる能力の総てを遺憾無く発揮していた。
特に開幕直後から最下位に低迷した東京ファルコンズを集中的に叩く事で貯金を殖やし、対戦成績は最終的に24勝2敗。
他チームとの対戦成績がトントンでも貯金が20を超えていれば、十分に優勝を狙える位置をキープ出来てしまうのは当然だと言えよう。
レイカーズが何とかリーグ三連覇を達成したのは、猛追するブレイザーズとの今シーズン最後の直接対決を制した日である。
三塁側応援席から投げ込まれる色取り取りな紙テープを背景に、森山の体が敵地の武庫球場で五度六度と宙に舞う。
歓喜の輪の外縁で万歳と叫びつつ、観客席へと向き合いながら何度も飛び跳ねる光一郎。
全身で喜ぶその姿は、誰の目にも無邪気さしか映らないもの。
然れどその胸中に分け入れば、決して純粋さ100%ではない。他人に気づかれぬ程度、凡そ3%は明らかな不純の塊。
その不純の塊を文章に変換すれば、次のようになる。
今年の日本シリーズは……楽がしたいなぁ、に。
作中の歌の元ネタがピンと来ない御方は、「ファミコンウォーズ」「CM」で動画検索下さいますよう。本来の元ネタは洋画『フルメタルジャケット』ですが(苦笑)。
それはそれとして。
バファローズという名のチームが誕生してから此の方苦節62年、初の日本一!
オリックス球団としては96年のブルーウェーブ時代以来、26年ぶりの日本一!
誠におめでとうございます♪