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きずつくキツツキ

 クセノをしたう若いカラスたちが、コトドリが植えたのか嘘だということを証明(しょうめい)するために何羽かに分かれて証拠(しょうこ)を探しに行きます。まずは森の鳥たちに、あの木がいつからあったのか聞いてみることにしてみました。ですがだれも知りません。

「あそこのなわ張りも次々に変わってしまっていたからね」

「だれが植えたかなんて最近のじゃないと気にしていないよ」

証拠(しょうこ)なんてあるわけないじゃない。植えた場所をだれかに教えたりしたらほり返して()られるだけさ」


 だれも知らなかったので、仕方なくコトドリを問い詰めてボロを出させることにしました。

「いつごろあの場所に植えたか覚えていますか?」

「さあね……もうだいぶ昔のことだし、ねぼけながらのことだったから植えた日までは覚えていないな」

「よく覚えていないのに自分が植えたなんて言い出すのはおかしくないですか? おかげで皆混乱(こんらん)していますよ」

「今さら間違ってたなんて言ったほうが余計にややこしくしてしまうと思うけど。まああんなのくだらんものだよ。ぼくが町に行けばあれよりもっといいものにありつけるんだからね。人間相手に仕事をしている方が鳥としてよっぽどすごいことだし、こんな森でいばってたってしょうがないんだよ」

「そんな言い方はどうかと思いますよ。みんなあの木にお世話になっているんですよ。あれを植えた本当の持ち主に対して失礼ですね」

「その本当の持ち主とやらが証拠(しょうこ)をそろえて名乗り出てきたなら、いさぎよくゆずってやるよ。まあ、ぼくにとってはどうでもいいことだけどね」

 はぐらかされている間にキツツキが戻ってきて若いカラスたちをにらみつけました。若いカラスは突かれるのが怖くてそれ以上はやめにしました。

 若いカラスたちはもう一度集まって、何かいい考えがないか頭をひねります。もう他のどんな手段も思いつかなかったので、あまりいい作戦だとは思っていませんでしたがこっそり木の根元をほってコトドリの嘘をあばいてやることにしました。種が植えられた当時のものが運よく残っていることに()けました。ほるための時間をかせぐためにはクセノにキツツキとコトドリを引き付けてもらわなければなりませんでした。クセノははじめ乗り気ではありませんでしたが、こんなにも自分のことを考えてくれている若いカラスたちに心を動かされておとりの役を引き受けました。

 クセノが自分こそが本当の持ち主だと名乗り出ると、キツツキとコトドリはここぞとばかりにののしり始めました。その間に若いカラスたちは木の根元をほって証拠(しょうこ)さがしを始めます。ふだんこんなに深くほることはありませんが、その努力もむなしく、証拠(しょうこ)らしいものは中々見つかりません。

「こんなにほっても出てこないなら何もないんじゃないか?」

 若いカラスたちはあきらめかけていましたが、木の根がからみ合ったすき間の深いところにたくさんの種や実があるのを見つけることができました。それらはクセノがまだ種を植えるのにちょうどいい深さを知らなかったがために芽を出さなかった種でした。そしてそれがクセノが()めたものだということが若いカラスたちにははっきりと分かりました。クセノが若いころから好みだったものばかりで、その話を何度も聞かされてきたからです。若いカラスたちは喜びの声を上げ、その鳴き声を聞いて森中の鳥が集まってきました。

「クセノさんにもこんな時代(じだい)があったんですね。そのおかげで(うそ)をついていないことが分かったなんて本当に運がいいですよ」

 クセノは昔の自分のことを知られて少しはずかしくなりましたが、見つけてもらえてうれしくもありました。

 とうとう(うそ)のバレたコトドリはすぐさま別の言い訳を思いつきました。

「ちょっと待って。他の場所に植えたのを、ここだとかんちがいしたかもしれない。今からその場所を確かめてくるからここで待っていて」

 そう言うと逃げるようにして飛び去って行きました。若いカラスたちには、はずかしい思いをしたコトドリがこの森に帰ってくることはないように思われました。

「確かに自分が植えた実から生えたようだが、いまさら自分のなわ張りだと主張(しゅちょう)する気はないよ。ぼくも知らないだれかが植えた木から実を取って命をつないできた。カラスはみんなそうしているから自由に取ればいい」

 クセノは改めて森の鳥たちに言いました。これでこの木はコトドリだけのものではなくなり、再び森のみんなのものになりました。

 キツツキはというと、(うそ)をついているコトドリのことを弱い立場にあると思い込んでたくさんの鳥にめいわくをかけ、無実のクセノを一方的にののしったことを()やみ、心の中で自分のことをひどく責めてすみかの木の(うろ)にひきこもってしまいました。

 クセノはこうなることを一番におそれていました。なので他の鳥たちに、コトドリはつい()が差してああいうふうに言ってしまったのだろうし、キツツキはもう自分の行いについて十分反省(はんせい)しているのだから、必要(ひつよう)以上に二羽を責め立てないようにさとしました。それを聞いた鳥たちはうなずき、教わってきたことを忘れないとやくそくしました。それからクセノは思い切って、生まれ育った森からはなれて旅に出ることにしました。もう自分がいなくても、鳥たちが仲良く平和に()らしていけると信じられるようになったからです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 生きていくためには食べねばならないとはいえ、コトドリがウソをついてしまったのは良くなかったですね。 おかげで、ようやく平和になった森にまた波乱が。 運良くこの森の騒動は収まりましたけれど、波…
[一言] どんな組織においても、たったひとりのわがままで、大きく混乱してしまったりするんですよね。悪意はなく、むしろ善意から混乱を大きくするキツツキのようなことも多々あります。 ことなかれ主義で済ま…
[一言] 人間だけじゃなく鳥達も大変ですね〜。 良いお話でした。
2021/01/08 19:20 退会済み
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