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グルメなカラス

 ある豊かな森に住むカラスのおじいさん、クセノにはなやみがありました。クセノの家系は代々、森の鳥たちが十分に食べていけるようにと果実のなる木の種を植えてきました。そのおかげで食べるものに困る鳥はおらず、そのうち他の土地からお腹を空かせた鳥たちがやってくるようになり、たいへん活気(かっき)のあるにぎやかな森へと成長していきました。ところが、今度はその木をめぐってしきりになわ張り争いが起こるようになってしまったのです。なんと皮肉なことでしょう! 森の住人のために良かれと思ってやってきたことが、新しい争いの火種になってしまっていたのです。

 この仕事がどれだけ森の住人の生活を左右しているか分かるようになったのはクセノが(とし)を取ってからのことでした。若いころからご先祖(せんぞ)様がしてきたのと同じようにもくもくと仕事に取り組んできましたが、良くないことがだんだん多くなってくると「こんなことはやめにしてしまおうか。ぼくもどこかちがうところへ行って、お気に入りの場所を見つけて、そこで楽しく気ままに生きていこうか」とも考えるようになっていました。みんながみんな自分の利益(りえき)のために争ってばかりいるので、だれとも仲良くしたいと思わなくなり、森のことだってどうでもよくなってしまいました。ですが、今までたくさんのカラスに受けつがれてきた大事な仕事です。そう簡単(かんたん)にきっぱりとやめる決心がつけられるはずもなく、いろいろなことを考えながら、やっぱりこの森からはなれたくないという気持ちをたよりにがんばっていました。

 クセノは本当にいろいろなことを考えていました。決まりきった()わり()えしない仕事を続けていると、仕事をする意味とか仕事をしないで済む()(わけ)とかをさがしてしまうものです。もしかしたら自分が植えた種のせいで育つことができなかったかわいそうな木があるんじゃないか。もしかしたら自分が植えなかったら、他の場所から家族がやってきて争いを始めてケガをすることもなかったんじゃないか。もしかしたら、もしかしたら……。

「ダメだ、このままじゃ本当にぼくはどうにかなってしまう」

 こういう時、頭のいいカラスはどうすればいいかを知っています。人間と同じで冷たい水で顔を洗って頭を冷やすのです。クセノは冷たい川の水に頭をくぐらせて、ブルブルと体をふるわせました。

 するとどうでしょう。それがいい刺激(しげき)になったのか、ふいにクセノの頭の中で良さげな考えがひらめきました。

「いままでは森のためだとか誰かのためだとか考えていたけれど、考えれば考えるほどキリがない。だったら自分のためにやっていることだって割り切ってしまおう」

 そこでクセノは自分をだますためにグルメなカラスになることにしました。グルメになるとはどういうことかというと、お腹いっぱい食べられれば満足するのをやめにして、味やおいしく食べる方法にこだわるようになるということです。そしてその自分のこだわりを他の鳥たちにも教えてやることにしました。

 もともとクセノは味にうるさいところがあって、若いころは自分が好きな種ばかり植えようとして叱られたことがあったくらいでしたが、そのこだわりを新しい仕事にしようと思いついたわけです。この思いつきをやるようになってからはそれまでの仕事は休むようになりましたが、クセノをしたう若いカラスたちがひた向きに働いてくれたので問題ありませんでした。若いカラスたちはクセノの話が大好きで、クセノが教えてくれたグルメの話は全部覚えていました。それだけでなく、いっしょにおいしいものをさがしてくれました。

 鳥たちはクセノから教えられた方法をまねして、それぞれの口に合うやり方を覚えていきました。すると、カラスと同じように自分から進んで好みの種を植えるようになり、長い年月はかかりましたが森での争いは少なくなりました。鳥たちの間でけんかがよく起きていたのは、森の中ですみ分けが上手くできていなかったからなのでした。こうしてクセノはグルメなカラスとして森で一番よく知られる鳥になりました。


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