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なろう二次創作

ツンデレご主人様とケモミミ従者がゆく魔族討伐の百合旅外伝‐深淵都市の博徒シェンフゥ‐

 リメイクしますた!

 魔族専門の殺し屋『聖拝機関』の執行者であるリサ・エーデルワイスの契約精霊シェンフゥは……まるで最後の最後の局面で大失敗した事を、天空に(ひら)いた〝孔〟を見て知った魔術師殺しなジイさんの(ごと)き顔で驚愕していた。


 己の目の前に置かれた椅子に座る女性――聖華世界における地球の、現時点でのメジャーな知的生命体たる新人類と亜人のハーフにして、創世の女神の祝福の(もと)に生まれた特殊な種族・エルフ族たるティリア・ゴーグを見つめながら。


 エルフ族なだけあって、確かに彼女は、とても美しい容姿をしている。

 しかし、シェンフゥが驚いた点はそこではない。いや思わず見入ってしまうのも事実だが。


 正確には、彼女と、その下――両者の間に置かれたテーブルの上に置かれているカードをシェンフゥは見ていた。


 それは、どこからどう見てもシェンフゥには見覚えがあるカード。

 この世界における年号『聖華』が生まれる前。まだ『西暦』という年号が主流であった、魔素と呼ばれる元素を扱える新人類の傲慢(ごうまん)なる創造主――旧人類の時代において存在したカード。


 トランプ。


 一説によれば、世界で一番古いカードゲーム用のカードであるとも言われているそれを、シェンフゥは見ていた。珍しいから、ではない。いや確かに旧人類の存在した時代の建造物のほとんどが、遺跡と化している作中においてはとても珍しいがそれ以上に――。


「…………ば、馬鹿な……そんな、馬鹿なッ!!」


 ――その絵柄の組み合わせに、シェンフゥは驚愕していたのだった。


     ※


 そもそもなぜこのような状況になったのか。

 そのキッカケは、シェンフゥとそのご主人であるリサが所属している魔族専門の殺し屋『聖拝機関』に入ってきた新たな魔族の情報だった。


 情報によるとその魔族は、この世界に存在する三大国家の一つ『聖王国』の片隅に存在する、その全貌が(いま)だに謎に包まれているという(うわさ)の冥都『アネオ・キバ』を拠点に活動しているらしい。


 そして全貌が謎に包まれている、という事は、聖拝機関の情報網を(もっ)てしても、(さぐ)りきれないほどの深部で、その魔族は自由に、この聖華世界へのテロ活動の準備を整えられる事を意味している。


     ※


 報告を聞くなり、リサとシェンフゥはただちに現地へと向かった。

 あらかじめ上司から偽造された身分証明書を提供されていたおかげもあり、二人はすぐに冥都『アネオ・キバ』に辿(たど)り着いたのだが……問題はそこからであった。


 なんとアネオ・キバは、まるで旧人類時代、シェンフゥの生まれ故郷たる中国にかつて存在した、犯罪者の溜まり場と化していた(じょう)(さい)。そしてそれをモデルにして生み出された、某奪還屋漫画の中に登場する架空の城砦のような……違法建築物が複数乱立し、さらには建築物が増改築を繰り返している影響か、まるで立体型の迷路の(ごと)く複雑に入り組んだ場所である事で道に迷いやすく、さらにはアネオ・キバの中で流通している商品が、旧人類のサブカルチャー関連の貴重なモノばかりであるせいか、仮に身分を保証された存在であっても、出入りできる区域が限定されているという特殊な場所だったのである。


 確かにこんな閉塞的な場所であるならば、魔族も自由に活動しやすいだろう。

 いや、魔族もこの迷路っぷりのせいで迷子になっている可能性も否めないが。


 とにかくそんな場所であるが(ゆえ)に、リサ達の魔族捜索は難航した。

 幸運にも立ち入りを禁止されていない区域の深部へ、下手に足を向けたせいで、自分がどこにいるのか分からなくなったから……という理由も、もちろんある。


 しかし中には、シェンフゥが偶然にも、自分(ごの)みのサブカルチャー関連の商品を見つけたせいで、(とし)甲斐(がい)もなく買いたいと駄々(だだ)をこねた結果、余計な時間を食ってしまった……という理由も、残念な事に半分以上あった。


 するとそんな彼女達に、手を差し伸べる存在が現れた。


 ティリア・ゴーグ。

 アネオ・キバで情報屋を(いとな)んでいるという……エルフ族の女性が。


 彼女はリサ達を自分の店へと誘うと、三人分のお茶とお茶菓子を用意した上で、親切な事にアネオ・キバでのルールを教えてくれた。


 なんでも彼女が言うには、このアネオ・キバには()()()()()()()()()()()()()()どっぷり()かった人種が多く、そのせいで住民のほとんどは警戒心が強いらしい。

 そしてその影響で、限られた者以外、特定の区域に入れない環境になり、もしも部外者がその区域に許可なく入ろうものならば……その区域の主に問答無用で襲撃されてしまうとも。


 しかし近年、人畜無害な者までも被害に()うケースが増えてきたため、半々世紀ほど前に、新たなルールがアネオ・キバにおいて成立した。そしてそのルールとは……アネオ・キバの誕生に関わった四人、通称『四傑』を、四傑が指定するゲームで打ち負かした者のみ、立ち入り禁止区域への立ち入りを許可されるという特別なモノであると。


 さらにはついでとばかりに……その四傑の一人が自分である事も、彼女は教えてくれた。


「ちなみに私が指定するゲームは、ブラックジャック。それも変則ルール。配った二枚、そして己が引いてしまったカードの合計を、より21に近づけた者が勝者。そして敗者は、21との差の分だけ、()()()()()()()。まさにストリップポーカーならぬストリップブラックジャック。ちなみに絵札については従来のルールと同じで10としてカウント。Aは1と11、どちらでも使える。そして、チップを使わない関係上、スプリットやダブルダウンはなし。ここまでで何か質問は?」


「ほぅ」

 シェンフゥは、目を爛々(らんらん)とさせた。


「それはまた、わし(ごの)みというか……わしのためにあるようなルールじゃのぉ」


 それはシェンフゥの正直な気持ちだった。


 なにせ彼女は、同性愛者。己の主人であるリサが一番の(この)みであるものの、基本的に彼女は綺麗な同性が好みだ。


 そして、旧人類時代に己も(たしな)んだ事があるカードゲームのルールという建前で、目の前の美人を脱がせるという背徳行為を合法的(?)に実行できるなど、彼女にとっては垂涎(すいぜん)モノ以外の何物でもない。


 いや一番の(この)みは、何度も言うように、シェンフゥの影響で、我々でいう中学生程度の年齢で外見の成長が止まってしまった合法ロリことリサなのだが、どっちにしろ美女の裸体という、創世の女神がこの世に生み落とした(?)芸術作品は彼女にとって見ておいて損はないモノだ。


 むしろやる気どころかヤる気まで出てしまうのじゃよ(ォィ


「じゃあ、立ち入り禁止区域での活動の許可を賭けて……勝負をする、という事でいいかしら?」


「無論じゃ。わしらも仕事で来ているからの」

 シェンフゥは一度、(つば)を飲み込んてから、話を続けた。


「それに、久しぶりに旧人類関連のゲームと巡り会えたのじゃ。わしの知る旧人類のサブカルチャーを新人類に浸透させる事ができない悔しさをぶつける意味合いも()ねて……この勝負、受け――」


「ちょっと待ちなさいよ!?」

 しかしその言葉は、彼女の主人である合法ロリことリサによって止められた。


「さっきから聞いていれば……勝手に話を進めないでよシェンフゥ!! というかティリアさん!!? このアネオ・キバには魔族がいるのよ!!? 魔族が!! 放っておいたらこの世界に何が起こるか分からない異常事態なのよ!!? そんな悠長にゲームなんかしないで、この世界のためにもとっとと立ち入り禁止区域での活動の許可を出しなさいよ!!」


「……魔族魔族と、言うけどね」

 するとティリアは、なぜか溜め息をついてから話し出す。


「その魔族がここにいる理由が、私や他の住民のように、ただ単に旧人類の文化を気に入ったから……その可能性もあるんじゃないかしら?」


「ッ!?」

 ごもっともな意見に、リサは反論できなかった。


 なぜなら、彼女は知っているからだ。

 基本的にこの世界に侵攻せんとする、聖華世界の敵である魔族だが、中には聖華世界の人類に友好的な魔族も……ほんのわずかであるが、存在する事を。


「それに、もしその魔族がこの世界で何かするとしても……私達には知った事ではないわ」


「「ッ!?」」

 その言葉に、リサとシェンフゥは同時に驚いた。


 この世界の()(よう)にまで影響を及ぼしかねない魔族の侵攻に、なぜティリアは、そしてアネオ・キバの住民は、この聖華世界の住民であるにも(かか)わらず、ここまで無関心でいられるのか。彼女達には理解できなかったのだ。


「そもそも私達は、外の世界の理不尽さによって排斥(はいせき)された、もしくはこっちから外の世界を捨てた世捨て人。もはや外の世界に未練はないから、どうなったところで、もう何も感じない。それにその魔族のせいで死んだとしても、すでに私達は死を覚悟して、この無法地帯たる冥都『アネオ・キバ』に住んでる。だから死は怖くないし、魔族が何をしようと私達には関係ない」


 そして、その言葉に。

 リサは言葉を失った。


 驚愕し、そして同時に納得したのだ。


 ここに至るまでに、アネオ・キバ内で見かけた住民のみすぼらしさや威圧感。

 そして特定の存在以外が入る事ができない場所がある、とても閉塞的な環境。


 先ほどティリアが言った通り、本当にアネオ・キバが世捨て人達により作られた無法地帯であるとしたら……そのような場所になるのも、当たり前ではないかと。


 しかし、もしそうだとしてもこちらは仕事で来ている。

 冒険者であると身分を(いつわ)っているものの……やる事は一切変わらない。


 ――魔族を捜し出して、始末する。


 そしてどう転んだところで、立ち入り禁止区域での活動の許可を取れるか否かの話が平行線を辿(たど)るなら……ここにこれ以上(とど)まる理由は、まったく存在しない。


 すぐにそう頭の中で結論を出すと、リサは立ち上がった。

 そしてティリアに別れと感謝を告げ、立ち入り禁止区域への別ルートからの潜入という無理やりな手段を改めて考えようと思った……のだが、


「まぁ、待つのじゃご主人」

 リサのその考えを察したのか、シェンフゥが彼女に声をかけた。


「ご主人、ティリア嬢は情報屋……じゃったのぅ?」

「……そうだったわね。だけど、それがどうしたの?」


「ならば、先ほどのわしらへの説明……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「ッ!?」


 改めてその事実を告げられ、リサは体を硬直させた。

 下手をすれば、無銭飲食などの罪を犯すところだったのだから当然か。


「しかしな、ご主人」

 シェンフゥは話を続けた。


「ティリア嬢は今まで、金銭を要求する素振(そぶ)りを一切見せていない。と、いう事はじゃ……わしらにはすでに、ティリア嬢とカードゲームをする以外の選択肢はないのではないかのぅ?」


「なかなか鋭い亜人さんね」

 シェンフゥの推理を、ティリアは微笑(ほほえ)みで肯定した。


 ちなみにシェンフゥの持つ偽造された身分証明書には、さすがに精霊などと記載できないため、亜人の冒険者と書かれている。


「その通り。情報を渡した以上、こちらも商売。それ相応の対価を要求する権利がある……だけどその対価は金銭じゃない。アネオ・キバでは物々交換が主流なの。だから少なくともあなた達には、体を張って私をゲームで(たの)しませる義務がある」


「ッ!? なん、ですって!?」

「まさか……物々交換が(おこな)われる場所が今時(いまどき)あったとはのぅ!」


 金銭という概念が生まれる以前。

 人類が物を手に入れる手段は物々交換が主流であった。

 己が欲しいモノと同価値のモノを、己の持ちモノの中から差し出す……この時代においては(さく)()がある物々交換が。


 しかし錯誤こそあるものの、その一方で……必要に応じてお金の量を増減させる事ができ、それに(ともな)い、お金の価値を自在に変動させる事ができる……すなわち、環境によって、簡単に金銭の価値が変動する我々の世界において、果たしてお金というモノは、お互いに平等だと思える売買を成立させられる媒体なのだろうか。


 いや、もしかすると……ある意味、物々交換こそが平等なる売買と言ってもいいのではなかろうか。


 とにかくそんな物々交換が、まさかこんな辺境で今も(おこな)われているとは思わず、リサもシェンフゥも驚愕した。


 というか、ティリアの商売の手段は詐欺(さぎ)ではないかと思わないのか二人共(ぇ


「そんな文化がここアネオ・キバに根づいているのであれば……よそ者のわしらはここの住民のためにも、そのルールに従わねばなるまいて」


 しかしシェンフゥは、すぐに気持ちを切り替えた。

 いろいろ面倒臭いルールではあるものの、だからと言ってよそ者の自分達がそれを(やぶ)れば、余計な争いの火種になりかねないからだ。


 いや、もしや同性を合法的にひんむける事が……彼女をこうして突き動かした要因か。


 それとも……己の同類と思われる目の前のエルフと出逢え、そして勝負ができる事に心が(おど)っているのが要因なのか。


「ならば」


 とにかくシェンフゥは、気持ちを切り替えつつティリアへと鋭い眼差しを向けると……なんと片腕を豪快に振るい、テーブルの上のお茶とお茶菓子を()ぎ払う!?


「とっととカードを出すのじゃ、ティリア嬢。おぬしのお望み通り……ストリップブラックジャックでケリをつけるのじゃ!!」


グッド(よし)

 ティリアは、不敵に笑って応えた。


「ああ……やっぱりやるのね」


 無銭飲食などは人としてしたくはないが、だからと言ってどうして脱衣系カードゲームをしなければいけないのか……そんな思いを抱きつつも、リサはただ黙って見守る事しかできなかった。


     ※


「最初に言っておくわ。私は、かーなーり強いッ」

 己とシェンフゥへと、それぞれカードを配りながらティリアは言う。


「今まで多くの挑戦者を返り討ちにしてきた経験がある。だからハンデとして……あなたの相棒の服も、あなたの服としてカウントしてあげる」


「かっかっか。心配は無用じゃ」

 ティリアの気遣いに、シェンフゥは不敵な笑みを返した。


「トランプを使ったゲームはわしも熟知しておる。それに、ご主人の服を脱がすのはわしの特権。そしてわしの服を脱がすのはご主人の特権。それ以外の者には一枚たりとも脱がせはせん!!」


「いやシェンフゥ!? アンタ何言ってんの!?」


 あまりにも恥ずかしい事を言われ、ただただ見守るしかないリサの顔はトマトのように赤く染まった。

 確かにシェンフゥとは、幸か不幸か、()()()()()()になっちゃったが、それでも言い方があるだろうに……と思いながら。


     ※


 そして、ゲームは始まった。


 途中まで、シェンフゥ優勢でゲームは進んでいた……()()()()()

 しかしいつの間にやらゲームの風向きは変わり始め、気がついたら連敗を(きっ)していた。けれどシェンフゥは、己の調子が悪いだけではないかと……そんな風に自分を誤魔化(ごまか)し続けた。


 そして、次に気づいた時。

 事態は最悪の事態――冒頭のシーンへと繋がる。


「…………ば、馬鹿な……そんな、馬鹿なッ!!」

 己の手札の組み合わせに、シェンフゥは驚愕した。


 彼女の手札は、ハートの9、スペードのK、そしてダイヤの3――合計22。


 一方でティリアの手札は……スペードの5、ハートのQ、クラブの6――合計は21。


 ティリアの勝利だ。


「フフッ。だから言ったでしょう?」

 驚愕したシェンフゥに不敵な笑みを向けながら、ティリアは言った。


「私には、多くの挑戦者を返り討ちにしてきた経験があるって。そしてその経験の分だけ強いのは……言わなくても分かるでしょう?」


「…………くっ。もう、一度じゃ……もう一度わしと勝負じゃ!!」

 しかしシェンフゥは、(あきら)められなかった。


 なぜなら彼女には、旧人類が存在した時代に様々なサブカルチャーを(たしな)み、その中で様々なゲームの存在を知り、ネットを(つう)じて世界中のプレイヤーとそのゲームで何度も試合をした経験がある。それはティリアの言う経験にも劣らないハズ……にも拘わらず、なぜこうも連敗が続くのか。


 その理由を(さぐ)るために。今度こそ彼女を打ち負かし、聖拝機関の執行者の仕事をするために。そしてサブカルニストたる自分自身の誇りのためにも、ここで負けるワケにはいかないのだ。


「……勝負するのはいいけど」

 ティリアは苦笑した。


「私はともかく、あなたと、あなたの相棒は……()()()()()()()()()()()()()?」


「へ?」

 言われて……ようやくシェンフゥは自他の(あり)(さま)を確認した。


 まずティリア。

 上はブラのみ。下はパンツとズボンをはいている。

 あと二枚までは脱ぐ事ができるだろう。このゲームが旧人類時代に存在した脱衣麻雀系(きょう)(たい)のように、下着一枚になるまで続くのであれば。


 一方でシェンフゥ。

 上はブラのみ。下はパンツ一枚……いや、先ほど負けたのでパンツ一枚だけだ。


 最後にリサ。

 こちらは……パンツ一枚だけ。


 なお、彼女は肌の割合が増えた事による肌寒さ……ではなく、その格好の恥ずかしさのあまり、生まれたての小鹿のように、体をプルプルと震わせつつ……全身を真っ赤に染めて、両腕で胸部を隠し、さらには契約精霊であるシェンフゥを涙目で(にら)みつけていた。


 どこからどう見ても。

 旧人類時代に存在した脱衣麻雀系筐体のルールに(のっと)るのであれば……シェンフゥ達の敗北である。


「……もう、勝負続行不可能ね」


 すると、その結果に満足したのか。

 それともシェンフゥ達を(あわ)れんでいるのか。


「本当はそのまま追い払うんだけど、今回は同性というのもあるから、特別に服は返してあげる。だから次は……もっと強くなってから来なさい。またいつでも勝負を受けてあげるわ」


 ティリアは微笑(ほほえ)みながら、シェンフゥ達にそう言った。


「…………待つのじゃ」


 しかしシェンフゥは――。


「待つのじゃティリア嬢!! もう一度……もう一度、わしと勝負をしてほしいのじゃ!!」


 ――ここまで追い詰められてもまだ(あきら)めなかった!?


「ッ!? はあああ!? ちょ、シェンフゥ!?」

 そして相棒の、この問題発言は……さすがのリサも(かん)()できなかった。


「なに言ってんのよアンタ!? 馬鹿なの!? アンタ馬鹿なの!? 次負けたら下手すれば私達マッパよマッパ!! 相手がせっかく情けをかけてくれるっていうのにまた勝負する気!!? 頭おかしいんじゃないの!!?」


 恥ずかしさと怒りのあまり、リサはもう冷静さを半分以上失っていた。

 シェンフゥに対して『何言ってんのコイツ』と思った事は、今まで何度もある。だが今回のこれは……我々読者から見ても、さすがに度が過ぎている。リサが冷静さを失うのも無理はないレヴェルだ。


 しかしそれでも……シェンフゥは引かなかった。

 怒鳴りつけるご主人に、彼女はまっすぐな眼差しを向けて言う。


「すまぬご主人。けど、けどわしは……こんなところで、負けるワケにはいかないのじゃ……わしのためにも、ご主人のためにもッ」


「シェ、シェンフゥ……」


 シェンフゥのまっすぐな思いを聞き、リサは言葉に詰まった。

 馬鹿な事を言ってはいたのだが、その根幹にあるのが『自分達のため』ならば、これ以上怒れないではないか。


「覚悟はある。わしは戦うッ」

「いや私はマッパになる覚悟ないんだけど!?」


 だが再びシェンフゥの口から馬鹿な発言が出て……リサはまたしてもツッコミを入れる羽目になった。


「確かにわしらは、次負けたら今度こそ終わりじゃ。情けを無視したから当然の事……じゃが」


 シェンフゥは、次にティリアへと……まっすぐな眼差しを向けた。


「それでも!! 守りたいモノが……あるのじゃ!!」


「…………仕方ないわね」

 するとティリアは、シェンフゥのどこぞの種な機動戦士な熱弁を聞いたからなのか……ついに折れた。


 その言葉を聞いたシェンフゥは、目を輝かせた。


 逆にリサは、信じられないと言いたげに目を丸くした。

 あそこまで(かたく)なに、カードゲームによる決着に(こだわ)ってたティリアがただで折れてくれるとは……彼女には思えなかったのだ。


「勝負を続行しましょう。ただし」

 そして、そんなリサの(かん)は……やはり当たった。


「亜人さんのワガママに付き合うのだから、多少ルールを変更します。もしあなた達が次の勝負で勝ったら、立ち入り禁止区域での捜索の許可を与えましょう。無論私はあなたのワガママに付き合ってあげるのですから、その対価として脱ぎませんが。そしてもしもあなた達が負けたら……()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ぎゃっ、逆逆バニーじゃとぅ!?!?!?」

「…………え? 逆ぎゃ……なに?」


 まさかの、旧人類のサブカルチャー関連の罰ゲームに……シェンフゥは驚愕し、そして旧人類の文化についての知識をあまり持っていない元貴族のお嬢様は頭上に疑問符をいくつも浮かべた。


     ※


【逆逆バニー】


 旧人類時代に開発された装束の一種。

 アメリカの高級クラブのウェイトレス用の服として作られた、ウサギを()した装束であるバニースーツの、肌の露出部分とそうでない部分を逆にした『逆バニー』をさらに逆転させる、すなわち、元の状態に戻したと思われるスーツ……と思われがちだが、正確には逆バニー姿の段階で、恥部(ちぶ)にニプレスや(まえ)()りを()っておいたヴァージョンの逆……すなわち本来のバニースーツの、()()()()()()()()()()()()()()()という(すさ)まじくハレンチなコスチュームの事である。


 ――仙狐脳内書房刊『旧人類コスプレ百景』より


     ※


 しかしシェンフゥは、その服の詳細をリサに話そうとはしなかった。

 話せば絶対、あらゆる手段を使ってでも……リサが愛銃であるハリウッドの銃口をシェンフゥへと向けてまで、勝負を止めようとすると分かっているからだ。


「……いいじゃろう。その勝負……受けて立つ!!」

 だからシェンフゥは、無理やり勝負を続行させた。


「ちょっと!? 逆逆……なにっ!? ワケが分かんないのに勝手に話を進めないで!?」


 しかしそんな無理やりを、リサはスルーする事ができず声を上げた。

 というか言わないなら言わないで……逆にありとあらゆる嫌な想像が頭を(よぎ)るので仕方ないと言えばそうであるが。


「大丈夫じゃ、ご主人!」

 するとシェンフゥは、目の光を失わないまま断言する。


「今度こそ……今度こそ、絶対わしは勝てる!! じゃからご主人……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


「…………………………は、はぁああああああああああああああああああああああああああッッッッ!?!?!?!?」


 だがその口から出た言葉は、あまりにハレンチな内容だった。

 そしてそれ(ゆえ)に、リサは何を言われたかを理解するのに、数瞬の時間を(よう)し……理解すると同時にその全身を、さらに赤く染めた。


「な、ななななッッッッ!?!? なに言っちゃってんのよアンタは!?!?」

「頼む、()(しょう)じゃご主人!! してくれれば……してくれればわし、絶対に勝てるから!!」


 シェンフゥの真意がまったく分からず、怒りと(しゅう)()のあまり、思わず大声を出すリサに、シェンフゥは真剣な眼差しで力説する。


 まるで、絶対に勝てると本気で確信していると言いたげに。

 まさかそれほどまでの、究極最終手段が存在するのだろうか。


「……あぁもう、分かったわよ!!」

 するとついに……リサは折れた。


 どっちにしろ、シェンフゥが相手にかけられた情けを(こば)んだ時点で、退路は全て()たれてしまったも同然。

 (ゆえ)に、少しばかり意味不明な手段であろうとも、それを、(わら)にも(すが)る思いで実行してでもあがかねば損だと思ったのだ。


 それに加え……いつも基本的にフザけた調子の相棒が、ここまで真剣な目をしているのだ。


 もしかすると、明日(あた)り、槍が降りかねない事態かもしれない。

 しかしそんな相棒の頼み一つ聞いてやれないようでは、これから先……共に修羅の道を突き進む資格はないッッッッ!!!!


「やってやるわよ!! だからシェンフゥ……絶対に勝ちなさい!!」


「心得た!! ご主人!!」


「……何を考えているかは分からないけど」

 シェンフゥとリサのやり取りを聞きつつ、ティリアは言った。


「そんな事で、次のターンで都合良く勝てるような幸運を招き寄せられるとは到底思えないわ」


 カードゲームで戦い続けたティリアからしても、というか我々読者からしても、ワケが分からない策だ。彼女がリサ同様、困惑するのも無理はない。


 しかし、今は勝負の時。


 (ゆえ)に彼女は一切油断せずに……己とシェンフゥへ、再び二枚ずつカードを配る。

 一枚は表向きカード(アップカード)として。もう一枚は、伏せカード(ホールカード)として。


 ティリアのアップカードは、クラブのA。そしてホールカードは、ダイヤの6。Aを11と見なすなら合計17。次に手にしたカードが4であれば勝利。ティリアは再び……カードを引いた。


 ハートの5。残念ながらバーストだ。

 しかし21に限りなく近いため、まだ勝敗は分からない。


 一方シェンフゥのアップカードは、スペードのJ。ホールカードはクラブの4。合計14だった……のだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()


「??」

 ほとんどの場合、カードを見せ合うまで伏せられているハズの手札の存在に気づいて……ティリアは首を(かし)げた。


 ――どっちにしろ追い詰められているから、伏せている意味がないと判断したのだろうか。


 しかしすぐにそう結論を出し、彼女はカードデッキの方へと手を伸ばす。

 (なん)にせよシェンフゥが再びカードを引く事は確定である。その準備のためにも、今からカードデッキを持っていなければなるまい。


「ティリア嬢……次のカードは()()()()()、わしに配ってくれないかのぅ?」


「?? …………構わないわよ」


 するとその時、シェンフゥはテーブルを人差し指でトントン叩きつつそんな要望を出した。ちなみにイラついているワケではない。テーブルをトントン叩くのは、もう一枚カードを引く……すなわち『ヒット』の意思表示なのだ。


 そして、ついにシェンフゥにカードが配られた……その時だった。


「今じゃ、ご主人!!」


 シェンフゥから合図が飛び、リサは背後から……シェンフゥに抱きついた。

 同時にシェンフゥは、ついにその胸部からブラを取り……すぐにリサの手による〝手ブラ〟が成った。


「…………だから、その策にいったいどんな意味が……え?」


 先ほど言っていた策がようやく実行されるのを見て、ティリアは(あき)れ顔を二人に向け……途中で絶句した。


 誰が見ても分かる変化が、目の前で起こったが(ゆえ)に。


「フォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!」


 仙狐が、咆哮(ほうこう)する。

 まるでどこぞのHENTAIマスカレイドの(ごと)く。


 と同時に彼女の体は……まるで熱した鉄の(ごと)く赤く染まった!!!?


 いったい何が起きたのか、ティリアにはまったく分からない異常事態である。

 もしや、シェンフゥの体内で核融合反応に似た反応が起こり、かつての怪獣王の(ごと)く、今まさにメルトダウン寸前なのではないか……いや違う。


 ただ単にシェンフゥは……()()()()()()()()()()()


 己との契約の影響で合法ロリな状態となったご主人なリサのまだまだ発展途上で(もうこれ以上性徴しないが)(つつ)ましき胸部の(ふく)らみが自分の背中に当たるだけでなくそんな合法ロリが己の胸部に触れて……そんなシチュエーションに、この変態仙狐が名状しがたい劣情と背徳感を抱かないハズがあるまいッッッッ!!!!


「な、んだ……なんだ、それは……ッ?」

 そんな事を知らないティリアは、驚愕しつつもなんとか口を(ひら)いた。


()()()()()()()()


 するとシェンフゥは、ついに最後の一枚に手をかけ……カードゲームにおいて、運命を手繰(たぐ)り寄せると言われている秘技〝(しぼ)り〟を(おこな)いながら説明する。


 というか結局運任せかッ。


「この仙狐・紅となったわしは、全てのスペックが通常の三倍となるッ!! 身体能力のみならず……運ものぉ!!!!」


 それは、ハッタリだった。

 身体能力については、かのゴム人間の強化形態の一つのように上昇するかもしれないが……さすがに運までは上がらない。


 けどその代わりに、こうしてティリアにプレッシャーをかける事で、あわよくばティリアを失神させられないかとシェンフゥは思っていた……のだが、ティリアの精神は思った以上に強かった。どうやら、かの奇妙な冒険のエジプト篇に出てきた兄弟の兄のようにはいかないらしい。


「ちょ、シェンフゥ!! あっつい!! 熱すぎよ!!」


 そして、そのモードの代償は、かなり過酷だった。

 己の相棒を仙狐・紅へと変化させた当のリサが、相棒の肉体の、あまりの熱さのせいでバテ始めたのだ。


「もうちょっとじゃ!! もうちょっとの辛抱じゃご主人!!」

 ご主人には申し訳ないと思いつつも……シェンフゥは勝負に集中しつつ、彼女を(はげ)ました。


 最初に配られた己の手札の合計は、14。

 あとは、新たに配られた……この最後のカードが7ならシェンフゥ達の勝利。


 ザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワザワザワザワザワ ザワ ザワザワ ザワザワザ ワザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワザワザワ ザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワ ザワザワザワザワザワ ザワザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワ ザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワザワ ザワ ザワザワ ザワザワザワ ザワ ザワザワザワ ザワザワザワザワ ザワザワ ザワ ザワザワ ザワ ザワ ザワザワザワ ザワザワザワザワザワザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワザワザワザワ ザワ ザワザワザワ ザワ ザワザワザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワザワ ザワ ザワザワ ザワ ザワザワ ザワ ザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ ザワ ザワ ザワザワ ザワ ザワザワ ザワザワ ザワザワザワ


 少しずつ少しずつ……カードを(しぼ)るごとに、心がざわつく。

 旧人類の時代にも経験した、ギャンブルの境地に達した者のみが感じられる胸のざわつきが久々にシェンフゥの中に湧き起こる。リサのおかげで、全身の血液が(ふっ)(とう)寸前であるにも拘わらず、不思議な事に、頭はどこまでもクリアだった。まるで頭……いや、魂だけ現実世界から(かい)()しているかのような不思議な感覚だ。普通の人の中には、この感覚に不快感を覚える者も……もちろんいるだろう。だがシェンフゥは、逆に()えて受け入れた。受け入れて……それを、リサとの背徳的な構図と合わせて己の中で快感に変え……ついに彼女は、手札の正体を(かん)()する!!


 ――これは……このカードはッ!!


 そして彼女は、ついにカードを表向きに変えた。


 果たしてそのカードは…………………………()()()()()()()()()()()()()()


     ※


「さぁて、勝った事じゃし……さっそく立ち入り禁止区域のガン○ラブースにでも行こうかのぅ♪」


 ティリアとのカードゲームで見事勝利したシェンフゥは、ルンルン気分で『立ち入り禁止区域活動許可証』なるカードを首から(ひも)でぶら下げ……立ち入り禁止区域へと足を向けながら言った。ちなみに服はキチンと着ている。


「ちょっとシェンフゥ!!」

 すると、首から同じカードをぶら下げたリサが、シェンフゥを注意する。無論、服はちゃんと着ている。


「私達が仕事で来たって事を、忘れてないでしょうね!?」


「わ、忘れてはおらんよ」


 シェンフゥは目を()らしながら言った。

 どっからどう見ても怪しい視線である。


「まったく。このアネオ・キバは立体的な迷路みたいな場所なんだから、いつ魔族を見つけられるか分からないどころか、魔族を倒した(あと)にちゃんと外界に戻れるかどうかも分からないっていうのに……これ以上時間を無駄にしないでよねッ?」


 こう言っては悪いが、ティリアとのカードゲームも……この世界で、現在進行形で起きている危機の事を考えれば、余計な寄り道だったのだ。これ以上時間を無駄にすれば、ほぼ不死身な代行者な上司に何を言われるか分かったモンじゃない。


「というワケで、寄り道せずにとっとと魔族を捜すわよ!」


「了解じゃ。でも……ちょっとばかしガ○プラブースを覗いても――」


「シェンフゥ!!!!」


 まぁ、とにかく。

 ツンデレなご主人と、ケモミミな従者による魔族討伐の旅は……()()()()()()()()()()()()()

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― 新着の感想 ―
[一言] ストリップブラックジャックとは、素晴らしいゲームですね。 逆逆バニーといい、天才の発想ですね。 そして全体の完成度。満足しますた。
[良い点]  ストリップブラックジャック(酷いゲームだ……)の勝負、面白かったです。シェンフゥやリサのキャラも立っていて、拝読中に何度も笑ってしまいました。 [一言]  逆逆バニーwww。ハレンチすぎ…
[一言] やはりアネオ・キバの世界観がいいですねえ! 怒涛のごとく押し寄せる小ネタの嵐も最高でした!ww
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