3.
「ねぇ!あのカーテンの柄きれいねぇ!高そ!」
「わっ!みんなドレスとか着てるのね!すごーい!」
「やっぱり中世あたりを参考にしてるのかしら……でも、どことなく日本に似てるのよね。面白ーい!」
アリアたち一同は唖然としたまま見守っている。アリアも残念ながら父に気絶を起こされ、死んだような顔で自分の行く末を哀れんでいる。
ヒロインたちは術式の上で未だきゃーきゃーと賑わっているようだ。
まずこの時点でおかしいのだ。本当ならヒロインは困惑している様子が描かれていた。文字での表記は無かったが、ここまで違うことはないだろう。
『神様の野郎、ヒロインの数も人格も間違えたのね!……このままじゃ私、悪役令嬢としての役目を果たせずに王妃に!?絶対嫌よ!面倒だわ!』
アリアは内心歯ぎしりだ。
もしもヒロインの誰かひとりでも髪が茶髪とか金髪とかだったら良かったのにと思う。だが、残念ながら黒髪だ。乙女ゲームでヒロインの設定は黒髪で固定されていた。三人の容姿もヒロインの初期設定にそっくりだ。
この瞬間、この世界にヒロインが三人生まれてしまったという訳である。
「えぇと……ごほん。君たちは異世界から来た者だね。僕はアラン・カカロット、ここ、カカロット王国の第一王子だよ。君たちの名前は?」
ついにアランが動き出した。とはいえ、たじたじだ。
『初期設定では、りん、だったけど……?』
多少の望みを込めてみる。が、
「りんです!」
「あんです!」
「らんです!」
すぐに望みは潰える。
それにしても、似たような響きの名前ばかりだ。もしかして、と思考を巡らす。
「もしかして、君たちは三つ子かい?」
「「「はい!よろしくお願いします♡♡♡」」」
「あ、あぁ。こちらこそよろしく頼むよ。別室でこれからのこと、説明するから移動しよう」
そうかそうかでは済まない。三つ子で転移とはどんな奇跡だ。
アランは案内するよう控えていた者に目配せする。護衛も兼ねているのだろう。重装備でヒロインたちを迎えにいく。
「よろしくお願いします。これより先は別室にな「「「嫌!!!私達は三人で一つなの!」」」
そうじゃなけりゃ、震えて縮こまってたわよ!と反論する。
なるほど、一人だったらシナリオ通りだったかもしれない。三人だからこんなにも騒がしいのか。
それに、ヒロインたちはこの世界のことを知っているらしい。シナリオの設定でこの世界のことを知っているとは記載していなかった。困惑がその大胆さを隠していたなら、早く言って!?とシナリオのヒロインに問い詰めたい。
「仕方あるまい。同室で広い部屋に案内しろ」
「はっ」
国王はヒロインたちの意見を飲んだようだ。
『できるなら穏便にいきたいものねー。確かにここで決裂したら貴族たちに面目もつかないし。……まぁ、この状況、貴族たちは困惑ばかりみたいだけど』
一人で勝手に納得する。あちらこちらでヒロインのことを「変わり者が来た」と言って話している人がいる。
もちろんこれはアリアにとっても同意見だと言わざるを得ない。きっとこれから大変だ。
『どーせ、私はヒロインのお友達として打診が来て、ニ週間後には出発とか無茶振り言われて、バタバタする羽目になるんでしょうねーーー』
「そ、そうそう、アリア。お前に異世界人の方々の話し相手の打診が来ている。打診といっても、お前は王妃候補だ。確定事項に近い」
「なるほど」
私の自慢の働きメイド、ユミルがひょっこり顔を出す。
「旦那様?いつ頃出発なのですか?そのお話は明日には決定を言い渡されると聞きましたが?」
「……二週間後だ」
「まあ!!!お嬢様?大変なことになりました!すぐに用意しなくては!」
「なるほど」
「それにしてもお嬢様!異世界人の方々とお話しできるなんて光栄ですわね!尊敬いたします!」
「なるほど。これ以上はやめてちょうだい」
ユミルに圧倒され、余計に先が憂鬱になった。
これはしょうがないから帰ってレモネードを飲もう。