表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SR満州戦記2  作者: 異不丸
第三章 八月一三日
16/33

二 代馬溝


牡丹江省楊梭県、四道嶺


 野戦重砲兵第二〇連隊第一大隊第二中隊の立川中尉は、九六式一五糎榴弾砲の射界を確認していた。四門めで、これで最後だ。小隊長の須々木見習士官に指示を与えると、汗を拭って東を見る。代馬溝の峠は黒、白、灰色の煙を盛んに上げていた。二十五キロも離れているというのに、遠雷のような音は途切れない。今朝はもっと大きく、空も赤く染まっていた。

 一昨日まで立川中尉はその向こう側、峠の入口を北から制する北林台に布陣していた。第一大隊は第一二四師団に分派されていて、開戦と同時に興隆屯の兵営を出て配置についていたのだ。穆陵は持久第二陣地にあたり、ソ軍が到達するには早くても一週間はかかるとされた。しかし、一〇日にはソ軍は下城子に到達した。

 一昨日は穆陵前面で決戦が予想され、第一大隊は五キロほど前進配置となった。だが、大隊が砲撃することはなかった。夕方になって、大隊は元の陣地に戻るように指示された。作戦方針が変わり一二四師は穆陵前面ではなく、代馬溝前面で決戦することに決したらしい。さらに、昨日の午前には分派が解除された。第一大隊は連隊に復帰し、四道嶺に布陣することになった。


 射撃指揮所に戻ると、連隊本部の岡本曹長がいた。立川を見ると、立ち上がって敬礼をする。

「どうした。まさか、首になったか」

「中隊長、暗号帳が更新されました」

 岡本は昨日まで第二中隊にいた。差し出された煙草を立川は咥える。

「ほう、気合が入っとるな」

「なにせ、背水の陣です」

 岡本は笑うと、マッチを擦った。

「後がないか。だが、上層部批判はいかんぞ」

 一服ふかすと、立川は大きく首を回して指揮所内を見渡す。全員が机に取り付いていて、つまり、耳はこちらを向いている。立川中尉は話を続けろと言ったのだ。


 岡本は立川の前に来た。

「連隊本部には軍司令部の参謀どのが張り付いています。作戦変更は軍命令であります」

「師団参謀が強硬に主張したと、もっぱらだったが」

「うちだけではありません、軍直の砲兵はすべて抽出されました」

 それまで第一二四師団には、第五軍直轄の兵力から一五榴八門、一五加二門、中迫二十四門と歩兵二個大隊が増援されていた。

「迫も引き揚げたか」

 岡本は言い足す。

「歩兵はさらに増援されました。石頭幹部教育隊から下士官候補者一個大隊一千名、経理幹部候補生一個大隊六百名で、指揮官は独立工兵第一八連隊から出ています」

「教育隊の兵隊に工兵隊の指揮官、つまり挺進攻撃だ」

 そこまで言って、立川は黙り込む。批判をするなと言ったのは自分だ。



 第一二四師団の師団砲兵は野砲と山砲の混成であり、連隊砲を合わせても員数は通常師団の半分しかなかった。だからこそ、自分らは分派されたのだ。しかし、兵員は定員を三割超える過充足だったから、一週間のうちに二度も増援されるのは異常なことだ。すなわち、国境会戦後の戦闘でも相当な損害を出している。

 立川には師団司令部の指揮が拙かったとは思えない。敵が多過ぎたのだ。第五軍の戦区に侵入したソ軍は合わせて七個軍団だというが、四個軍団が一二四師の担当戦域に集中していた。一二六師や一三五師が担当する東安省よりは、標高がある分だけ重湿地が少ないからだろう。綏芬河から哈爾浜への浜綏線は、帝政ロシアが建設した東清鉄道本線なのだ。

 立川は師団参謀を買っていた。大隊に歩兵小隊をつけてくれた。野戦重砲兵は、対戦車戦闘の時は陣を掘らずに剥き身でやる。直接照準の妨げになるので、遮蔽物はおかない。観測兵が前進配置されないから、戦車の突進や不意の横撃には弱い。澄田参謀は撤収までの時間を稼げるように尖兵を配置したのだ。


 野戦重砲兵は戦場での機動が身上である。設置、撤収、移動が野砲並の速度で出来るように、一分、一秒を縮める猛訓練をする。移動は六屯索引車を使うから自動貨車ほどの速度は出ない。しかし、最も時間を食うのは、三十キロもある砲弾の積み降ろしだった。弾薬手は装填だけで疲れているから、演習時はともかく、戦闘時には手伝ってやることになる。

 ところが四道嶺では、陣地築城は第三野戦築城隊がやってくれた。中隊ごとに長い壕が掘ってあった。所々に天蓋がついた二百メートル近い壕が九本である。作業中隊もいて、弾薬の降ろしを手伝ってくれた。上げ膳、下げ膳の待遇は、つまり理由がある。連隊は索引車を取り上げられた。すなわち、撤収も移動もない。戦闘終了までここから動けない。

 代馬溝の峠を越えた街道と鉄路は磨刀石の前を下って、四道嶺で北西に曲がる。十キロ先が牡丹江である。河の手前が軍司令部のある掖河で、河を渡ると牡丹江の市街である。まさに背水の陣だった。鉄橋はまだ落されていないが、戦況次第で、時間の問題だろう。坂を下りきった所に河を背にした布陣は、決して縁起がいいとは思えなかった。


 岡本曹長によると、軍直の砲兵は総掛かりで代馬溝を越えて来る敵を迎撃するようだ。

「射程の短い速射砲や中迫は磨刀石、長い一五榴や一五加は四道嶺です」

「峠を下る敵を叩くのだな。対空はどうなっている」

 立川は、この陣地で重機関銃も対空銃架も見ていない。岡本は首を傾げながら答える。

「移動式の連装重機関銃六両、高射砲三両が愛河駅付近に待機中のようです」

 今度は立川が首を傾げた。自走対空機関銃や自走高射砲は聞いたことがない。

「敵機は、旧式の複葉機しか見ておりません」

「そうだったな」

 中尉は笑って話を終えた。指揮所内の空気が穏やかになったのが感じられた。曹長は敬礼して出て行った。



 しばらくの間、立川中尉は地図を見つめた。また煙草を点ける。疑問があった。たしかに、峠を下ってくる敵は叩くことが出来るが、峠の向こうは無理だ。榴弾砲や中迫は山越え射撃が出来るが、今の布陣では射程が足りない。ソ連野砲の射程距離は十二キロで、四道嶺には届かないが、磨刀石なら射程内だ。敵が峠の向こうから射撃して来るなら、迎撃は成り立たない。

「中隊長、作業終わりました」

 唐突な声に振り向くと、須々木見習士官が敬礼していた。

「ご苦労、今行く」

 そう言って、立川は点けたばかりの煙草を踏み消す。待っているのは須々木小隊だけではない。作業中隊の兵隊たちも、立川が完了を宣言するまで撤収できない。足早に須々木の後を追う。

「動かしてみたか」

「はっ。小隊員だけで試しました。初弾装填まで二分間でありました!」

 須々木の声は弾んでいた。自信作なのだろう。


 九六式一五糎榴弾砲の砲身は長く、長距離射撃の仰角を取った場合、後座した砲尾があたらないように、地面を掘り下げる必要があった。だが、そのままでは、水平射で行なう対戦車戦闘時に事故が起こりかねない。また、それぞれ砲座の防御法も違った。反撃は我の砲身が向く方向からと考えて、入射角に応じて土嚢や土盛の厚さを変える。

 至近での対戦車水平射撃では、防御は特に考えない。敵戦車の動きに追随する支障になるからだ。ただ、砲座を低くして弾薬の置き場所に留意する。直撃はともかく、至近弾で誘爆・暴発しないように工夫する。その点で、須々木小隊には不備があった。壕を掘ってくれた野戦築城隊は、各部隊での改造・補強用に資材を残してくれた。浜綏線の鉄路から引き剥がした線路、枕木、砕石である。

 !

 自分の影が揺らいだような気がして、立川は峠の方に顔を向ける。白い噴煙が高く上がっていた。音は近く、甲高くなったようだ。前を行く須々木がゆっくりと振り返る。一陣の風が二人を包んだ。

「あれは、敵のロケット砲では」

「カチューシャと呼ぶらしい」






牡丹江省楊梭県、三軍山


 峠の東側には、轟音、閃光、爆発、震動、火炎、爆風のすべてがあった。自動二輪の発動機音も、側車の車輪が地面を叩く音も、その中ではかき消される。小銃や機関短銃の銃声も台風の中の猫の足音みたいなもので、つまり聞こえない。しかし、狙われる身にとっては、追ってくる機関銃の着弾音は聞き分けられた。第一二四師団の参謀を乗せた側車は、さっきから重機関銃の標的になっていた。

 運転手の谷口曹長は、右へ左へ転把を切って射線を外す。側車の澄田少佐は装備の一一年式軽機関銃を握り締めていた。反撃しようというのではない。振り落とされないようにしがみ付いているのだ。九七式側車は二輪駆動だから、不整地や登坂での走行能力は向上していた。といっても急勾配を真っ直ぐに上れるものではないし、それでは撃たれてしまう。

 つまり曹長は、右へ左へ蛇行しながら坂を上っていたのだ。側車は茂みの一つに突っ込む。思ったとおり、山稜の反対側に抜けられた。山陰を少し下ると、谷口は自動二輪を止めて様子を窺う。澄田も被った木枝を払い除けて降り立つ。二人は背伸びをし、膝と腰の屈伸も行なった。

「危なかったですな」

「まったくだ」

 澄田は双眼鏡を持って山稜に向かう。谷口は側車と装備の点検を始めた。


 第一二四師団は、代馬溝の前面に三段構えの陣を築いた。楊梭鉄橋から五キロに第一陣、その五キロ後方の北林台前縁に第二陣、さらに五キロ後方に第三陣である。各陣の間隔が五キロと至近に過ぎるのは、敵軍を迎え撃つ陣地ではなく、敵軍の進撃を阻止する阻害線だからだ。進撃を停止した時に南北の山間から砲撃と銃撃を行う。その混乱に乗じて挺進隊を突入させる。突入が成功するかは不明だが、師団長が決心した以上は全力を尽くすだけだ。

 澄田は、特に対戦車阻塞に念を入れた。チェコの針鼠というものがある。二本の型鋼を直角に交差させ、それらと直角に三本目を交差させる。単純な構造で工作も簡単だが、戦車の進撃を阻害するのには非常に有効だ。有刺鉄線や空堀と組み合わせると、敵歩兵の突進も制することが出来るし、味方の陣地ともなる。

 浜綏線の鉄路から剥がした線路や枕木で師団工兵隊が製作した。溶接棒や犬釘を使い切ると、逆茂木にした。それらの対戦車阻塞は対戦車壕と組み合わせ、地形に応じて配置した。どのように進撃しても、障害を除去するために停止する必要がある。工兵や歩兵と戦車、あるいは野砲が混在する時ができる。それが挺進隊突入の時機である。




 歩兵第二七三連隊第一大隊の高橋兵長は、三軍山の岩の上から下を覗いていた。一台の側車が小石頭河から駆け上がって来る。川沿いの湿地で上り坂でもあるのに速度が落ちない。二輪駆動の九七式だが、操縦手も手練れだ。大隊本部に背後から近づく間道を知っているのは、友軍に違いない。だが、念の為、九九式狙撃銃の狙撃眼鏡を側車に向ける。

 高橋兵長は、溜息をついて銃を下ろす。鉄帽に防塵眼鏡をつけていたのは参謀少佐だった。軍刀を両手に抱えて、正面を向いている。軍衣は相当に汚れているが、階級章と参謀飾緒ははっきりと見えた。師団参謀の澄田少佐だろう。今朝から二度も見かけている。大隊長の賀屋少佐とは陸士同期らしい。

 将校は狙撃兵に狙われるから、前線では軍衣や階級章を兵隊に合わせる。だが、日本軍で側車に乗れるのは憲兵か将校であり、どちらも狙撃兵の標的だから変装や偽装に意味はない。それはいい。高橋兵長が面白くないのは側車だ。軍司令官の四輪車でも運転手一人に三人は乗せられるのに、側車は運転手一人に乗客一人で大層な待遇だ。


 高橋兵長は岩の背後から先回りして、側車の前に出た。

「少佐殿、ここまで側車で来られては、重要施設があると気取られます」

「すまん、高橋兵長。だが火急なのだ。大隊長に案内してくれ」

 名指しされて要件まで告げられては、否はなかった。ふと見ると、運転手の谷口曹長が手のひらを上に向けて振っている。高橋は頷いた。

「失礼しました。こちらへどうぞ、澄田参謀どの」

「よろしく頼む」

 大隊本部は、急坂を五十メートル上がった先にあった。澄田は崩れ止めに置かれた丸太を慎重に踏みながら進む。



 大隊本部に入ると、大隊長の賀屋少佐が目を見張って言う。

「澄田、貴様も戦争していたんだな」

「何の冗談だ、賀屋」

「いや、失敬。焼かれたのか」

 言われて、澄田は自分の軍衣を確かめる。汚れに見えたのは煤だった。あちこちに焦げ跡がある。無事なのは階級章と参謀飾緒だけだ。

「ロケット砲の着弾に巻き込まれた。連隊本部に行った帰りだ。凄かった。物量とは偉大なものだな」

「今更、何を言うか」

「攻め込んできたのはソ連の方だぞ。俺が始めたんじゃない」

「そうだったな。すまん、すまん」


 賀屋は咥え煙草のまま、湯呑みを渡し、お神酒を注ぐ。

「飲め、空瓶を火炎瓶に使うんだ」

「おう」

 澄田は一気に空けると、大きく息をついた。

「カチューシャが恐るべき兵器だとはだいぶ前からだが、正体がわからなかった。ソ連第一級の軍事機密だが、自動貨車の上に鉄骨で組まれた無骨な兵器だ。何の機器も計器もないのだ」

「なぜかわかったのか」

「威力を知るのは弾着地にいるものだけで、必ず死ぬ。生きてその威力を語る者がいるはずもない」

「そうなのか」

 賀屋が注ぐと、澄田はまた一気に仰いだ。



「ソ軍のロケット砲は、一両のトラックに十六機の発射機がある。ロケット砲旅団は二キロの幅に二段構えで布陣する。二百十六両からなるから、三千四百五十六発だ。同じ二キロ幅に弾着した場合、一メートルの幅に一.七五発が落下する。ロケットは飛翔経路が安定しておらず、弾着は野砲以上にばらつくが、狙う範囲を狭めて、発射間隔を少し空けると改善される。二個旅団あるから、同じ範囲を狙ってもいい」

 澄田の話を聞きながら、賀屋も湯呑みを呷る。

「ロケット砲の真の威力は、ロケット弾自体の性能ではなく、弾着の数だ。独特の甲高い飛翔音を放ちながら、一メートルおきに一斉に落下して地響きを立てる。数十メートル、数百メートルの見渡す限りが同時に爆発し、火焔を上げる。逃げる先はない」

 湯呑みを置いた賀屋は、憮然とした顔だった。

「ドイツ軍の歴戦の下士官でも、その恐怖から逃れられなかった。その根源はどこにあったか。必要量以上の弾数をつぎ込む。過剰攻撃なのだ」


 話を終えた澄田は、自分で注いで呷ると、机に突っ伏した。それを見つめがら、煙草を咥えた賀屋が言う。

「つまり、精神攻撃なのだな。絶対に殺す、逃がしはしないという強い意志を、過剰な弾数で徹底するのだな」

 澄田が顔を上げた。

「海軍がはじめた特別攻撃は、やはり命中効率という概念に縛られていた。後を追った陸軍特別攻撃隊も同様だ」

 澄田の目が大きく開かれた。

「精神攻撃の目標が恐怖ならば、徹底しないとだめだ。驚異的な命中率、圧倒的な威力、過剰な数、そういうものでな」

 澄田は無言で頷いた。

「挺進攻撃も大規模にやるならば、精神攻撃の効果も出る。少なくとも大隊規模だ。貴様は二度とも止めたがな」



 口を開こうとした澄田だったが、咥え煙草の賀屋は続ける。

「一人二人で一両を仕留めてもそれだけだ。小隊でやっても十両は超えない。だが、一個大隊が車懸かりで掛かれば、最後の中隊か小隊は全員命中となる」

「散開できる幅が必要だ。突撃する戦域が得られない」

「南洋の戦訓だな」

「ガ島も沖縄も、知れる限りは調べた。俺は参謀だ」

「知ってるさ。しかし、戦域の問題は時間に転換できるだろう。すなわち、ひっきりなしの挺進攻撃続行だ」

「見合う戦果が得られない」

 だが、賀屋は負けていなかった。

「それは装備の問題だ。今ある黄色爆薬と破甲爆雷では、一人一両が最大戦果なのだ」

 澄田は、頭を傾げて考え込んだ。


「飲むか」

「くれ」

 注ぎながら賀屋は言う。

「戦車なら一人で戦車兵四人を殺せる。それを説けば、兵隊は死んでくれる」

「貴様が言いたいのは、兵隊一人で敵兵四人を殺せる兵器か。例えば、大型手榴弾とか対人爆雷か」

 ようやく、賀屋は笑みを浮かべた。

「それだと挺身だ。一度きりではなく反復攻撃できるものがいい」

「わかったぞ。両手で持てて、連続発射の出来る擲弾筒だ」

「よくできた、飲め」

 賀屋は大きく笑った。二人は乾杯する。



 澄田参謀は改訂された作戦を説明した。だが、賀屋大隊長は念を入れる。

「三軍山の死守は望むところだ。方法は任せてもらうぞ。中止命令は受けない」

「任せる。中止はない。くどいぞ」

「貴様のせいで二度も死に場所を失ったのだ。次は化けて出てやる」

「それは困る」

 代馬溝前面の第一陣はソ軍のロケット砲攻撃で消失した。弾着の火炎と高温で対戦車阻塞の線路は溶け、枕木は燃え尽きた。ソ軍は隊形を崩すことなく、火災が静まるのを待って進撃を続けた。第二陣には対戦車地雷や爆雷を仕掛けてあったが、これもロケット砲の着弾で誘爆してしまった。ソ軍は整然と進軍を続ける。しかし、進撃速度だけは落ちていた。

 その二度とも賀屋大隊は、始めていた挺進攻撃を中止させられ、撤退を命令された。命令を運んで来たのは、目の前の澄田少佐である。歩二七三の先鋒であった第一大隊は、二度の退却で連隊最後衛となり、遂に連隊本部全滅の報を後方で聞いた。第一大隊に生き残る術はない。


 用件と、今生の酒を終えた澄田少佐は立ち上がった。賀屋が差し出す手を握り返す。

「澄田、貴様は生き残れ」

「生き残ってどうするんだ」

「次の戦争の準備をしろ」

「それはいい。わかった」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ