終:そして現代へ
約5,200万年前、新生代・古第三紀・始新世。
隕石の落ちなかった異なる地球でも大量絶滅があり、もう新生代と呼んで良いだろう。
地球は急速に寒冷化し始めていた。
恐竜はまだ生き残っている。
だが、急激な気候変動によって、大型の種は絶滅していて、小型の種しか生き残っていない。
いや、もしかしたら「サジタリウス」の観測能力の著しい低下から、大型恐竜を観測出来なくなっただけかもしれない。
チャンプソサウルスという、恐竜でもワニでもオオトカゲでも無い爬虫類がいた。
隕石が落ちた我々の地球で、白亜紀末の大絶滅を生き延びた、数少ない大型生物である。
だが、隕石が落ちた我々の地球でも、この種は始新世に姿を消す。
理由は分からない。
チャンプソサウルスの仲間、淡水に住み、胎生のコリストデラ類と言われる爬虫類はこの時期に絶滅した。
南米の最後の陸上型高機動ワニも絶滅したようだ。
爬虫類が衰退している中、いよいよ哺乳類が姿を見せる。
しかし、異なる地球の哺乳類は、始新世になっているのに大型化していない。
その直前まで、巨大な恐竜と巨大化した鳥類とワニ類の世が長引き、急激な気温上昇後の極端な寒冷化で彼等が絶滅し、やっと出番を迎えたのかもしれない。
もっとも、小型の種ばかりだが、その種は我々の世界よりも豊富だ。
隕石衝突は当時の哺乳類も9割を絶滅させていた。
それらが絶滅せず、かつ大型化も出来ずに1千万年を過ごしたのが、異なる地球の始新世にあたる。
しかし、この地球にはまだ恐竜が生き残っている。
小型で省エネでタフな恐竜と、哺乳類とが、新たに形成され始めた森林において、今後どちらが先に大型化し、地球の覇権を握るのか。
最強の捕食者として、生き残りが確認された小型の、ヴェロキラプトルやディノニクスが属するドロマエオサウルス亜科の恐竜、小型だが高速そうな恐鳥類、イヌ科かネコ科の祖先らしき哺乳類、いずれが勝ち残るか?
この世界に、知恵持つ生物は現れるか?
それは裸のサルなのか、集団行動をする羽毛の生えた小型恐竜なのか。
この1,500万年後に南極大陸がオーストラリア大陸と完全に分離し、環南極海流が南極を低緯度から運ばれる熱から遮断し、無限に冷やし続けて起こる氷河期に、一体どれが生き残られるのか?
哺乳類の巨大化が約1,000万年遅れたこの世界で、人類は果たして発生しているのか?
残念だが「サジタリウス」にはもうそれらを記録する力は無かった。
海は著しく回復し始めていた。
大陸の配置が変わり、海流が変化した事で、白亜紀的海がかき回されてリフレッシュしたようだ。
高温期を迎えた頃、それまで海の覇者だったモササウルスたちが絶滅した。
原因は不明。
少数の首長竜も姿を消す。
胎生の彼等が生む子が育つ確率が低くなったのが理由かもしれない。
モササウルスや首長竜のいなくなった海に、空いたニッチに、どうやら哺乳類の一部が収まったようだ。
陸上とは違い、海では早くもクジラの祖先らしき哺乳類が大型化している。
ここまで観測データを残し、ついに衛星が落ちる日が来た。
落ちるまでに100万年の時間を有した。
衛星は、記録容量をいっぱいに使い、手足であり耳目であった探査機も全て使用不能となって以降も、姿勢制御と高度維持をエネルギーが続く限り行っていた。
だが、エネルギーは作れるが、制御装置の方が先に寿命を迎え、次第に高度を下げていく。
ついに彼は地上に墜ち、衝突して地上に大穴を穿った。
だが、そんな衝突であちこち破損させながらも、主要部分は生き残る。
そして休眠状態から、1年おきに思い出したように1回だけ救難信号を出したら、あとは蓄電しながら五千万年を地層に埋もれて眠り続けたのであった。
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「うーーーーむ、このデータが本物か、君たちが作った創作物なのか、俄かには信じがたい」
そういう声が聞こえて来る。
「これは本当に我々と同じ時間軸にあった地球の話なのか?
もっと別な世界じゃなかったのか?」
そういう疑問も出る。
「仮にこのデータが正しいとしても、『サジタリウス』は地球の全てを網羅した訳ではない。
もっと違う側面が有ったのではないか?
このデータだけだと一面的だよ」
否定に近い意見もある。
まあ、このデータは急いで纏めたものであり、さらに分かりやすいように一部だけを切り取ったものだ。
そりゃ、1500万年を千年1単位といっても、全部見るには相当に時間がかかる。
本当か嘘か分からないが、機械は確かに記録していた。
この時代の国際機関は、「サジタリウス」のデータを各国大学・研究機関に公開する事を決めた。
……隕石迎撃の軍事情報を抜いて。
軍人たちは、単機迎撃成功を喜んでいたが、計算以上に手こずった事実を認め、外宇宙からの脅威の認識を改めると共に、より大型かつより短時間での対応で、苦戦せずに迎撃出来るよう、システムのアップデートをはじめている。
恐竜が絶滅しなかった世界について、研究はきっとこれから進められるであろう。
(終)
以上です!
今、分かっている範囲で書きました。
当然、今後の新発見で色々変わると思いますが、そこはそれ
「アナザーアースの物語」と思ってくれれば幸いです。
これでSFの本編は終わりますが、この恐竜生き残りがいるというifを前提とした、人類と竜人共存の物語も何編か番外編で書いてみます。