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マーストリヒト期末期のとある1日

 約6,605万年前:中生代白亜紀マーストリヒト期


 平均気温約20℃

 酸素濃度 約22%、二酸化炭素濃度 約0.05%

 自転速度 23時間42分


 地表は乾燥していた。

 湿地が少なくなり、恐竜の宝庫北アメリカ大陸では、おそらくこのマーストリヒト期の前、カンパニア期には存在したとされる「西部内陸海路」は完全に干上がっていた。


「西部内陸海路があれば、北アメリカ大陸ではなく、西部をカンパニア大陸、東部をララミディア大陸って呼ぶんだけどね」

 と地質学者が説明する。


「思ったよりも気温が低いね」

 と言ったのは数値だけ見ている者で、学者は

「この時代、氷河が有りません。

 南極大陸は今の位置近くに在りますが、オーストラリア大陸陸続きで、低緯度地域から暖流が流れ込んでいました。

 つまり、平均的に全体が温暖って事になります。

 現在のように、高緯度地域が冷やされて極端に寒いという訳ではありません」

 そう補足する。


 一方で

「海水温が高いように思う」

「そりゃそうでしょうね。

 氷河が無いから冷却されない、その上低緯度付近を遮る大陸が無いから、赤道付近の海流は高緯度に運ばれて熱を発散する事もなく、そのまま高温で循環し続ける、その赤道暖流が通る所に浅いテチス海がある」

「テチス海?」

「インド大陸とユーラシア大陸が衝突する辺り、及びアフリカ大陸とユーラシア大陸が衝突する地中海の辺りです。

 この辺りの海底は、我々の時代は押し上げられてヒマラヤ山脈やアルプス山脈の上の方で見られます」


 1機の定点観測機(プローブ)が興味深いデータを送っていた。

「こいつは海に落ちて、海の様子を記録していますね。

 随分水中酸素濃度が低い。

 貧酸素水塊の中に落ちたようですね」


 高温の海水と、この時期にあった海底火山噴火で、度々植物プランクトンが死滅し、溶存酸素の乏しい水塊が出来ているようだ。

 もっと古い時期だと巨大だったそうだが、白亜紀末期も小規模ながらあちこちで発生している。

「噴火の規模は小さくなっていますが、オスミウムや水銀の濃度が今よりも高い。

 オスミウムは地球内部由来物質ですから、海底火山は相変わらず活発だったんでしょうね」

「サンゴ礁が減っています。

 これも火山活動のせいで、カルシウムとマグネシウムの比率が変わっています。

 そのせいでサンゴ礁が作れなくなったのです」

「そして、いよいよ海洋無酸素事変が起こるわけですな」


 恐竜は?

「衛星、ドローン、プローブの写真で、ごく一部の地域、ごく僅かな時間なので、これだけで判断するのは危険ですが」

 そう前置きされて再生される。


「これは北アメリカ大陸になります」

「草原になっているね。

 角竜が多く見える」


「ユーラシア大陸です」

「翼竜だらけだ」

「それはヨーロッパ地域ですね。

 この時期、ヨーロッパは小さな島が浅い海によって隔てられていましたから。

 島だと食糧が限られ、大きな恐竜は生まれません。

 しかし、空を飛ぶ場合はその限りではなく、島を渡り歩いて食糧を得る翼竜が、この地域最強の捕食者になります」

「なんでヨーロッパがそんな事に?」

「氷河がありませんから、海は広い、海進期になりますからね。

 元々岩盤はしっかりしていても、低地が多いヨーロッパは、海進だとそうなります」

「ヨーロッパ、結構山が多いと思うが」

「それはアフリカ大陸がもっと接近してからになります」


「こっちがアジア地域です」

「随分と多様な恐竜がいる。

 羽毛恐竜が随分と多い。

 こいつは草食型のティラノサウルス。

 絶滅の時期近くは多様性は失われた、と読んだ記憶があるが」

「化石として残しやすい、湿地やタールピットが減っています。

 それで化石が少ないからかと」

「どうして湿地が減ったのかね?」

「一時的に火山活動が低調になったからと考えられます。

 2,000万年前だと、インドが丁度マントル上昇地、ホットプルームの上に位置し、活発な火山活動をしていました。

 それによる温室効果もあったのでしょう。

 温暖で湿潤な気候になっていました。

 しかし、それが収束すると気温は下がりますし、湿地よりは草地になるでしょう。

 また、タールピットは火山活動と連動しますから」


「これはアフリカです」

「おお! ごつい恐竜だ! こいつは何だね?」

「それ、ワニです」


「南アメリカです」

「随分と多様な恐竜がいるなあ。

 このアルマジロのような……」

「ワニです」

「走ると速そうな……」

「ワニです」

「沿岸にクジラ?」

「ワニです」

「なんでワニばかり??」

「ヨーロッパ&北アメリカの旧ローラシア大陸と、アフリカ・南アフリカ・インド・オーストラリア・南極・マダガスカルといったゴンドワナ大陸では進化の様子も違いますよ。

 旧ゴンドワナはワニが強いのです」

「南米・アフリカブロックと、インド・オーストラリア・南極・マダガスカルブロックでもまた違いますね。

 もう絶滅しましたが、南極の方はワニではなく、巨大両生類だったとか」


「うーん、海は大分厳しいけど、陸の方は生物が大分多様性に富んでいるねえ。

 特に複数の大陸で見ると、特徴的だね」

「では、この楽園がどうなるか、時間を進めてみます」


そして運命の日の出来事を再生する。

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