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その時、衛星はどのように動いたか

 衛星は、見知らぬ地球に来た時に大混乱をしていた。

 飛行記録(フライトレコーダ)にそれが如実に現れている。

 地上の管制センター、登録のある民間や大学の通信装置、更には僚機に対し位置確認の問い合わせ(ピング)をしている。

 しかし、どこからも応答レスポンスは無い。

 次に衛星は、自分が公転する惑星の測地を始める。

 自分の持っている地図と照合し、どの軌道をどの高度で公転しているかを確認する。

 だがこれも無意味だった。

 彼が飛んだ世界の地図は、現在とは似ているが異なる。

 インドは大陸であり、南北アメリカは繋がってなく、ヨーロッパとアフリカも接していない。

 3番目に衛星は、恒星と他の惑星を観測した。

 これはほとんど変わっていなかったようで、衛星のシステムはやっと安心したようで、記録量がここから急激に減少する。

 確かに太陽系の中の、地球に居るという事が判った。


 衛星は、そこから分析を始める。

 月を観測し、人類が設置した測量用の反射板消滅を確認する。

 さらに月の見かけの大きさから、自分がいた時代より内側に在る事を確認する。

 星座の形は大分違うし、場所もズレている事を認識する。

 北極星は、こぐま座のα星(ポラリス)では無い。

 オリオン座はベテルギウス(年齢約1,000万歳)もリゲル(年齢約800万歳)も存在していない。

 だが、もっと遠くの大小マゼラン銀河やアンドロメダ銀河は、大体計算の範囲内に見えた。


 ここで衛星は、自分が違う時間に飛んだ事を理解した、という人間の判断と近い処理を行う。

 記録時間から西暦表示が無くなった。

 西暦で記録する意味が無いと判断し、自分が持っている時計での経過時間でのみ記録を始めていた。

 そして、彼は孤独である事も機械的に判断した。

 衛星「サジタリウス」の任務は地球の外敵脅威からの防衛。

 多数の衛星で連携が出来るならともかく、単機のみであるならば、単機で死角無く地球を防衛するモードに入る。

 これは事故等で、自分以外の11機が失われる事も想定して、予め彼等防空衛星にプログラムされている。

 高度を下げて公転速度を上げる事で、短時間で地球周囲を見渡せるようにする。

 公転軌道の角度を変えて、高緯度地域まで観測可能にする。

 そして、燃料やメモリの浪費を避ける為、防空以外の機能は休眠(スリープ)モードとし、地球の観測やそこに居る生物の記録は、千年に一度、約1日分だけになった。

 それでも莫大な記録情報が残されていたのだが。




 改めて人間が記録情報を解析し、衛星がパニックに陥っていた時の大量の情報を整理すると、機械では理解出来ない事を直感的に正解出来た。

 これは現在や未来の地球ではなく、約6,600万年前、白亜紀の地球である、と。

 どうしてそこに行ったのか、論理的な説明は出来ないが、撮影データを再現して地球を地図にすると、見る人が見ると「これがアフリカ大陸、これがインド大陸」と判るのだ。

 天文データもそれを補強する。

 月の遠ざかる速度と見かけの半径から、大体どれくらい前の月なのかが分析出来る。

 北極星は歳差運動で度々交代する。

 恒星には寿命があり、ベテルギウス等は当時まだ生まれていない。

 代わりに知らない赤色巨星があるが、それらは人類が誕生する頃には白色矮星になったか、超新星爆発を起こしたか。


 分かってしまえば、衛星の休眠(スリープ)モードは残念である。

 白亜紀の地球を記録する、まず滅多には有り得ない機会だったのだ。

 だが、リアルタイムで記録をし続けると、如何に強力な記録装置(メモリ)もパンクする。

 圧縮記録(アーカイブ)にしても限度はある。

 定置観測をする着陸探査機(プローブ)も、移動観測する再利用型飛行観測機(ドローン)も、使用回数、使用時間には限度がある。

 そう考えると、千年に一日の記録もデータとしては多い方だった。


「分かっていたなら、もっと色々な観測装置をつけたのに……」

 誰かがそう言ったが、それは出来ない相談だ。

 「サジタリウス」はあくまでも宇宙からの脅威から地球を守る衛星であって、観測機能は任務遂行用の補助機能に過ぎず、異常事態記録エマージェンシーレコードは万が一の機能である。

 それに、異常事態とは地球の異変、地球の生物が為す異変、人類がやらかす異変程度のもので、まさかタイムスリップするとは誰も考えられなかった。

 考えて、それを想定した機能を組み込んでいたなら、その者は「仕様書に書いていない事を勝手にした」として罰則ものだろう。

 大体、そんな事を想定した仕様書が通る訳もない。




 約6,606万年前の宇宙の様子も知りたくはあるが、休眠(スリープ)モードに入った「サジタリウス」は恒星測位をもう行っていない。

 ただ重力計や地球観測カメラで高度を計測し、公転軌道を確認して、定期的に位置修正をしていただけだ。

 記録の主なものは、地球の様子である。

 「仮に人類が絶滅した場合、外宇宙に脱出して生き残ったヒトなり、ヒト絶滅後に新しく出来る文明の担い手の生命なりに、過去に何が起きたのかを知らせる」機能が、おかしな事に人類誕生以前に地球を支配した動物たちの様子を記録し、人類に伝えているのだ。


「もう少し先を見よう!

 この『サジタリウス』なら、単独で恐竜を絶滅させた隕石を迎撃出来る。

 だから、隕石が原因で恐竜が絶滅したのか、他の要因かも見られる!」

「いや、迎撃が確実なら、恐竜が絶滅しなかった地球(アナザーアース)はどんなものか、見る事が出来る!」

 研究者たちは喜び、軍事の担当者たちは呆れを通り越し、もうどうでもよくなっている。


 操作員(オペレータ)は記録を再生する。

 まずは白亜紀最末期、マーストリヒト期と呼ばれる地球の様子が再生された。

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