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序:最強の防空システムが消えた日

 西暦で言うと23世紀になる。

 地球はホモ・サピエンス、つまり「ヒト」がいまだのさばっていた。

 彼等ヒトは、かつて多くの生物を絶滅に追い込んだ天変地異を恐れ、その対策に衛星軌道上に自動要塞を設置して対応する。

 20世紀に日本という国発祥で、世界に流行った漫画から、最強の「十二宮(ゾディアック)」の守護神に例えられた衛星群。

 衛星は約500メートルの球体で、内部に宇宙創世(ビッグバン)にヒントを得た、真空から無限に近いエネルギーを取り出すエンジンと自動で最適のミサイルを生産する設備を搭載している。

 その膨大なエネルギーは、単体で直径数kmサイズの隕石の軌道を衝突(コリジョン)コースから排除出来る。

 仮にそれ以上の隕石、直径1,000km級が来たとしても、12機の衛星が連携して攻撃を使えば破壊可能だ。

 また、ガンマ線バーストと呼ばれる破壊のエネルギーを、先行して届くニュートリノによって検知すると、やはり12機で照射方向に強力なバリアを張って防ぐ。

 太陽フレアに対しても同様である。

 天からの攻撃に対し、鉄壁の盾なのだ。


 この自動要塞は、地球由来の天変地異について予測するシステムも兼ねている。

 気候、火山活動、大気組成、地殻の運動量をつぶさに観測し、記録する。

 地震や津波、火山という大地からの攻撃には無力であるが、先行してヒトに何が起こるかを知らせる能力を持つ。

 その巨体の中に、観測用プローブやドローンを多数搭載し、使い切るまで観測可能だ。

 この記録装置は、約1,500万年分を記録可能である。


 無限に近いエネルギーを取り出すエンジンといい、記録装置といい、この自動要塞は仮にヒトが絶滅しても動き続ける。

 もしかして外宇宙に脱出して生き残ったヒトなり、ヒト絶滅後に新しく出来る文明の担い手の生命なりに、過去に何が起きたのかを知らせる記録媒体(メモリー)でもあるのだ。

 ……それを解析出来たなら、の話だが。


 この人類の知能を集めた最強の自動要塞の9個目、「射手座(サジタリウス)」と名付けられた衛星が、突如消息を絶った。

 故障とか墜落では無い、忽然と姿を消したのである。

 運用を担当していた部局が、市民の猛烈な批判を浴びたのは言うまでも無い。


 その要塞が、喪失から3ヶ月後に突如発見された。

 約5,100万年前、古第三系始新統と呼ばれる地層からである。

 この発見も不思議なものであった。

 衛星は周囲との通信が切れると、最初は全力で通信を回復しようとするが、自身が孤立した状態になったと判断したならば休眠(スリープ)モードに入る。

 そして1年に1度、強力な信号(サイン)を発し、自身の居場所を知らせる。

 それを繰り返すのだが、その信号(サイン)が突然キャッチされたのだ。

 しかも有り得ない、岩盤の内側から。

 消息を絶って1年後でなければ発信されない信号(サイン)がわずか3ヶ月で出たのも不思議だが、掘り出した衛星の状態もまた不思議である。

 軌道を維持する推進剤を完全に使い果たしている。

 墜落はそれが原因だろう。

 墜落の衝撃と、長い間岩盤の凄まじい圧力に潰されかけていて、さしもの頑丈な自動要塞も内部はガタガタであった。

 休眠状態の機能が、信号回復により再起動する。

 その時計を見て調査員は驚いた。

 既に5,100万年と少し時間が経った、そう記録されている。


 全く意味不明の状態で発掘された衛星は、事故調査委員会に送られ、解析が為された。

 いずれにせよ、「発見された事」と「破損状態が酷い」事が確認された為、天空の十二宮(ゾディアック)には別な機体、予備機として持っていた「蛇遣座(オピュクス)」が投入される事になった。


 解析に回された「射手座(サジタリウス)」は、調査員を驚かせるデータを大量に保存していた。

 その量、1,500万年分。

 破損して飛んでしまったデータもあるが、飛行記録装置(フライトレコーダー)地球観測装置(アースセンシングシステム)戦闘記録装置(ファイアコントロールシステム)からデータを読み込んで、そのとんでもない記録から調査委員会だけでは判断が出来ず、多くの大学や研究機関にデータを密かに渡して分析をしていく。

 結果報告書は5年かかって纏められた。




 報告書を読んだ人間は、誰しもが呆れた。

 何故なら「衛星はタイムスリップをして消息を絶った」等と記述されているのだから。

 そして原因について「未知の重力波を観測している他、磁気異常も検知、それ以外は不明」等とふざけた事を書いている。

 原因を詳しく調べるのが調査委員会の主な仕事であろうに!


 しかし、付属しているデータを眺めていく内に、この衛星が辿った数奇な物語は、調査委員会の作り話では無いという事が分かって来る。

 「射手座(サジタリウス)」は約6,606万年前の地球にタイムスリップした。

 そして、本来メキシコ、ユカタン半島沖に落ちる筈のチチュルブ隕石を迎撃したのだ。

 それはヒトが今生きている地球とは別の地球(アナザー・アース)への分岐点を作り出した。

 孤独に異地球(アナザー・アース)の周囲を1,500万年に渡って周回しながら、その作られた機能に忠実に、地表や大気を観測し、莫大な記録装置に貯め続けたのである。

 そして、何故かは分からないが、消えた時と同じ時間軸の地球の方に墜落したというのだ。


 これは、調査委員会が纏めた記録を元にした、「約6,605万年前に巨大隕石が落ちなかった地球」の観測記録である。

三連休用にSF短編を書いてみました。

1日2話更新で、22日には終了します。

18時と22時に更新します。


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― 新着の感想 ―
[一言] ガオガイガーでも超竜神がその時代に飛んじまって そのときに押し返してた隕石が実は恐竜を絶滅に追い込む寒冷化の きっかけになった隕石だったということがあったな。
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