悪魔のような看護師の話
ねぇ、ちょっと聞いてくださいまし
わたしはねぇ、この病院に長いことお世話になってるんですよ
ええ、ええ、それはもう、足向けて寝られないぐらいにね
えっ?もちろん例えですよ、た、と、え!
ほら、病室で寝たきりですもの
どう向いたって足はね、病院のどっかにむいちゃいますよ
まっ!それはね、どうでも良いお話です
わたしがね、今日言いたいのはこの病院の看護師さんについてなんですよ
ここの看護師さんは大体みんな良い子ですわ
真面目で、働き者で、優しい
ほんと! 天使のような娘さんばかりですよ
特にね、最近入った、えっと、なんていったかしら……そう、そう みゆきちゃん!
あの子なんて初々しくて
新人さんだから慣れてないでしょ
だからちょっとしたことでもびっくりしたり、おとおどするのがちょっと頼りないんだけど、それが逆に可愛いから、思わずかまってしまうのよね……
だけど、そう、一人だけとんでもないのがいるの!
もう、それこそ悪魔みたいな看護師がね!!
名前は確か、朱美とかいったかしらね
目がね、キューーっとつり上がってて、そりゃあ底意地が悪そうなのよ
この間なんて、ナースコールしたらね
ナースコールしてくんな!
忙しいんだ
死んでしまえ!
って、酷いこと言われたわ
あんな悪魔みたいなのが看護師なんて世も末ね
いいわ、わたしは、優しくて可愛い、みゆきちゃんとお話をするから……
□□□
「先輩、先輩。
また、あの部屋からナースコールです!
わたし、もう嫌です」
みゆきの悲鳴に朱美は書きかけの書類から目をあげた。時計を見ると深夜の2時を少し回る位だった。
朱美はため息をつくと立ち上がり、ガタガタと震えているみゆきの方へ歩いていった。
やや乱暴にみゆきを押し退けると、ナースコールの部屋番号を確認する。
例の病室だった。
朱美は一度息を吸い込むと、インターカムに向かって大声で叫んだ。
「うるさい!
私たちは生きてる人しか面倒見れないの!
分かる?
分かったらナースコールなんてしてこないで成仏してください。
大体、うちのみゆきが夜勤の時ばっかりナースコールしてきて、ふ、ざ、け、ん、な!!
みゆきが辞めたらあんたのせいだからね。
そんなことになったら責任とってもらうから、覚悟しな!」
朱美は、パネルをぶっ叩いてナースコールを切った。
ふぅ、とため息をつくと朱美はみゆきに見つめられているのに気がついた。
「なに?」
「え?!
いえ、朱美先輩強い。恋してしまいそうです」
「あっ……?
なに、バカなこといってんの」
朱美はふん、と鼻を鳴らすとナースステーションを出ていこうとする。みゆきがそれを見て慌てた。
「ちょっと、先輩どこ行くつもりですか?」
「どこって見回りの時間よ」
「ダ、ダメですよ。わたしを一人にしないでください。まだ、怖いんですって」
「もう、ビビりやな。じゃあ、一緒に見回る?」
「はい!
もう、一生ついていきますから!」
みゆきは満面の笑顔でそう言った。
2019/09/12 初稿