幸せになったはずの私。
短(前編)の君視点です。
そちらを読んでいただけると多少は読みやすいかと思われます。
私は人形になってしまった。
あなたは毎日、私の家に通ってくれる。そんなに泣かないで。悲しまないで。
動けず、声もかけることができないのが、とてももどかしい。
どれだけ時がたっただろう。あなたはここへ来なくなった。きっと新しい幸せを見つけたのだろう。喜ばしいことなのに、悲しい気持ちの自分がいる。
何年も何年も孤独が続いた。
ある日、優しそうな顔をした男が来た。
彼は、旅をしながら商人をしているらしい。人形の私に、色んな国の話をしてくれた。久しぶりにとても楽しい時間が過ぎた。
1週間ほど彼は街にいたが、また旅に出るらしい。また独りになるのは残念だが仕方ない。
また時がすぎた。ドアを壊すような音と共に、旅に出た彼が慌てて入ってきた。彼は、人間に戻ることが出来る薬を探してきてくれたのだ。
人間に戻った私は、微かな希望とともにあなたの家に行った。そこには、綺麗な女の人と談笑しているあなたがいた。
分かっていたはずなのに、涙が止まらなかった。そんな私を、彼は優しく抱きしめてくれた。
そして、私はやっと幸せになれた。
ある日、家族で買い物に行くとあなたがいた。嬉しそうな、今にも泣きそうな顔で私の子供を見ている。
鳥肌がたった。今更来たところでなんだというのだ。私が人形になっているとき泣くことしかしなかったくせに。別の女と幸せになったくせに。
嫌悪感で吐き気がする。
すぐに娘の名前を呼び、家に帰ろうとした。
あなたが私を見た時の顔が忘れられない。
そう、私が独りだった時と同じだけの苦痛をこれからじっくり味わうといい。
「ざまあみろ」
口元は笑ってるはずなのに、何故か頬には涙が流れた。