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84.Bランクに呼ばれたSランク

 これからは密談が増えるからと思って、昨夜からは離れの一軒家を貸し切るタイプの宿に移った。

 その宿には広い庭があって、朝、起き出した俺は庭に佇んでいた。


 朝日が緩やかに昇り、朝露が樹木から滴り落ちる。

 その樹木は風に吹かれて、一枚の落ち葉がヒラヒラと舞い落ちてきた。


 それが目の前に落ちてくると、俺は手を上げて、ドアをノックするように中指の第二関節で叩いた。


 ポフッ!


 小気味よい音がして、落ち葉が空中で粉々に砕け散った。


 文字通りの粉々だ、水分を含んでいるはずの落ち葉が、まるで枯れ葉のように粉々に吹っ飛ぶ。


「す、凄い……」


 背後から、ゾーイの声が聞こえてきた。

 外から戻ってきた彼女は、俺がしたことを見ていたのか、目を剥いて驚嘆していた。


「今の……ご主人様の力ですか?」

「ああ」

「そうなのですか……あれ?」

「どうした」


 俺が聞き返すも、ゾーイは答えずに、逆に独り言のように呟いた。


「レヴィアタン様、バハムート様、ベヘモト様、フワワ様、アポピス様、ジズ様……」


 数え上げるような呟きは、俺が持っている強力な魔道具らの名前だ。

 それを一通り呟いたゾーイはしかし、ますます不可解に思う表情をした。


「今のは、どなたのお力ですか?」

「ああ、そういうことか。お前はずっと俺の側に居たから、全員の力をある程度把握しているんだったな」

「はい」

「お前が疑問に思った通り、今のはどれの力でもない」

「え?」

「俺自身の力だ」


 ここへ塩税の事を調べに来たついでにゾーイを育てようと思っている。

 そんな風に思っている俺が、まったく成長しないのでは話にならん。


 今のステータスと、今までの経験を総合して。

 何が出来るのかを一晩考えた結果、今の攻撃に繋がった。


 力任せに攻撃を振り抜く(、、、、)事はたやすい。

 だが、手を叩くのも、ただ打ち付けるより、一瞬のインパクトに注力した方がいい音がすることから着想を得て、面――いや点に集中する打撃を試した。


 その結果、空中でひらひらと舞う落ち葉を粉々にする技が出来上がった。


「ご自分でも……やっぱりご主人様って凄い……」

「それよりも、連中と話してきたのか?」

「え? ええ……」


 ゾーイはそう言い、不安気に周りをチラチラと見た。


「安心しろ、ジズの力で周りの風を操っている」

「風を?」

「言葉を伝達するのは空気だ。風を操って、音が外に漏れないようにした。屋内なら壁伝いでも伝わるが、庭なら大丈夫だ」

「なるほど。では陛下(、、)にご報告致します」

「うむ」

「もらった3000リィーンをケイトの買収に使った事を話したら、向こうは大層驚いていました。それで追加の金品を要求したら、渡してくれました」

「どれくらいだ?」

「え?」

「額はどれくらいだ?」

「同額の、3000リィーンです」

「……ふっ、そうか」


 俺が微かに笑うと、ゾーイは不思議そうに首を傾げた。


「何かあるのですか陛下?」

「余が、もしゾーイのような人間が来たら、最低でも倍、いや十倍は払う。奇貨居くべしの典型例だ」

「なるほど……?」

「それを同額なのがおかしく思えたのだ」

「えっと……つまり?」


 今一つピンと来ないゾーイに、俺は再び微笑んで。


「そういう金の使い方をする人間が来たのに、同額しか出さない。せいぜいがBランク――地の利を得てもAランク程度の人間だって事だ。馬鹿でもないが、取り立てて凄くもない」


 ステータスと、「+」になぞらえて説明すると。


「なるほど! そうかも知れません」


 ゾーイは合点顔で頷いた。


「ん?」

「陛下の反応を伝えた後。向こうはこのまま行くか、やり方を変えるかで意見が分かれておりました。私でも分かります、良くない迷いが出てました」

「なるほど」

「それと、陛下が好む物を聞いてきました」

「余が好む物か。なんと答えた?」

「人間――特に才能のある女が好み、と」

「そうか」


 ほぼ百点満点の答えだ。


 嘘は言っていない、俺が今までやってきた事を考えればその答え方は充分に真実だ。


 しかし、局限的でもある。


「よくやった、ゾーイ」

「ありがとうございます!!」


 ゾーイは嬉しそうに破顔した。


「となると、エヴリンさんのような人を送ってくるでしょうか」


 才能のある女。

 ゾーイからすれば、それは先輩メイドでもあり、今や総督まで登りつめた、十三親王邸家人の出世頭のエヴリンを連想するだろう。


 だが。


「それは高く評価しすぎだ」

「そうですか?」

「Bランクの人間なら、その情報で送り込んでくるのはせいぜいが芸事に長けた娼婦か、体を売らない芸妓といったところだろう」

「はあ……なるほど……」


 今ひとつピンと来ない様子のゾーイ。

 まあ、そのうち分かるだろう。


「さて、向こうの出方も分かったし。今日は出かけて調べる振りをしつつ、向こうのコンタクトを待とう。何かしら『才能のある女』を余と接近させようとするのは間違いないだろうからな」

「はい! ご用意します!」


 ゾーイは頷き、宿の中に駆け込んで、出かける準備をした。


     ☆


 街に出ると、今日も不景気(、、、、、、)だった。


 馬車であれば、六台が同時に横並び出来る大通り(六車線)だが、それに似つかわしくないほど、街に活気がなく、物もほとんどない。


 ゾーイが聞いてきた通り、やり過ぎともいえる不景気の装いをそのまま続けるようだ。


 まったく、どれだけの金を握ってるんだか。


 この分じゃ、「この街で出来ない事はない」と向こうが豪語してもおかしくないな。

 それだけの状況を作り出してるのだ。


「ご主人様……これって……普段とは違う生活を強いられてる、って事ですよね」

「そういうことだな」

「みんな、それに従っているなんて……いまでもちょっと信じられません」

「ギルド、もしくは組合の力が強いのだろうな。まあ、金はあるのだ、当たり前でもある」

「そうなのですか?」

「ああ。親王達が持っている『別宅』の事を知っているな?」

「え? えっと……私達でいう『村』の事ですか?」

「それは半分正しくないな」


 俺はふふ、と笑った。


「あくまで『別宅』だ、都から離れたところにある。ただ、それが大抵は村や街と同じ規模だってだけの話だ」

「あっ、はい」


 上皇陛下をはじめ、皇族は別荘や別宅という名の、街や村を持っている事が多い。


 その別荘にすむ数千人が、そのまま皇族の下僕なのだ。


「その別荘では、主たる皇族が黒と言えば黒、日は西から上るといえばその通りになる。別荘に査察が入れば、その期間中だけ色々自粛しろ、と命じる皇族もいるだろう? それと同じだ、規模がエグいくらい大きいだけのことだ」

「なるほど……」


 ゾーイはゴクリ、と唾を飲んで、周りを見回した。

 規模が「ちょっと大きい」レベルの話ではないが、たとえ話で理解して、それで塩商人達の持つ力を少しずつ体感出来てきたみたいだ。


「む?」

「どうしたのですかご主人様」

「あそこ、やけに『景気』が良いな」


 俺は大通りの先を指さした。


 俺の目をごまかすために、わざと不景気の虚像を作り出した街中だが、その一角だけ、街に入った夜と同じくらいの賑わいと活気があった。


 ゾーイを引き連れて近づいていくと、街の人間の会話が聞こえてきた。


「あそこの店に、都からすっごい歌姫がきたんだぜ」

「都からの歌姫?」

「そう、俺もう聴いてきたけど、凄かったぜあの歌は。一生耳に残る歌だ」

「そんなに凄いのか?」


 こっちを気にしながらの、通行人の会話を聞いて、俺はゾーイと視線を交わした。


 これだな。と頷き合って、聞こえてきた会話の断片から、その歌姫とやらがいる店に向かって行く。


「さすがご主人様、読み通りです!」


 俺の予想がぴったり当ったことに、ゾーイは大いに興奮した。

 その直後に、彼女は――いや俺も驚かされることになる。


 店の表までやってきた俺達の耳に入ってきたのは、聞き覚えのある歌声。


「これって……アリーチェさん……?」


 店の中から微かに聞こえてくる歌声は、間違いなくアリーチェの物だった。

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●感謝御礼

「GA FES 2025」にて本作『貴族転生、恵まれた生まれから最強の力を得る』のアニメ化が発表されました。

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なろう時代から強く応援してくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
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