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41/211

41.人は宝

 夜、リビングでレヴィアタン、ルティーヤー、フワワ、ベヘモトの四体を、鎧の指輪とリンクさせて、模擬戦をさせていた。

 模擬戦の強さはやはりレヴィアタンが最強、ルティーヤーとベヘモトはあまり変わらなくて、少し離れてフワワ、って順だ。


 何回かやって、そろそろ、レベルが上がるかな、と思っていたところに、ドアがノックされて、接客メイドのセシリーが入ってきた。


「夜分遅くすみません。ご主人様にお会いしたいという女性が」

「女性? 名前は?」

「オリビア・コイルと名乗っております」

「オリビア・コイル」


 セシリーから告げられた名前を舌の上で転がす。

 聞き覚えのない名前だ、そんな名前の女性と会ったことはない。


 が、この夜更けに訪ねてきたのは気になる。

 どうでもいい人間なら、エヴリンが育てて、俺が接客に抜擢したセシリーが門前払いにしているはずだ。


 この時間でも俺に聞いてきたって事は、相応の身分の人間に見えたって事だろう。


「よし、通せ」

「はい」


 セシリーが出ていって、しばらくして一人の女性が入ってきた。

 歳は二十の半ばと言ったところか、目を惹く、かなりの美人だ。


 オリビア・コイルは俺の前に立ち、女性の作法に則って一礼した。


「オリビアと言ったか、こんな時間に何の用だ」

「密告です」

「……」


 俺は平然を装った。

 密告。

 その言葉を聞いた瞬間、ものすごく悪い予感と想像が頭をよぎっていったからだ。


 それを表に出さないようにして、聞き返す。


「なんの密告だ」

「皇太子アルバートが、今夜にも政変を起こし、陛下に譲位を迫ろうとしています」

「――っ!」


 さすがに平然とはしていられなかった。

 結局……来たか。


 いや待て、まだ本当と決まったわけじゃない。


 俺はオリビアを睨むようにして、聞き返した。


「なぜお前がその事を知っている」

「私はギルバート殿下の家人、コイルの娘です」

「執事のコイル!」


 思い出した。

 長年ギルバートの屋敷で執事をしていたコイル、屋敷に行くたびに会っている。

 そのコイルの娘――


「家人生まれか」

「はい」


 オリビアは頷いた。


 家人生まれ。その言葉通り、家人――つまり親王の使用人同士から生まれた子供だ。


 主君が部下の婚姻を斡旋することは決して珍しくない、そして結束を強めるためにも、家人同士を結婚させることはよくある。

 家人同士が結婚し、それで産まれた子供は生まれながらにして家人であるため、環境的に皇族に絶対的な忠誠を誓いやすい。

 それが当たり前の環境で生まれ育ったからだ。


「話は存じております。十三殿下がなんとかギルバート様を生かそうとして下さったと。なのに、アルバートはそれを――」


 オリビアはそこまで言って、下唇をかんだ。

 血が滲むほど強く噛み締めている。


 報告は受けていないが、おそらくコイルはその時に……と分かった。


「私は復讐を誓いました、幸いにして、皇太子は私を見初めたので、体で取り入りました」

「女の武器だな」

「はい。まだ私に飽きていないので、最近は特に回数(、、)が多く、私だけです。そこで耳にしました」


 オリビアは息を深く吸い込んで、更に真剣になった顔つきで言い放つ。


「まだ廃嫡は正式に出ていないけど、そうなってからでは遅い。今でも皇太子の権力を使えば、宮殿を押さえられる程度の兵は動かせる」

「陛下をどうするつもりだ?」

「退位を迫り、上皇になっていただく、と」

「……ふう」


 まったく、アルバートめ。

 あの宦官が「秘密裏」に処理された事で分かるべきだ。


 陛下は事を荒立てたくない、陛下はお前を生かしたいという恩情だって。

 それなのに政変を企てるとか……。


「お願いします!」


 オリビアは両手両膝をつく、俺に土下座した。


「何でもします! 私にできることなら何でもします。この体、この命! どう使って頂いても構いません。どうか! 皇太子――アルバートの首を!」

「……わかった」


 俺はため息一つついて、オリビアをそっと起こした。


「なんでもはいい。お前はギルバートの所では何をしていた」

「父の元で、執事の見習いを」

「ここでもそうしろ、給料も同じくらい出す」

「な、なぜそんな好待遇を……」

「お前は主の仇討ちをしようとした、主が死んでも尽くすという忠誠心を買ったまでだ」

「……なんというお方」


 オリビアは感激した目で俺を見た。


 同時に、いつも視界の隅っこにあるステータスに変化が起きた。


――――――――――――

名前:ノア・アララート

法務親王大臣

性別:男

レベル:3/∞


HP E+F 火 F+B

MP F+F 水 E+S

力  E+E 風 F+F

体力 F+F 地 F+F

知性 F+E 光 F+C

精神 F+F 闇 F+F

速さ F+F

器用 F+F

運  F+F

―――――――――――


 闇に「+」がついた。

 オリビアが俺に臣従、心服した証だ。


     ☆


 屋敷を出て、オリビアを連れて、都の東にある兵務省に向かった。

 兵務省の横に兵舎があって、そこには常に1000人の兵士が常駐している。


 常駐という性質上、指揮権を持った上官の命令には何も考えずに従う、という風に教育されている。


 廃嫡命令がまだ公表されていない皇太子、半分皇帝のような皇太子なら苦もなく動かせる。


 そこに駆け込むと、兵舎の中庭には既に兵士が集結、整列していて、皇太子アルバートと数人の部下が統制していた。


「兄上!」

「ノア? 何しに来た」

「やめろ兄上、今ならまだ間に合う」

「……誰に聞いた」


 アルバートも然る者で、一瞬のやりとりだけで全てを理解した。


「そんな事はどうでもいい、兄上、その一歩を踏み出したら破滅だぞ」

「このまま座して死ねというのか」

「陛下は兄上を殺す気はない、息子を処刑することに心を痛めている」

「だから親王に甘んじろ(、、、、)というのか!」

「……」


 甘んじる。

 その一言が価値観の違い、埋めようのない違いを雄弁に語っていた。


 親王は普通に考えれば、庶民などからみればもはやこの上ない崇高な存在なのだ。


 しかし皇太子であるアルバートにとっては、それに「落とされる」ことは死に等しいものだと。


「どうしても止めるというのか」

「ああ」

「わかった――ノアを捕らえよ! あれは反逆者だ!」


 アルバートは兵士に命令した。

 1000人の兵士は迷うことなく俺に向かってくる。


 俺はとっさに腕輪の中からレヴィアタンを抜いた。


 1000人……倒しきれるのか?

 分からない、だがやるしかない!


『我に任せよ。我の名を呼べ』


 頭の中に何者かの声が聞こえた。

 聞き覚えのある、しかし今までに比べてはっきりとした声。


 そして今まで違う名前が、頭に浮かび上がってきた。


 俺は迷いなくその名を呼んだ。


「やれルティーヤー――いや、バハムート!!」


 瞬間、俺の背後にシルエットが浮かび上がった。

 巨大な翼を持った、炎を纏う黒竜。


――――――――――――

名前:ノア・アララート

法務親王大臣

性別:男

レベル:3/∞


HP E+F 火 F+A

MP F+F 水 E+S

力  E+E 風 F+F

体力 F+F 地 F+F

知性 F+E 光 F+C

精神 F+F 闇 F+F

速さ F+F

器用 F+F

運  F+F

―――――――――――


 同時に、火が更に一段階強くなった。


 黒竜・バハムート=ルティーヤーは口から炎を吐いた。

 炎は兵士を包み込み、あっという間に炎上した。


 兵士達はもだえ、苦しみ、次々と武器を取り落として地面にうずくまったり転げ回ったりした。


「もういい、殺すな」

『承知だ』


 バハムートは答えた直後、兵士達を包んでいた炎が消えた。

 燻る煙と、今までにないほどの輝きを放つルティーヤーの指輪が今のは現実だったと物語っている。

 ルティーヤーとバハムートの関係、おそらく前に幻聴で聞いたリヴァイアサンと関係はあるが、今はそれを深く追求している暇はない。


 俺は、驚愕しているアルバートを向いた。


「終わりだ」

「俺を殺すのか、お前が!」

「いいや」


 俺は首をふった。


「俺が殺しはしない、それでは陛下が悲しむ。子を処刑するだけでも悲しんだ陛下だ、殺し合いをみて悲しまないはずがない。だから」


 俺は懐から、一つの小瓶を取り出した。


「……毒かっ」

「ああ。これを飲んで自害しろ。すんでの所で思いとどまって自害したなら、兄上の家族も部下も道連れにしなくて済む。兄上の長男がそのまま家を継ぐことができる」

「ふざけるな! そんな事ができるか!」

「俺が手を下すと兄上の家が潰れるぞ」

「そうはならん! フォスター! ハワード! こいつを捕らえろ、反逆者だ!」


 喚く兄上、側にいた二人の部下に命じた。

 一目で分かる、結構強い相手だ。


 勝てるのか――と思った次の瞬間。


 二人は、左右からアルバートを羽交い締めにした!


「なっ、何をする貴様ら!」

「もう、あなたにはついて行けない」

「ノア様はそれでもあなたの家、あなたの部下のことを案じてくれた。なのにあなたはなんだ」

「何を血迷っている! 奴の戯れ言に耳を貸すな!」

「うるさい!」


 羽交い締めにする一人が叫んだ。


「お前が、レヴィアタンの封印を解いた時、解いた直後の一番濃い瘴気にあてて犠牲にした120人の事を覚えているか!」


 120人……数字に聞き覚えがある。

 アルバートが初めてレヴィアタンを持ってきた時、手に入れるだけで120人犠牲になったと言っていた。


「あの中に俺の兄貴がいた! 幼馴染もいた!」

「俺の父親もいたんだ!」


 フォスターとハワードが血を吐くような叫びをアルバートにぶつける。


「もう、お前なんかについて行けるか!」

「ノア様」


 名前がどっちか分からないが、片方が多少落ち着いて……しかし決意した声で俺を呼ぶ。


「皇太子殿下は自害を決意なされたそうです」

「わかった。オリビア」

「はい」


 俺が連れて来た、今まで物陰に隠れていたオリビアが出てきた。


「お前がやれ」

「ありがとうございます!」


 オリビアは涙混じりに俺に頭を下げてから、小瓶を受け取って、アルバートに向かっていった。


「ふざけるな売女! 拾ってやった恩を忘れたのか!」


 アルバートが喚く、しかしオリビアはもう動じない。

 更に近づく、フォスターとハワードがアルバートの口を無理矢理開く。


 三人で分担して、俺が持ってきた毒をアルバートに無理矢理飲ませた。


 口を押さえられたアルバートは、しばらく抵抗したが、やがてそれがけいれんになって、白目を剥いて泡と血を吹いた。


 やがて力尽きて、二人の男はアルバートの遺体を地面に下ろした。


「ノア様」

「アルバート様は自害なされた」

「ああ」


 俺は毒を飲ませている間に描いた筋書きをまとめて、口にした。


「兄上は政変をおこそうとしたが家人からの密告があり、失敗と露見を恐れて兄上は自害した。よって帝国法において密告者に褒美を、それ以外の家人は全くの不問とする。家も、さっき俺が言ったように、兄上の長男が継げるように陛下に進言する」

「「ありがたき幸せ!!」」


 ハワード、フォスターは俺に片膝をついて、頭を下げた。


――――――――――――

名前:ノア・アララート

法務親王大臣

性別:男

レベル:3/∞


HP E+E 火 F+A

MP F+E 水 E+S

力  E+E 風 F+F

体力 F+E 地 F+F

知性 F+E 光 F+C

精神 F+E 闇 F+F

速さ F+E

器用 F+E

運  F+E

―――――――――――


 能力の「+」がまた上がった、基礎能力の方は全てFからEに上がった。


 二人は、やっぱり相当の強者だったようだ。

 その二人に見限られたアルバート……。


 やっぱり……人は宝だよ。


 それを蔑ろにしたアルバートは、土台、何をやっても政変は成功しなかっただろう。


 こうして、ギルバート、そしてアルバート。

 皇帝の座を虎視眈々と狙い、陛下を弑逆してでも奪おうとした二人がいなくなった。


 陛下の治世は、それまでと違う、新しい物語の幕開けとなった。

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●感謝御礼

「GA FES 2025」にて本作『貴族転生、恵まれた生まれから最強の力を得る』のアニメ化が発表されました。

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なろう時代から強く応援してくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
― 新着の感想 ―
えぐっ。意図せずに皇太子、第1親王を倒してる。どんどん皇帝の座が近づいてるな。
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