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36.騎士志望と騎士

「う、ん……」

「気がついたか」

「えっ――」


 女はパッと起き上がって、周りをきょろきょろと見廻した。


 女は自分に何が起きたのか分からないという顔をしていた。


 既に野次馬の見物人の殆どが散っている。

 近くの茶屋の軒先を借りて彼女を寝かせて、ジジに介抱させたら、意外と早く気がついた。


「お前、は?」

「この人に感謝した方がいいよ、あんたを助けてくれた恩人さんだよ」


 茶屋の女将で、いかにも人の良さそうなおばさんが女にそう言いながら、繁盛している店で接客にまわった。


「たすけ、た?」

「どこまで覚えている?」

「戦って……あっ、警戒してない所からの攻撃が」

「その時の男が、仲間にこっそりお前を攻撃させたんだ」

「卑怯な!」


 女は怒りを露わにして、吐き捨てるように言った。


「あれが卑怯なのは否定しないが、お前も油断が過ぎる」

「うっ……」

「そもそもなんであんなことをしていたんだ? 相手が誰であろうと負けるつもりはなかったんだろう?」

「分かる、のか……?」


 俺はクスッと笑った。

 彼女が言わなかったその先に「お前のような子供が?」って言うのが聞こえたような気がした。


「そんなの見てれば分かる」


 今度は警戒の目をした、こいつただ者じゃないって目だ。


「何かするつもりなら気絶してる間にしてる」

「……それもそうだな」

「で、なんであんなことをしてたんだ?」

「……旅費が無かったから」

「旅費?」


 女は頷き、苦虫を噛み潰した様な顔で語り出す。


「今年の騎士選抜で上京してきたのだが、それが叶わなかった。何かの間違いだと思って都に残って、調べてもらって待っていたら、旅費が底をついてしまった。このままじゃ故郷にも帰れないから、あんな事を……」

「まて、それはおかしい」


 騎士選抜に落ちたと言うことを口にしたことで落ち込んで俯きかけた女だが、俺が言うとパッと顔を上げて、怒った顔で俺を睨んだ。


「何がおかしいっていうんだ」

「怒るな、そういうことじゃない。お前の腕はさっき見させてもらった。その腕前なら選考に落ちるはずがない」


 相手が街中の、その辺の男って事を差し引いても、女の腕はかなりのものだった。

 俺が唯一取った騎士、シャーリーに勝るとも劣らないほどの腕前だ。


 それで落ちるとか、考えられん。


「私もそう思った。だから伝手を頼って調べてもらった。すると、審査官の第十親王様と会うことが出来た。親王様は、女なら、その……」


 女は言いよどんで、顔を真っ赤に染めた。

 羞恥とも、憤怒とも取れない顔だ。


「ああ、もういい。話はわかった」


 第十親王、俺の兄でもあるそいつの性格はよく知っている。

 女なら体を差し出せ、って言う意味のことをかなりド直球にいったんだろう。


 そういう性格の男だ。


 俺は少し考えて、女に聞いてみた。


「まだ、騎士になりたいか?」

「もちろんだ。来年も来るつもりだ。何年かかっても、私の実力で騎士になってみせる」

「なら、急いで故郷に帰ることも無い」

「え?」


 俺は懐から小さい袋を取り出して、女に手渡した。


「これは……お金?」

「100リィーンある。都に一年滞在する位はある」

「えっ……?」

「ジジ、タイラー通りに何軒か人が住んでない家があったな?」

「はい、ご主人様」


 さっきからずっと俺の背後で、物静かに控えていたジジが答えた。


「ディランに、その中から一軒を彼女に使わせるように手配しろ」

「わかりました」

「ど、どういうことだ?」


 女は戸惑っていた。

 自分の身に振りかかったことをまだ理解出来ていないようだ。


「都に残っていろ。ここにいた方が、騎士選抜の情報が入りやすくて、対策も立てやすい」

「そうじゃなくて、どうして私にこんな……」

「俺はいろんな人間のパトロンをやっている。お前が気に入ったから金を出した」

「私、が?」

「女の武器を安易に使わずに、実力で自分を認めさせたい。そういう人間は好きだ」

「……」


 女はポカーンとした後。


「あなた、何者? ただ者じゃない――」


 感心した目で俺を見つめる女。


 そこに空気を読まない、邪魔者がやってきた。


「いたぞ!」


 声の後に、たくさんの足音が迫ってきた。

 みると、ざっくり二十人くらいが、茶屋ごと俺たちを取り囲んでいた。


 その中心にさっきの男――チャドがいた。


 チャドは肩に応急処置の包帯を巻いて、ちゃんとしたズボンに履き替えている。


「この小僧だ。お前らやっちまえ! 兄貴もお願いします!」


 チャドの号令とともに、男達が一斉に襲いかかってきた。


 まったく、懲りない奴らだ。


 俺は一歩前に進み出た。

 レヴィアタンを――と思ったら、ルティーヤーが頭の中でダイレクトに訴えかけてきた。

 レヴィアタンだけじゃなくて、こっちにも活躍の場を。


 そんな感情がストレートに流れてきたから、俺はそれに応える事にした。


 二つの指輪をリンクさせる。

 ルティーヤーと鎧の指輪をリンクさせて、手甲に変化させて、両腕をおおう。


 瞬間、燃え盛る両拳のできあがりだ。


 それで男達を迎撃した。


 がら空きのボディを殴って、隙だらけの顎を打ち抜いて。

 地を這う炎を投げつけて、喉輪を掴んでゼロ距離で爆破させる。


 ルティーヤーの技を、レヴィアタンの時と同じように再現した。

 攻撃がヒットする度に、男達の体が大きく炎上する。


 一瞬だけ燃え上がってすぐに消えるのも、ルティーヤーの技の特徴だ。


「すごい……スピードも力も見た目通りの少年なのに……こんなに強かったのか」


 出遅れた女が感嘆していた。


 そうこうしている間に、もはや問答するのも面倒臭いチャドを含めて、新たにやってきた男達を全員倒していた――と思いきや。


 一人だけ、騎士っぽい格好の男が倒れてなかった。

 最後尾にいて、攻撃をしてこなかったから、俺も反撃してなくて攻撃しそびれた。


 そいつは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

戦わないのなら面倒もない、俺はその騎士に。


「こいつらを連れてどこかに――」

「お前は! 第十親王の騎士!」

「むっ?」


 女が言って、騎士がビクッとした。


 騎士を見ると、みるみる内に顔が青ざめていった。


「ああ、そうか。そういうことか」

「――っ!」


 俺が言うと、騎士はまたビクッとした。


 そいつはどうやら、第十親王ダスティン・アララートの騎士のようだ。

 そして俺は向こうのことは知らないが、向こうは俺のことを当然知っている。


 ああ、そういえばチャドが「兄貴頼む」とかも言ってたな。

 チャドに引っ張られてきたはいいが、相手が俺だと知って、そして俺は向こうのことを知らないと思って、攻撃もせずどうにかやり過ごせないかと黙っていた訳だ。


 それをしかし、裏接待を要求された時に多分会ったことのある女にバラされてしまった。


 知らないままならそれでも良かったが、一旦ばれてしまった以上。


「どうかお許しを! 十三殿下」


 騎士は、その場でパッと俺に土下座した。


 一度は散った野次馬が再び集まってざわざわし出して。


「え……?」


 女も、いきなりの事に騎士と俺のことを、キツネにつままれたような顔で交互に見比べた。


「十三……殿下? って、あの法務親王大臣の賢親王様!?」


 女は盛大に驚愕した。


「ああ。ノア・アララートだ」

「ほ、本物……? いや、あの騎士(クズ野郎)がここまでの勢いで土下座してるんだ。偽物のわけがない……」


 どうやらこの騎士にも何か言われたみたいだな。


「親王で大臣なのに、身分や地位をひけらかさない……?」


 女の目は驚嘆と、尊敬の色が半々になっていた。


 彼女はしばらく放置でいいとして、問題は騎士の方だ。

 コバルト通りの時と違い、こちらはちゃんとわきまえてる(、、、、、、)ことだし。


「こいつら、お前の仲間か?」

「は、はい……その……悪友、と申しますか」

「なら処分は任せる」

「え?」

「聞こえなかったのか?」

「い、いえ。そうではなく、私……は?」

「お前、俺に襲いかかってきたか?」


 騎士の男はプルプルと、クビがちぎれる程の勢いで振った。


「なら見逃してやる。そいつらを連れてとっととどっかに行け」

「あ、ありがたき幸せ!」


 騎士はゴツン、ゴツンと音が聞こえてくるほどの勢いで、頭を地面に叩きつけてから、仲間達を起こして、全員引き連れて立ち去った。


 さて、後は女のほうだが――。


 パチパチパチ。


 まだ野次馬のざわつきが残っている中、やけに響く拍手の音がした。


 音の方を見ると、茶屋の向かいにある酒を出している露店で、一人の老人が拍手しているのが見えた。


「うむ、中々の少年だ。顔も腕も一級品。これほどすごい少年は近年稀に見る」


 俺の事を褒める老人、とても雰囲気のある人だ。

 一体何者だ――と思った瞬間、老人がテーブルの上に置いている黄金の瓢箪が目に入った。


 胸がドクン! と大きく鼓動した。


 ドクン!


 世の中には、風変わりすぎる持ち物が、本人よりも有名という場合がある。

 分かりやすいところだと、異名持ちの騎士が愛用している武器のパターン。


 黄金の瓢箪もそれだ。


 その持ち主を俺は最近知った。

 調べて、知った。


 俺はつかつかと近づいていき、老人の前で片膝をついた。


「お初にお目にかかります――雷親王殿下」

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●感謝御礼

「GA FES 2025」にて本作『貴族転生、恵まれた生まれから最強の力を得る』のアニメ化が発表されました。

mrs2jpxf6cobktlae494r90i19p_rr_b4_fp_26qh.jpg
なろう時代から強く応援してくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 人間は腹をパンチされても、気絶することは有りません。 苦しくて悶絶して倒れるけれど、意識は鮮明です。 もがき苦しみ続ける。 なので冒頭の、 女性は気絶していた・・・という描写は間違っ…
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