231.復活の「+」
数日後、アンの実家。
応接間で、俺は喪服姿のアンと向き合っていた。
テーブル越しに向き合う彼女は、父親をなくして怒濤の数日間を過ごして、はじめて会った時以上にやつれていた、目を泣きはらしていた。
「ありがとうございます」
開口一番、アンは俺に頭をさげた。
「ノア様のおかげで、無事父の最後を看取ることができました」
「そうか」
「本当に、本当に感謝の言葉もありません」
「乗りかかった船を、人間としてやるべき事をやったに過ぎない」
「それでも……ありがとうございます」
アンはソファから立ち上がって、腰を折って深々と俺に頭を下げた。
礼をうけとってから、俺は改めてきいた。
「父親の遺産の場所はわかるのか?」
「はい、じいから聞きました。ララク郊外にある陵墓の中だそうです」
「陵墓? ということは皇帝の?」
「前の皇帝がたてて、結局使われなかったものです」
「ああ」
なるほど、と俺は頷いた。
よくある話だ。
ほとんどの皇帝は、即位した次の瞬間に自分の墓――つまり陵墓の建設に取りかかる。
皇帝の陵墓は大がかりであるため、建設に数年かかる事は珍しくない。
さらに本格的にやろうとすれば十年以上かかるケースもある。
だから皇帝は即位とともに作り始めるし、同時に複数つくって、その中から一番「いいもの」を選んで、最終的に死後自分をそこに埋葬する。
先帝である父上ももちろんそうで、ここララク郊外に一つつくって、最終的に使われなかったということだ。
「そこにあるのか」
「はい」
「わかった、兵を出そう。俺もいっしょにいってやる」
「いいのですか?」
「自分の名において宣言した約束だ、最後までは責任を持つ」
「ありがとうございます」
もう一度頭を深々と下げたアン。
頭を上げた後、戸惑い交じりの表情で俺をみつめてきた。
「なぜ……そこまでしてくれるのですか? ああっ! その、なぜ、名前にかけてまで、といういみです」
「ふむ」
「じいからすべてききました。あなたは皇帝陛下、いまであっても総督、しかも災害復興で忙殺されている方です。民間の小娘のために、なぜ」
「……俺も最近、父の遺産をゆずりうけた」
一呼吸ほどの間を開けてから、アンの質問に答える。
「それって『別荘』のことですか?」
「ほう?」
思わず唸った。
アンの口から別荘という言葉がでた事が意外だった。
「あの老人から聞いたのか?」
「はい。というより――」
アンはまっすぐ俺を見つめてきた。
喪服姿ということもあって凜々しく見え、またやつれている事である種のすごみが出ている。
「父の事業を受け継ぐことにしました」
「情報屋の方か」
「はい」
「父親はそれを望まないのではないか?」
「はい、ですが情報屋の方がより父の事を感じられますので」
「そうか」
はっきりとした理由からそれを選んだようで、そしてその理屈は理解できる。
であれば俺からいうことは何もない。。
「そうだ。その別荘をうって、金にした。同じ父親の遺産を受け継ぐタイミングだったから、他人ごととは思えなくてな」
「そうですか」
「迷惑ならやめるが?」
「え?」
「意地悪で言っているのではない」
俺はまっすぐアンを見つめた。
「今のお前なら中途半端な手助けもいらないだろう」
本心だ。
今の彼女をもしジブがみればさぞ安心することだろうと思った。
それくらい、今の彼女は強い、強く見える。
だからそう聞いた。
そしてそれに対する彼女の返事はこれまたつよかった。
「いえ、是非お願いします」
「ほう?」
「父の最後の願いです。叶えられることはかなえてあげたいと思います」
「……ふっ」
「どうしたのですか?」
「自分は安穏に暮らしてほしいという父の願いを無視しつつ、父の別の願いのために俺を使うか」
「……はい」
アンは一瞬息を飲んだ。
自分のわがままの為に皇帝を――というニュアンスを察したが、それでも押し通した。
偶然の出会い、成り行きで関わった。
それにしては面白い女だと俺は本気で想ったのだった。
☆
善は急げ、とばかりに俺はアンと一緒に出発した。
念には念を入れて、この件に関わったジョンに500人の兵を率いて護衛してもらい、一緒に件の陵墓に向かった。
ララクから半日ほど離れた郊外にある陵墓。
規模こそかなりのものだが、最終的に使われず「仕上げ」もされなかったので、荒涼とした雰囲気を漂わせる場所になっている。
入り口にアンと一緒に立ち、問いかける。
「さて、詳しい話は聞いているか?」
「はい、じいの方から」
「ふむ」
「最深部に『陛下』のための玉座がございます」
「ああ」
「その玉座の裏に隠し階段があるとのことです」
「なるほど」
頷き、アンを連れて中に入った。
兵達はひとまず外に置いてきた。
広大な陵墓である。
皇帝の陵墓なのだから、これだけで一つの宮殿に匹敵するほどの規模と広さだった。
情報通り、玉座の間を模した最深部の部屋にたどりつき、その玉座の後ろを調べた。
石畳の床に、よく見ればわかるスキマがあった。
それを開けると、下に続く階段があった。
「俺から離れるな」
「は、はい」
そういい、アンはくっついてきた。
俺は水の魔剣リヴァイアサンを召喚して、何があっても対処できるようにした。
皇帝の陵墓は発掘者などの対策の為にトラップをしかけてあることがおおい。
それを警戒しつつ、アンを連れて階段を降りていく。
トラップとかはなく、すんなりと階段を降りきった先に隠し部屋がある。
中に入ると――。
「こ、これって……」
「黄金、だな」
目の前の光景にアンは言葉を失った。
隠し部屋の中に、かなりの数の金塊が置かれていた。
「控えめに見積もっても……100万リィーンはあるな」
「お父様……」
あまりの額に、独り立ちし「父」と呼ぶようになったアンの呼び方が戻ってしまっていた。
感極まるアンをおいて、俺はジョンを呼んだ。
やってきたジョンも部屋一杯の黄金に驚いていた。
「運び出して、アンの屋敷に届けろ。わかっているな?」
「もちろんです。ご主人様が名誉にかけて請け負った後事ですから。万に一つのミスもありません」
「うむ」
俺は頷き、ジョンは振り向いた。
一緒に連れてきた兵士たちに怒鳴りつけた。
「おまえら! いつもはこういう時懐にネコババしてるんだろうが、今回は絶対にやるなよ」
ジョンとの付き合いも長くなったが、彼がこうして部下に怒鳴りつけるのは始めてみる。
部下の兵もそうなのだろうが、怒鳴られて全員がビクッとして、背筋を伸ばして「「「はい!!」」」と声を揃えて応じた。
「もう一度言うぞ、ちょっとでもネコババしたやろうは、俺が地の果てまで追い詰めて、一族郎党はもちろん、実家の床下から出てきた虫にいたるまで皆殺しにするからな」
「「「はい!」」」
「よし、やれ!」
ジョンが号令をかけると、兵士たちが一斉に動き出した。
ジブの遺産である黄金を運び出していった。
それを尻目に、俺は歩き出した。するとアンはすこし驚いた表情をした。
「どこに怒れるのですか?」
「父上が立てた陵墓だ。もしかして父上の生前に繋がる何かしらの痕跡はあるかもしれなくてな」
「そうですか。ご一緒してもいいですか?」
「いいのか? 見てなくて」
「はい。それに」
アンは少しにこりとしながらいった。
「父の遺産、ということで気になります」
「そうか」
俺は笑った。
出会いが出会いだったから少し意外だった。
こういう冗談も言える女なのだな、とおもった。
いやこっちの方が本来の彼女かもしれない、とも思った。
そんなアンを連れて、一緒に歩き出した。
階段を上がって、玉座の間をでて、色々と歩き回った。
ある部屋にはいった。
今までの部屋に比べて厳かな作りで、中は調度品とか余計なものが一切ないのにもかかわらず、「雰囲気」が出ていた。
「ここは……」
「実際に柩を安置するための部屋だ」
「ここが……?」
「ああ、その辺りに殉死者のためのスペースもあるから、間違いないだろう」
「あっ……」
俺が指し示した不自然な空間をみて、息を飲むアン。
殉死者。
基本的にだが、皇帝の陵墓に柩を運び込んだものはそのまま殉死させるというケースがほとんどだ。
なぜそうなのかといえば、皇帝の陵墓は大量の副葬品がある。
実際にここは使われなかったが、使われたほうには大量にある。
その副葬品はかなりのもので、盗掘者にとっては垂涎の的だ。
だから持ち出されないため、その情報すらを与えないために、最後に入った者達を殉死させる。
口封じというわけだ。
殉死という言葉にさすがに怖じけついたのか、部屋の入り口に立ったまま入ってこないアン。
俺は一人で部屋にはいって、中をみてまわった。
すると、柩を安置するスペースの中央に、見た事のある紋章が刻まれている事に気づいた。
「これは……」
「どうかしたのですか?」
俺の反応を訝しんで、アンは意を決して、という感じで中に入ってきて、俺の横にたった。
そして、視線を追って同じ紋章を見つける。
「これは……何の紋章でしょうか」
「ルティーヤーの紋章だ」
「ルティーヤー?」
アンの言葉に応えずに、俺は困惑した。
何故ここにルティーヤーの紋章が?
「………………」
俺はルティーヤー、今ではバハムートと名前が変わっているその指輪を召喚した。
赤い光を放つ指輪が召喚されると、俺の手を離れ、ゆらり、ゆらりと浮遊し、紋章の真上に飛んで行った。
そして、紋章と共鳴し、ともに光り出した。
その光はまずあふれ、そして徐々に集まっていき、一人の人間の姿になった。
「これは!?」
「父上……!?」
「え?」
驚くアンだが、俺はもはや彼女どころではなかった。
ルティーヤーの紋章とバハムートの指輪。
それが共鳴して、父上の姿になった何かが現れた。
『よく、ここをみつけたな、ノアよ』
「父上」
『ルティーヤーの指輪は余がはじめてお前に下賜したものだ。故に、最後に与えるものの鍵とした』
「……っ」
そういうことか、とハッとした。
父上の幻影は更に続けた。
『ノアよ、ここに来たお前にわたしたいものがある』
「はい」
会話が成立したわけではない、父上の幻影は一方的に喋っているだけ。
それを俺が応じたというだけ。
そんな父上の幻影は俺の現状など全く気にすることなく続けた。
『ジブ・ロックと言う男をたずねろ、そして「猫またぎの魚」、そう伝えろ』
「ええ!? お、お父様の事?」
「猫またぎの魚……あの符牒か」
「ああっ!?」
時間差で、二度驚くアン。
父上の幻影は更に続ける。
『お前の口からその符牒がでれば、ジブはお前に力を貸すように言いつけておいた』
「……」
『ジブとその力、余が築き上げた諜報網を、お前が使えるようにする』
「――っ!」
『お前のことだ、金も技術も自分でなんとかしてしまうだろう。だからこれをのこしてやる。上手くつかえ』
「……ありがとうございます、父上」
俺は深々と頭を下げた。
まさかまさかの、まさかだった。
別荘をうり、父上の遺産の恩恵にあずかっていたと思っていたら、別荘などとは比較にならないほどの遺産が用意されていた。
『最後に一言だけいっておいてやる。ノアよ』
「はっ」
気づけば、俺はその場で跪いていた。
この世で最も尊敬する父上の前に、生前と同じように跪き頭をたれた。
『代替不能な個人にすべてを委ねることは、厳に慎まれるべきである』
「――っ!!」
俺は息を飲んだ。
全身に、雷が突き抜けていったほどの衝撃をかんじた。
『ではな』
最後にそういって、父上の幻影が消えた。
俺はもう一度最後に頭をさげてから、ゆっくりと立ち上がった。
「いまのって」
おそるおそる聞いているアン。
俺は振り向き、まっすぐアンにむきなおった。
「父上の遺産だ」
目を見開かせたアン。
その目がやがて落ち着いていき、彼女はゆっくりと俺に跪いた。
「後をついだばかりの非才者ですが、父に成り代わり生涯お仕えします」
「うむ」
俺は頷いた。
父上に遙かに及ばないと思っていたこと、その諜報網。
まだ一部だが、俺はそれを父上の遺産として受け継いだ。
そして、視界隅っこでは。
――――――――――――
名前:ノア・アララート
エンリル州総督
性別:男
レベル:33/∞
HP SSS+ 火 SSS+
MP SSS+ 水 SSS+
力 SSS+ 風 SSS+
体力 SSS+ 地 SSS+
知性 SSS+ 光 SSS+
精神 SSS+ 闇 SSS+
速さ SSS+
器用 SSS+
運 SSS+
―――――――――――
アン・ロックという存在をえて。
俺のステータスにはじめてみる、しかし見慣れたものが加わっていたのだった。
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