217.なくなった「+」
あけましておめてとうございます!
今年も貴族転生をよろしくお願いします!
昼下がり、俺はゾーイをつれて街にでた。
俺は総督としての格好ではなく、ゾーイも副官の格好ではない。
そこそこの商人と、連れ歩いている使用人。
二人でそんな格好をしている。
それで誰からも話しかけられず、反応されずに街中に溶け込んでいる。
帝都から出たことのない皇子なんかが真っ先に驚くのがこのあたりだ。
皇子、王族といえば要人。
要人の顔が知られていないなんてことがあるのか、と思ってしまう。
しかし実際は「知るすべがない」という事で、大した変装がなくても普通に市井に紛れ込めたりする。
着任したばかりの地方官のトップ、総督であってもそうだ。
そんな風に、わりかし適当な変装だけで、俺はゾーイと一緒に州都ララクの街中を視察した。
州都ということもあり、また俺が総督として力を入れてることもあって。
街はものすごい勢いで復興している。今も通常の生業とは別で、あっちこっちで建設やら土木工事やらがすすめられている。
それを見た俺は、歩きながら頷いて。
「活気が戻ってきたな」
と感想をもらした。
ゾーイは即座に反応した。
「ご主人様の手腕のたまものです。これであれば後はもう」
「それはどうだろうな」
「え?」
驚くゾーイ。
本心で「後はもう大丈夫」だと思っていたのだろう。
それを俺が否定したのだからかなり驚いた様子だ。
俺は歩き続けながら更にいった。
「今回の復興はかなり強引な手もつかった」
「このような状況なればしかたのないことでしょう」
「俺もそうおもう、が、相応にひずみも生じているはずだ」
「ひずみ」
あまり想像出来ない、といわんばかりに、ゾーイはその言葉をおうむ返しした。
彼女にしては珍しい、平坦な口調で返してきた。
「勘だよ」
俺はふっと笑う。
「このまますんなりといくとは到底思えない、ってな」
「だから視察を……」
「ああ、父上であればこのような事をせずとも把握出来る情報網があるのだろうが、俺のはまだ構築途中だからな」
こうして足で実際に、といった。
「先帝陛下の情報網……」
「あれは凄まじかった。今でも先帝に遠く及ばない事の一つだ」
「私もそれを体感してきました」
「うむ」
「ですので、先帝のお隠れの後に調べました。どういう形で、どういう者達がどうやっていたのか。と」
「興味があるのか」
「それもございますが、もしそれを突き止めればご主人様に引き合わせることも出来るのかもしれないとおもって」
「ああ」
なるほど、と俺は頷いた。
「しかしいくら調べても何も分かりませんでした。まるでそんな者達が最初からいなかった、夢幻だったのかと思う位痕跡をとらえる事ができませんでした」
「俺も調べた、おなじだ」
俺は苦笑した。
「さすがは先帝だと思ったよ」
父上の情報網、いや諜報網というべきだろうか。
それのすごさを知っているが故に、俺はそれを自分のものにしたいとおもった。
ちらり、と視界の隅にあるステータスをみた。
――――――――――――
名前:ノア・アララート
エンリル州総督
性別:男
レベル:33/∞
HP SSS 火 SSS
MP SSS 水 SSS
力 SSS 風 SSS
体力 SSS 地 SSS
知性 SSS 光 SSS
精神 SSS 闇 SSS
速さ SSS
器用 SSS
運 SSS
―――――――――――
最近ではすっかり気にしなくなった、視界の隅にあるステータス。
父上が崩御し、帝国の全てを手に入れたあとに二つの変化があった。
ステータスの全てがSSSになったのが一つ。
そしてもう一つは「+」がなくなったこと。
生まれた時からあった「+」、それは俺の配下に人間が加わることで増えていった。
俺が「人は宝」の考えを固めた最大の理由だ。
帝国が全部俺のものになったこともあって、父上の諜報網はどうか、って探してみたけど見つからなかった。
さすが父上だと思う一方で、それを自力で築き上げるしかないなとおもった。
そんな事を改めて思いながら、歩き続けた。
視察しつつ、様々な人間と話をして、適当に買い食いとかもした。
民の生業が、滞りなく行われいるかをチェックしていった。
日が大分傾く位歩き回ったが、問題はみられなかった――と、思っていた所に。
「……ふむ」
ある光景が目に飛び込んできて、俺はその場で足を止めた。
ゾーイも立ち止まって、聞いてくる。
「何か気になることが?」
「あの男」
俺はそういい、手を伸ばして指さした。
指さした先に、革袋を持っている男がいた。
男ははあ、とかなりデカイため息を吐いている。
今までも、活気があるといっても、皆が皆あかるい顔をしているという訳ではない。
例えば民家の近くを通ると「施主さんの奢りだからといって飲み過ぎだ!」と妻にドヤされている夫の顔もある。
そういうレベルの顔もある。
どういう意味では、今見えている、気になっている男もそうなのだろうが――気になる。
俺はそれがとても気になった。
「すこし話を聞く。口を挟むな」
「かしこまりました」
ゾーイにそういい含めてから、彼女を連れて男の方に向かっていく。
途中でわざとバランスを崩して、俺は男にぶつかった。
「おっと、すまない――むっ」
男にぶつかってから、これまたわざと気づいたようにふるまった。
買い食いのものの、付けタレが男の服にかかった。
もちろんそれはわざとで、俺は申し訳なさそうにあやまった。
「これはすまない!」
「ああいや、こっちこそ悪い。ぼうっとしてた」
謝られた男は覇気のない顔で「大丈夫」といってきた。
やはり気になると俺は改めて思った。
「これはしっかりお詫びをしなければ。お前、近くに服屋はないか探してこい」
「はい」
俺に命じられたゾーイは動き出そうとしたが、男がとめた。
「いやいやいいよ、これくらい。洗えば落ちるさ」
「しかしそれでは……だったらせめてそこの店で酒でもおごらせてくれ」
「え? それは――」
「おい、店にいって席を作らせてこい」
「かしこまりました」
これが真の狙いだとゾーイはすぐに理解した。
さっきの命令には動き出しが鈍かったのに対し、この命令は男に止められないようにすぐさま走って行った。
「さあ、こちらへ」
「じゃあ、まあ……」
そこまで言うのなら、と。
男は複雑そうな顔をして俺についてきた。
一緒に店にはいる、そこはありふれた酒場だった。
地震での被害があったからか、店の壁は塗り替えたばかりで真新しい。
もちろん酒場ということで、店内の活気は街中のそれよりも数段上だった。
ほとんどの者が明るく酒をあおっている。
たまに明るすぎて、飲み過ぎて喧嘩になりそうな卓もあるが、それはむしろ民の生活が戻ってきていいことだと俺は思った。
入り口で少し待っていると、話をつけて戻ってきたゾーイに連れられて、二階の一番奥の席にむかった。
よくある、最上階の最奥の席だ。
大体他に聞かれたくない話か、落ち着いてしたい話がある者はこういう席を使う。
だから店側も取り立てて要求されない限りは、繁盛しててもこういう席は残しておくものだ。
ゾーイは出来る従者である、おそらくは少しばかりの金を握らせてこの席を作ってもらった。
その席に、俺は男を上座に座ってもらい、料理と酒を注文した。
料理はすぐに運ばれてきた。
一瞬でテーブルいっぱいに並べられた料理をみて、すこし服を汚しただけでここまでするか? と男は面食らったが。
「さあさ、遠慮せずに」
俺は笑顔で男に酒と料理をすすめた。
男は困惑しつつも、まずは酒を飲んだ。
酒が入ると徐々に吹っ切れていった。
そんな男にしばらくのませた後に、俺は改めてと本題を切り出した。
「失礼だが、さきほどぶつかったときは表情が優れなかったようにみえたが、何かあったのだろうか」
「あー……うん、まあ」
「これも何かの縁です。もしかしたらお手伝いする事もあるかもしれません」
「え? いやいや、たいした話じゃないんだ。その……両替がな」
「両替?」
その言葉をくり返しながら、男を見つめ、視線で先を促す。
既に顔が真っ赤っかでできあがっている男は、最初の頃にくらべて口が大分なめらかになった。
「そう。リィーンが高くなっててな」
「……ああ」
俺はなるほど、って反応をした。
「たしか両替の法定レートは1リィーンを1000ウェンと法で定めていますね」
俺はそういい、男は頷いた。
貴族――十三親王ノアとして生まれ変わってからはほぼほぼつかう機会がなくなったが、帝国にはリィーンの他にウェンという通貨がある。
リィーンのつくりは黄金がメインで、ウェンは銅がメインだ。
いわば金貨と銅貨である。
そしてリィーンとウェンは、法的に1リィーン=1000ウェンとされている。
が、それはあくまで法定レートである。
実際のレートは常に変動している。
その中でも特に、納税の時期は普段より大きく変動する。
帝国は税をリィーンで納めるように定めている。
これは実務上そうならざるを得ない理由がある。
帝国はおさめられた税を一度帝都に――財務省にあつめるのだ。
つまり税金を全国各地から、わざわざ程度に運搬、輸送をしなければならない。
そうなると、同じ額でもウェン1000枚より、リィーン1枚の方が圧倒的に運びやすい。
主にその事が原因で、帝国の税は納める段階からリィーン金貨で納めるように定めれている。
無論それも例外はあるのだが、基本はそうだ。
そうなると、納税の時期に庶民はリィーンを手に入れようとする。それでしか払えないからだ。
一方で、庶民の普段の稼ぎは、リィーンじゃなくてウェンのものがほとんどである。
だから納税の時期になると、庶民は手持ちのウェン銅貨をリィーン金貨に変えようと両替商を訪れる。
両替ではあるが、実質取引のようなものだ。
納税の時期にリィーン金貨の需要が上がるから、当然その価値が上がる。
早めに両替する事ができれば安くリィーンを手に入れる事が出来るのだが、それはつまり早めに「普段使い出来ない」金にしてしまうと言うことでもある。
余裕がさほどあるわけではない庶民は、どうしてもギリギリになって高いレートでの両替をするしかなくなってしまう。
その事を思い出しつつ、俺は男に聞いた。
「今はどれくらいですか?」
「さっきいったら1リィーンは1100ウェンって言われた」
「なるほど」
「それでちょっと足りないから帰ろうとしたんだが、明日には1150になってるかもしれないって言われてさ」
「たしかに、今はリィーンが高くなってますね」
「そう、復興に金がいるって言われたよ」
男はそういい、やけ酒をあおった。
コップの中身をあおるように一気に飲み干して、タン! とコップをテーブルに叩きつける勢いでおいた。
俺は頷いた。
両替商のいうことは理解できる。
復興には金がいる、そして復興は全部が全部、国として、総督としてやっているわけじゃ無い。
今が商機、とばかりに商人たちも動いている。
これが暴利を貪っていれば話は早いのだが、純粋にあらゆる物資の需要があがるから、産地からの買い付けも増える。
となれば当然金が持ち出されて減る。
金つまりリィーンがへれば、ウェンとの交換レートも高くなるってわけだ。
1リィーンと1150ウェン。
今現在の需要、そして復興の活気や活力を考えれば暴利ではない。
むしろ妥当とも言える数字だ。
「……っ」
ある意味で納得した俺の横で、立ったままのゾーイが息を飲む気配をかんじた。
ちらっとみると、彼女は尊敬しきった顔で俺をみていた。
まるで――
『予見していたなんて、すごいです御主人様』
といっているようだ。
街中でため息をついている男を見つけて誘ったら、政としっかり関係のある悩みが聞けた。
それを一目で見抜くなんてすごい――と彼女はそう感じているようだ。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
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もっともっと頑張って書き続けます!
TVアニメ『貴族転生』の放送開始まで残り三日をきりましたので、
第1話の初回放送情報をまとめました
2026年1月4日 24:00(5日 0:00)からABAMA、dアニメストアで先行配信
2026年1月7日 24:00(8日 0:00)からTOKYO MX
2026年1月7日 24:30(8日 0:30)からBS日テレ
2026年1月8日 24:00(8日 0:00)からAT-X
2026年1月10日 24:00(11日 0:00)通常配信配信
バンダイチャンネル、Hulu、TELASA、J:COM STREAM
milplus、Amazon Prime Video、アニメタイムズ、U-NEXT
アニメ放題、ニコニコ、FOD、Lemino
DMM TV、YouTube (レンタル)
以上となります、一番ご都合の良い方法でご視聴ください
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