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189/211

189.計算つく

本日の「GA FES 2025」にて本作のアニメ化が発表されました。

詳しくは公式サイト、もしくは活動報告にて。

「俺はあれの後を追う、騒ぎになるはずだからそれを追ってこい」

「はい!」


 シンディーは大きく頷き、聞き込みのためにかけだした。

 俺はすこし遅れて、住民の後を追いかけた。

 既にさってからしばらくたつが、騒がしいのは離れた所にも聞こえてくるほどだ。

 それを追いかけていくと、住民たちが別の米屋の前に集まっているのをみつけた。


 米屋には何人か客がいた。

 女もいて、子供もいる。


 米を買いに来ただけの女子供は、原始的な武器である角材やら棒きれやらを持っている住民の集団に怯えた。


「客は離れてくれ」

「おい、子供にみせるもんじゃない、どこかに連れて行け」

「奥に火の気があるかどうか確認してこい」


 住民の集団は実に手際良く、事を進めた。


 客をまず待避させ、まだあどけない感じの子供は何人かが言いくるめて遠ざけた。

 更に一人が店の中に入って、ランタンやらロウソクや、「火」を丁寧に消していった。


「ちょ、ちょっとあんたたち、一体何のつもりだ」


 店の中からそこそこの身なりの、店主らしき男が現れた。


 男はいきなりの事に半ば困惑、半ば怯えている様子だ。


「今からこの店をぶちこわす」

「な、なんのために」

「こんな時なのにあくどい商売をしたからだ」

「そんな! 商売というのは――」

「よし、火は全部消したぞ」

「女子供も遠ざけた」

「泥水をつくってきた」

「よし! やるぞ!」


 下準備は全てととのった、といわんばかりの勢いで、住民たちはまた武器を振り回した。


 一つ前の店で目撃したのと同じように、店を打ち壊し、商品の米をぶちまけ、丁寧にその上に泥水をぶっかけた。

 瞬く間に店先が壊され、商品が台無しにされた。


「あああ!? なんてことを……」


 店主は悲鳴をあげ、わなわなと震えながら、膝から崩れ落ちた。

 商品を台無しにされたからか、それともいきなりの狼藉におびえているのか。

 とにもかくにも、店主の男はへたり込んで、真っ青になった。


「よーし、つぎだ!!」

「「「おおおっ!」」」


 男達は一通りやることやったあと、団結を固めるかけ声をして、更に次の目的地に向かって駆け出した。


 相当の事をやってた、今の所けが人はいない。

 無関係の人間になるべく害が及ばないようにしているのが非常に興味深い。


 火元をあらかじめ確認していることも、子供を遠ざけたこともそう。

 やっていることも非常に珍しく不思議で、俺は興味の方が上回っている。


 興味をもったことはもうひとつある。


 この者たちを法的にどう裁くべきか、という興味だ。


 ここは被災地である。

 従って、俺は最初は被災地につきものの「略奪」と思っていた。

 略奪であればかなりの重罪で、略奪の過程に対象や周りの人間を死傷に至らしめた場合、最高で死罪もありうる。


 が、帝国法における略奪というのは、金品や物品などを「持ち去る」と定義している。


 彼らは何一つ持ち去っていない。

 従って略奪では無い。


 同様に窃盗や強盗といったものにも当てはまらない。

 それらは同様に奪い、「持ち去る」ことだと定義している。


 では男達のやったことは何になるのか……物品の損害としか言いようがない。

 実際に人的被害は何も出ていない――出さないようにしている――から、それでしか裁けない。


 治安の擾乱などについても、女子供を前もって遠ざけている事を誰かしか名乗り出て証言すればかなり酌量の余地がある。


 さらには本人たちが言うように、これは災害のこんな時に値段をつり上げたから、義憤に駆られてやったから。

 これも想像出来る話だし、通常はいくらでも証言者がでるから、裁く側は公憤――大衆の怒りを買わないように酌量する。


 こういう話がある。

 あるところに、地主の馬鹿息子が酒に酔って、小作人の娘を無理矢理手籠めにしてしまった。

 その娘は恥辱に耐えきれずに、直後に首をくくった。


 それを知った別の小作人の男が地主の馬鹿息子を捕まえて、皆がみている前で娘の墓前に殺して、その首を生け贄に捧げた。

 周りの溜飲はさがった。


 しかしその若い男は捕まって、死罪になった。

 帝国法が厳しくて、殺人は命で償う、自己防衛以外での殺人は唯一死罪と定められていた時期だ。

 後からの復讐は、いかような理由があろうと唯一死罪の時期だ。

 若い男の事を死罪にせざるを得なかったが、当時の代官は刑場に自ら現れ、最後の食事に手ずから給仕をしたという。

 豪勢な食事を用意し、酒も注いで、縛めで動けない若い男の口に運んで飲ませてやった。


 公的には死罪にせざるを得ないが、気持ちの上では同情し敬いむしろ英雄として扱う、という小芝居だ。

 その小芝居が功を奏して、法に厳格でありながらも人の情も持ち合わせるという美名がつき、公憤が起きることも抑えられた。


 話は脱線したが、打ち壊しの状況を調べれば調べるほど、適応する法の中で最大限の酌量をしなければならないと俺は思う。


 従って、俺が裁くのであれば、現行法の中では労役を十日ほどとし、仮に怪我を負っていたり体が不自由なら、血が繋がる家族のだれかが代行する、という便宜も計ることが出来る。

 それくらいになる形だ。


 ――が、しかし。


「作為的なものを感じる」


 さっきの話とはちがって、この話は意図的なものを感じる。

 怒りにまかせての復讐とはまさに正反対で、今やっていることは、法の盲点をつくという意図を感じる。


 襲撃の光景をもう一度思い出す。

 実行犯(、、、)たちに迷いは無い。

 通常あり得ない行動であるのにも関わらず迷いは無い。


 もしも――。


「風土ではないのなら」


「だ、旦那様……」

「役所に行くぞ! あいつらをとっ捕まえてもらう!」

「は、はい!」


 店主の男は使用人を連れて、反対方向に向かって駆け出した。

 当然と言えば当然のことを眺めながら、様々な事に頭を巡らせた。


     ☆


 夜、宿の中。


 温かみのあるランタンの灯りが揺らめく中、俺はシンディーから報告を受けていた。


「同じような事が街の至る所で起きていました」

「そうか。いつもこのような感じか?」

「いいえ、騒動に参加していなかった老人、および婦人たちに聞きましたところ、このような事は今回が初めてだそうです」

「やはりそうか」

「どういうことですか?」


 シンディーは不思議がって、首をかしげて聞いてきた。


「まずあの形はおかしい。それは分かるな」

「はい。略奪が一切なかったのはありません。父からの教えではそうなれば何もかも奪い尽くされ、場合によっては命すら危ういため、災害にかこつけて暴利を貪ることはきつく戒められてます」

「賢いな」


 俺はすこしため息をついたあと、シンディーを肯定する目で見つめながら続ける。


「全ての商人がそういう近眼的な商売を辞めてくれたら、国も後始末の手間が省けるものだ」


 俺に褒められた事を理解したシンディー、頬を染めてはにかんだ。


「お前が見てきたものを合わせて整理すると、略奪になる事を徹底的に避け、かつ暴動に参加してない者達も味方に付けるように動いているようにしか見えない」

「はい――あっ、誰かにきつく言いつけられている!?」


 俺は静かに、小さく頷いた。

 直前に、自分も父親に似たような事をきつく言いつけられている事を打ち明けたばかりということもあって、シンディーはすぐに俺がいいたいこと、俺が感じている事をすぐに理解したようだ。


「確証はないが、強くそう感じる」

「だから私を調べさせに……すごいです!」

「そうなると、裏にだれがいるのかが気になる」

「主犯として捕まえるのですね」

「どうかな」

「え?」


 シンディーはきょとんとした。


「主犯には違いないが、それでどれほどの罪に問えるのかといわれればな」

「どういう事ですか?」

「例えば略奪になったとして、それならば主犯を重い罪に問える」

「はい」

「だが今回はどうだ? 取りようによっては皆のガス抜きのために、罪が軽くなるように方法を考え抜いたと言える。あるいは裁きの場に引っ張り出したところで、『死傷者が出ないように力を尽くした』と自白すれば、略奪に比べて罪はあってなきがごとしだ」

「そんなに軽くなるのですか?」

「現行法の中でもっとも量刑を軽くして、舌に入れ墨をいれて解放、って所だな」

「形式的……? …………あっ」

「そう、実質的な勲章だ。日常生活にも影響はない。そして周りの人間は勲章だととらえ英雄に祭り上げるだろう。というかそうせざるをえん。今の状況だ、万が一にも公憤をおこせん」

「そのような裁き方もあるのですね……すごい……」


 シンディーは舌を巻く。

 何かの扇動、もしくはたき付け、そそのかし、それによって一定以上の損害が出た場合の最低量刑は入れ墨になる。

 入れ墨の場所は特に決まっていなく、慣例的に「やったことに関係する箇所」とある。

 舌に入れる事はほとんどない、なぜなら「見せしめ」の意味もある。

 が、いれてはならないということもない。


 法に従うのならそれが限界――いや。

 猶予をつけて、何かの大赦で免刑が限界か。


 いずれにしろ――。


「大した刑には問えん。捕まえても公憤の恐れに繋がるだけだから意味がない」

「では?」

「とにもかくにも気になる、終わり良ければ全てよしとはいかん。裏に頭の回る人間がいるというのなら、最低でも存在をはっきりと把握したい」

「そうなのですか?」

「俺は法に詳しい」

「え? あ、はい」

「その気になれば適法で地獄を見せることも出来る。商人ならその辺り理解が早いはずだ」

「あっ……」


 シンディーははっとし、すこし青ざめた。

 適法の中で相手に地獄をみせる、というくくりでは商人も似たような事ができる。


「そうだな……口約束で後払いでいいと言って、その間返品のしようがない超高級食材を毎日届ける、とかな」


 俺は笑いながら、冗談めかしていった。

 すると、シンディーは一瞬きょとんとしたあと、感心した顔でいう。


「すごいです……確かにそれなら……。食材だし返品のしようがない、そして食材なら季節外れの新鮮なものを届ければ文句のつけようがない高値に……」

「そういうことだ」

「商人の事もおわかりだなんて、本当にすごいです」

「そういうわけだ。とにかく裏にいるかどうか、いるとしたらどういうやつなのかをつかむ。まずはそこからだ」

「はい!」

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●感謝御礼

「GA FES 2025」にて本作『貴族転生、恵まれた生まれから最強の力を得る』のアニメ化が発表されました。

mrs2jpxf6cobktlae494r90i19p_rr_b4_fp_26qh.jpg
なろう時代から強く応援してくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます 去年の終わりに見つけて読んでいました 転生・無双系としては、他に有る様で実はあまり無いタイプだったので、ついつい一気に読んでしまう作品だと思います ただ気になる点を…
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