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17.親王の試験

 首謀者を失ったアルメリアの反乱は、あっという間にヘンリー兄上によって鎮圧された。


 その知らせが届いた王宮の謁見の間で、大臣達の歓呼がこだました。


 知らせを持ち帰った伝令兵は陛下の前に跪きながら、更に続ける。


「反乱を企てた者達はほとんど捕縛。陛下の裁可を仰ぎたい、とのことでございます」

「うむ」


 陛下は静かにうなずいた。

 表情は平然としている――という訳ではなく。


 むしろ今にも目から火を吹きそうなくらい激怒している。


「ヘンリーに伝えよ、一人残らず都に連れてこいとな」

「はっ」

「いかがなさるおつもりなのですか」


 伝令兵が去ったあと、第一宰相が大臣の列から出て、陛下に意図を聞いた。


「決まっている、ノアの領地で反乱を起こすなど許さん。牛馬を用意しろ、一族郎党八つ裂きにしてくれる」


 陛下の口調から怒りが本物だと理解した大臣達は、口々にその意見に賛成した。


「陛下」


 俺は列を出て、第一宰相の横で片膝をついた。


「待っていろノア。今すぐ奴らを――」

「恐れながら申し上げます陛下。それはまかりなりません」

「――八つ裂きに……なに?」


 驚く陛下、同時に他の大臣らもざわつく。


 激怒している皇帝に真っ向から異を唱える行為。

 既に何人かの、気の弱いことで有名な大臣が顔を青ざめていた。


「どういう事だ、ノア」


 陛下の声のトーンも低くなった。

 俺に向けられて発した言葉だが、何人かの大臣がビクッと震えた。

 その反応は、皇帝の権威を間接的に証明しているようなものだ。


 俺は平然と顔をあげて、陛下を見つめた。


「刑罰はあくまで法に則るべき」


 と、大前提をまず突きつけてから。


「帝国法では、造反の首謀者は斬胴の刑、その三親等および共謀者は絞首まで、それ以外は関与の度合いに応じて斬首となっております。八つ裂きは慣用表現なれど、帝国法ではそのような刑罰は存在しません」

「しかし、奴らはノアの顔に泥を塗ったのだぞ」


 陛下は眉をひそめてその事を主張したが、俺はスルーした。


「皇帝が率先して法をやぶっては天下が乱れる原因となります。ご再考を」

「……」


 陛下が黙った。

 大臣達は固唾を呑んで成り行きを見守った。


 謁見の間に重い沈黙が流れた。


「……ふう。理はノアにあるな」


 しばらくして、陛下はそうつぶやいた。

 誰かが――いや何人かが明らかにほっとして息を吐いたのがはっきりと聞こえた。


「よくやったノア。余の過ちを諫めてくれて」

「いえ」

「しかしそれでは余の腹が納まらぬ。量刑は法の範囲内で最も重く、減刑は一切無し。それならばよいな」

「まったく問題ありません」


 俺は一度頭を下げてから、更に続けた。


「過去に起こった反乱では、首謀者の三親等であっても子供や赤子は可哀想だからと見逃されるケースが多くございました。陛下がそのお考えなら、そこは特に注意すべき所かと」


 貴族の子はただの子供ではない。

 没落や滅ぼされた家が、生き延びた子供によって再興、あるいは復讐を遂げる事例は枚挙に暇が無い。

 反乱の場合とくにだ。

 共謀者は見逃せても、首謀者の子供は根絶やしにしなきゃならないのが貴族の世界だ。


 だから俺はそう進言した、そして陛下は「よく気づかせてくれた」と頷いた。


「第三宰相よ」

「はっ」


 陛下に呼ばれて、第三宰相、ジャン=ブラッド・レイドークが列をでて静かに一礼した。


「話は聞いていたな。この件はお前に任せる」

「御意」


 それで反乱を企てた者の処遇がほとんど決まった。

 と同時に、さっきまでの重苦しい空気を払拭するかのように、別の種類の声が上がった。


「さすが十三親王殿下。あれほどの直諫をなさるとは」

「しかも顔色一つかえず、陛下に向かって朗々と意見を述べられた」

「まさに天が授けた英才、麒麟児のごときお方」


 口々にそう話す大臣達。

 それを聞いて、陛下はさっきの激怒などどこへやら、って具合に機嫌がよくなっていった。


「ノアよ」

「はい」

「これからも余に過ちがあれば正してくれ」

「御意」

「今日の所は……ふぅむ、余が歴史に汚名を残さずにすんだのはノアのおかげだ。何か褒美をあたえんとな」


 陛下はあごに手を当てて考えた。

 さっきの沈黙とは違って、今回は皆、気楽な感じで俺へ下賜される褒美が何なのかをまった。


「うむ、決まった。称号を授けよう」


 瞬間、どよめきが走った。

 かつて、親王は一部の皇子しかなれなかった。

 現在では帝国法において、皇子は産まれながらにして親王の地位を持つ。


 位的に、親王の上は皇帝、つまり親王はいわゆる出世する事はない。


 ただそれでは功績を立てた親王にやれる褒美はないと言うことで、親王に称号をつけるという方法が考えられた。


「ノアの諌言はよくやった。余に諌言できるのは子ならばできるが、それが正しいものなのは何物にも代えがたい素晴しい資質。その賢さを天下に知らしめるために――『賢』の字を与える」


 陛下がそう言うと、またどよめきが起きたあと。


「「「ノア様万歳、賢親王万歳」」」


 歓呼の声が起きた。


――――――――――――

名前:ノア・アララート

賢親王

性別:男

レベル:1/∞


HP F   火 F

MP F   水 E+S

力  F+F 風 F

体力 F+F 地 F

知性 F+F 光 F

精神 F+F 闇 F

速さ F

器用 F+F

運  F+F

―――――――――――


 そして、俺のステータスも変わって、新しい肩書きになった。


「ありがたき幸せ」


 俺はそのまま頭を下げた。


 陛下が玉座から立ち上がって、赤絨毯を降りて、こっちに来た。

 片膝をついてる俺の前にやってきた。


「お前が、もう少し早く産まれてくれていたらなあ」


 三度、どよめきが違う質のものに変わったのだった。


     ☆


 賢親王になってから数週間。

 この日、俺は帝都のホース通り広場――都で一番大きな広場にいた。


 広場の中央に舞台を立てて、その上にテーブルと椅子を置く。


 椅子には俺が座ってて、テーブルにはティーセットがある。


 騎士選抜。


 その予選をやっていた。


 前に陛下に提案した通りのやり方が通って、俺はくつろぎながら、選抜する相手に好きなように攻撃させていた。


 俺自身は何もしない、代わりに指輪とリンクしたレヴィアタンがことごとく攻撃を防いでいた。

 一人また一人と舞台に上がってきては、俺に攻撃して――完全に防がれて落胆して舞台を降りる。


「おいおいすごいな、今の魔法も防いじまうのか」

「あんなチビなのにとんでもないな」

「お前それは不敬罪だぞ。あの方は十三親王、いや、賢親王様だぞ」


 都一番の大きな広場でやってることもあって、見物人は山のように集まって来た。


 俺は合格基準を明示してない、だが、今までの挑戦者が全員不合格なのは誰の目にも明らかだ。

 全員が全員、攻撃してきては、レヴィアタンに完璧に防がれている。


 大勢の前で、寛いでいる子供の防御すら貫けないとあっては、やる側も素直に引き下がらざるをえない。


 それをやり続けて、半日。


 そろそろ日が落ちるな、と西の空を見あげていると。


「やああぁぁぁぁ!」


 裂帛の気合とともに、攻撃がしかけられてきた。


 白い鎧を纏った少女だった。

 少女は剣を水平に突き出し、体重を乗せるかのように前掛かりで突進してきた。


 それをレヴィアタンが反応して、リンクした指輪を変形させて、盾にして防ぐ。


 ここまではまるで一緒。

 今日だけで数百人を選考してきた内容とまったく一緒。


「これ……しきの、ことで!」


 ぎりっ、と少女の歯ぎしりの音が聞こえた。

 直後、更に前掛かりになった少女、と同時に盾がひび割れた。


 丸一日誰も突破できなかった盾を突き破って、更に突進する少女。


 切っ先が、俺の右肩を貫通した。


「――っ!」


 やった本人が一番驚いている。

 思わず剣から手を離して後ずさりした。


「貴様!」

「何をするか!」


 舞台の上で護衛をしていた兵士達がやってきて、少女をその場で取り押さえた。


 舞台の下では民衆がざわざわしている。


 俺は貫通された肩を見て。


「うん」


 と頷いた。


「彼女を離せ」

「え? いやしかし。殿下を傷つけた罪人――」

「離せと言っている」

「――っ!」


 少女を取り押さえた兵士がビクッとして、少女から離れた。


 呆然とする少女、取り押さえられた体勢から上体だけを起こして、何が起きたのか分からないって目で俺をみた。


 俺は剣を抜いた、血が噴き出した。


「ご主人様!」


 一日中ずっと俺の給仕をしていたメイド――ゾーイが慌てて駆け寄ってきて、自分のメイド服を裂いて俺の肩を手当てした。


「も、申し訳ありません!」


 我に返った少女が俺に土下座した。


「ん? なんでお前まで土下座する」

「で……殿下を傷つけたから」

「合格ラインは言ってないが、やらせたことからしてどう見ても今のは合格だろ?」

「……」


 少女はポカーンとなった。


「あれで合格か」

「しかも本選合格だって」

「自分の肩を貫いた相手に……なんという器の大きさだ……」


 見物人達がざわざわする中、少女はポカーンとしたまま、中々戻って(、、、)こないのだった。

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●感謝御礼

「GA FES 2025」にて本作『貴族転生、恵まれた生まれから最強の力を得る』のアニメ化が発表されました。

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なろう時代から強く応援してくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 予選をしていたのに本選合格? 主人公は合格と言っただけで本選合格とも優勝とも言ってないので分かりづらいですね。 2〜3話後で本選開始かと思ったらそうじゃないし。 予選も沢山行う感じだっ…
[気になる点] 全般的に、主人公が父親とはいえ、皇帝に対して目上の者にたいする言葉遣いではなく、上から目線の言葉遣いが多々あります。 これって、物凄くおかしいので一話から見直して修正するべきです。
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