妹がほしい 7
十一時。目的の博物館に着いた。
「ここなんですね」
「うん」
博物館を見上げたりキョロキョロと見回したりと飛香は跳ねるように元気だが、洸のほうは既にヘトヘトだった。
――疲れた……。
飛香は都会を歩く人の動きに慣れていない。
人の間を上手くすり抜けることができない飛香を庇うように歩き、揺れる地下鉄の中でバランスを崩す飛香の靴に踏まれ、うっかり目を離すと得体のしれない勧誘に捕まりそうになっている飛香を連れ戻す。
予想以上に子守りは大変だった。
むしろ本当に小さな子供なら、抱いて歩けた分楽だっただろう。
――あれか? わかってるから碧斗は歩かせなかったのか?
だとしたら読みが甘かったと言わざるをえない。
洸は頭を抱えながら、昼食を済ませたらタクシーでまっすぐ家に帰ろうと心に誓った。
「先に見てて、用事を済ませて後から行くから。その矢印のとおり進むんだよ」
「はい」
あたかも用事とはこれだというようにスマートホンを見せながらそう言うと、飛香はペコリと頭を下げて先へ進んでいく。
――はぁ。
やれやれとロビー脇のスツールに腰を下ろした洸は、スマートホンを手にガックリと肩を下した。
エアコンの風にあたりながらひと息つき、本当に用事があったわけじゃないが、スマートホンの画面を見る。すると着信履歴がふたつと、メールが一通来ていた。
バタバタしていたせいで、気づかなかったらしい。どちらも鈴木からで、メールには出来れば午前中に電話がほしいと書いてある。外に出て、電話をかけた。
「悪かったね、気づかなくて」
『すみません。お休みのところ。急遽ミスターウィンの来日が決まりました。早速ですが休み明けの火曜の朝なら時間をとって頂けそうです』
「そうか」
ビジネスモードに切り替えて来週の予定の変更に関する相談の話をするうち、疲れも飛んだ。
さて、と飛香を探しに館内に戻り、展示に沿って見渡してみたが、飛香の姿が見当たらない。
まさか博物館の中で迷子ということはないだろう? 軽く呆れながら探し続けると、通路の隅に立ち、こちらに背中を向けて少し俯いている飛香を見つけた。
「違うの、私がどうしても行きたいって言ったの」
近づくと小さく声が聞こえる。
「やめてお兄さま。――大丈夫、私は大丈夫よ、本当に」
その声は、飛香が電話に出ている声だった。
話の様子から電話の相手は碧斗であることは間違いなく、洸は立ち止まって少し迷った。
割り込むべきか、このまま引き返すか。
「ここにはいないわ。私のせいで洸さんは疲れてしまったの。今ロビーで休んでいる。――違うわよ、洸さんはそんなことは言わないわ。用事があるって。でも、私にはわかるの。私がいけないの」
――え?