愚者になんてなるもんか
「妊娠した」
お腹を大きくした彼女はそう言った。
「この子はあなたとの子だと思う。だからわた」
「待て待て待て」
お気に入りのマテ茶を飲む手を止めて、わたしは彼女の話を止めた。
「何を言ってるんだ」
「……妊娠し」
「それは分かったから。分からんけど分かったから。なんでそんなこと言い出すんだよ」
彼女はきょとんとした表情でお腹を撫で続けている。
「わたしたち女同士だぞ?」
「でもできちゃった」
何を言っても無駄なのかも知れない。
「付いてないんだからできるわけないだろ」
「でも、でも、なんか分かんないけどできたの」
言い訳が苦しい。嘘をついているに違いはない。
「バカなこと言うなよ。てかわたしたち、今日初めて会っただろ」
「あなたを見てるとビビビーンって子宮に電撃が走った」
「で?」
「妊娠した」
まともに話ができる相手じゃないってのは分かった。障がい者なのか?あまりにもバカすぎる。
「それがわたしたちの子どもだって証拠はあんの?」
「……気がする」
「精神科行ってこい」
「産婦人科に行かなきゃ」
警察を呼ぶべきか?でも面倒くさくなりそうだ。2人で話し合いをするのが手っ取り早い。
「……そのお腹の中にいる子が、もしわたしたちの子どもだった場合、あんたは何をして欲しいの?」
「……責任を取って欲しい」
「金ってこと?」
「ううん、違う」
わたしの質問に彼女は当たり前と言わんばかりに首を振った。
「じゃあ何さ」
「……責任を取ってわたしと結婚して欲しい」
そう言った彼女の目は泳いでいた。というよりかは、照れていた。わたしの顔を見ずに地面に目をやっている。
「結婚って、お前なぁ……するわけないだろ」
「してくれなきゃ困る」
「諦めてくれなきゃこっちが困るんだ」
頬を膨らませた彼女はわたしを睨みつけた。それが挑発に見えて、わたしも彼女を睨んだ。
「……してくれなきゃわたしはこの子を下ろさないといけなくなる」
「だったら下ろせばいいだろ。わたしに責任なんてない」
「……好きになった人との子を……簡単に見捨てるような大人にはなりたくない」
自身のお腹に話しかけるように優しい口調だった。こればかりは嘘なんかじゃないと、わたしにだって分かる。
それに、好きになった人だって?彼女はわたしのことが好きなのか?好きだから、結婚してと言っているのか?
「……関係ない。わたしは親じゃないし、そもそもあんたのことは好きじゃない。他を当たれ」
「他なんてあるわけない」
「じゃあ諦めろ」
「どうしても、ダメなの?」
わたしの目をじっと見つめる彼女の瞳は、光を反射して宝石のよう見えた。しかしそんな宝石にも、濁りがあるように見えるのは、気のせいなのか。
「ダメだね」
「どうして?」
「……わたしには人を幸せにするとか、子どもを育てるとか、そんなのは向いてないんだよ」
綺麗に完結しましたね。
エイプリルフール企画です。間に合わなかった……。まぁ、いっか。