第七回
まるで屍のような顕成の体を、麻太智は丁寧に布団の上に横たえた。乱れていた上掛けを整えてやるが、最前までの狂態が嘘のように、老人はぴくりとも反応しない。もともと消耗していた体にはいかにも過大な負担だったのだろう。まず暫くは眠り続けることと思われた。
「その、荒城殿、父娘ともども見苦しくも無礼な振る舞い、まことに申し訳のしようもなく……私でつぐなえることでしたら、どんなことでも致しますゆえ……」
顕光は羞恥で顔を赤く染め、かつ自虐で涙ぐむという、器用ながらも気の毒な有様だ。半端に慰めても無駄だろうと割り切り、麻太智は枝葉を省いて状況を確かめる。
「つまり顕光殿が相談したいというのはこのことですか。顕成様の病は単に体だけのことではないと。しかもかなり良くない考えが去来しているようだ」
麻太智を婿にというだけならばまだしも、太政大臣の西園寺や蒼の君にまで仇なすかのごとき発言は、もし世人の耳に入れば顕成の身ばかりか三条家の存続すら危うくしかねない。
「父は……本当の父が、あのようなことを申すはずがありません。きっと父は魔に魅入られているのです。荒城殿、まことに畏れ多きことながら……」
顕光は言い淀んだ。果たしてこの先を口にしていいものか、という葛藤がありありと透けて見える。対して麻太智は迷わなかった。
「承知いたした。内々に御君にご相談申し上げましょう」
「……と、いうわけだ」
麻太智は数刻前の三条邸での出来事を語り聞かせた。相手の晴花は幼い頃は兄妹同然に育った間柄で、実際に血の繋がった従妹である。単衣に緩く袿を合わせただけの寝間着よりは多少ましといった格好で、膝を崩して座っている。
「はあ、そうなんですの」
晴花の返事はいかにも気怠げだった。だらしのない装いのことも含め、「ぴしっとしろ」と説教したいところだが、生憎と今の麻太智は女着物姿である。締まらないこと甚だしいのでひとまず流す。
「それで妾にどうしろと?」
「今の話を聞いて、何か思うところはないのか?」